魚影〜廃墟に棲む亡霊〜

作者 藤九郎

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★★★ Excellent!!!

繊細な筆致で語られる描写が、仄暗い世界を眼前にありありと映し出してくれるのが印象的。

テーマなどがあるのかは分かりませんが、男の容姿が変わるまでの間の心の方こそが重要な変化であるように感じる。
カメラという別の視点を得る事で自分の内面と向き合い、そしてその思いを自分の内で留めておけなくなり、外の世界へ。その時点で男はもう大切な変化を終えていて、姿の変化が無くても十分だったように思う。

しかしこの話をそれで終わらせないのが、魚影の存在。
魚影という存在の介入で、男に姿の変化というものが起こった。これは実際過剰な変化であるように思う。極端な変化はリスクを伴う。
今までの内容はこの男だけではなく。全ての人間に起こり得る事象であるのではないだろうか。

結果がどうであるのかは、各々がこの作品を読んだ後にどう感じたかという判断に任せたい。

Good!

じめっとした陰鬱な空気で始まり、しっとりとした涼やかな空気で終わる。無駄のない淡々とした文体で、文字が毛穴から染み込んでくるような錯覚を覚える。夏に読んだら気持ちがいいだろうなと思った。 

はっきり言って僕の好みではない。だが、作品は素晴らしい。好きになる人は絶対いるはずだ。

★★★ Excellent!!!

丹念な描写から来る、作品全体を覆う、幻想的でほの暗く不気味な雰囲気。
魚のような霊と一体化するという奇抜なシチュエーション。
そして皮膚と引き換えにするのなら、喉の乾きでもいいと受け入れる、男の感覚とそこに至るまでの意識の流れ。

安部公房作品を読んでいるかのように思えました。
文章力の高さはカクヨム随一でしょう。

読んでいて唸りました。文学仲間にもこの作品の凄さを知らせてきました。
皆様にも是非! この感動を!

★★★ Excellent!!!

物語全体を通して語られるのは、結局のところ、怪病を患った1人の男性が廃墟へ向かい、奇妙な体験をする話。

だがしかし、純文学のような語り口で語られる丁寧な描写は読者の心にいともたやすく写し出す。幻想さと入り混じり、独特の世界観を醸し出している。匂いに至るまで想像できる文章力と、正確な描写を描いたのち、男の目を通してみた比喩表現を重ねる手法は是非とも真似したい。
反比例するように、男性の心理描写は漠然としたものが多い。そのためか、非常に感情移入がしやすいのだ。「惹きつけられるものがあった」「うまく言い表せないが」「何かが足りない気がする」など、明確な答え、理由を提示しない書き方が読者の想像に自由を与えているのだろう。

これからこの作品を読む方は、程よく空虚に語られる主人公に自身を重ね合わせ、美しくも少し不気味な、奇妙な世界観に身を委ねてみてはいかがだろうか。

★★ Very Good!!

 皮膚の病に苦しむ様子から始まり、カメラを与えられたのがきっかけで写真が楽しみとなっていく様子が室内から夜の屋外へと移り……一枚の絵に引き寄せられて行く経緯が、非常に堅実で丁寧な描写で描かれ、すっかり物語に乗せられてしまいました。
 何故、ではなくいかようにそこに引っ張られていくのか、という点で非常に巧みな物語でした。屋敷で徐々に朝を迎える場面や、ドクダミやアトリエの匂いなどへの言及も作品に奥行きを与えているように感じます。
 ラストも一般的なオチではなく、表現者の心の中に潜む『深淵』に気づきながらもひとつ高みに上ったような結末で、とても好感が持てます。自伝なのだろうか、と少し感じました。そのくらいリアリティがありました。

★★★ Excellent!!!

読み終えた後に、無性に水が飲みたくなる作品です。
地の文でこんなにもぐいぐい読ませる作品はなかなかないと思います。一切の中弛みはありません。
暗がりから彼を救ったのが別の暗がりである点に、この物語の魅力があると思います。
生まれ変わった彼の今後を想像させる終わり方は大好きです。

★★★ Excellent!!!

筆者である、藤九郎さんの意図とは違うのかもしれませんが、私に伝わってきた事をレビューとさせていただきます。
この文章たちが私の心を掴んでしまうのは、自分の奥底にある何かを呼び覚ましてしまうからなのでしょう。
誰もが持っている、認められない部分、自分の嫌いなところ、もしかしたら、心の奥底に閉じ込めてしまって、そのまま忘れた気になっている事があるかもしれません。
藤九郎さんはせっかく私が隠しているものを、わざわざもっとも見えやすい私の肌に持ってきてしまって、目をふさごうにもふさげない、触らないで置こうにも、普段は気にも止めない髪の毛さえそれを突き刺してしまうのです。
おどろおどろしい描写が、あたかも催眠導入の様に、私を心の奥底まで連れて行き、見たくないものを付きつけます。
最後まで、おどろおどろしさを残しつつも、爽やかさを感じさせてくれるのは、私の心にこのように囁かれたからでした。
「誰もが認められない自分を持っているさ、でもね、いつか何とか折り合いを付けて、そいつとも仲良く出来るのさ」
誰もが抱えている普遍的なものを、すばらしい心理の情景化にのせて私に届かせてくれた――そう感じました。勉強になります。ありがとうございました。

★★★ Excellent!!!

江戸川乱歩、あるいは横溝正史、あるいは坂口安吾か

昔読んだおどろおどろした情景が甦り
まさにプロ作家さんの作品を読んでいるような
素敵な気分になりました

願わくば最後の落ちに
もう一捻りしていただければ
よかったと思うのですが

こんな着地の仕方も
アリだとは思いますので
あくまでも無いものねだりと言うことで

★★ Very Good!!

序破急すべての構成が完璧で言葉の選び方一つをとっても、この物語に最適化されたものでした。
星2なのは助動詞、副詞、接続詞などの細かいところがやや荒削りでその粗を文章力と構成力で押し切っている感じがしたためです。
ただ、この作品はプロトタイプじみていてなにかしら作者のたくらみがありそうなので、次回作も是非読みたいです

★★★ Excellent!!!

 悔しい。物書きとしてそう感じる事の出来る良い作品でした。
 主人公は「肌を病んだ男」としか書かれておらず、名前も出てくる事はありません。
 だというのに、彼の身体的特長や背景を丁寧に描写する事で、世の中に溢れる、名前の付いた登場人物を上回る個性を持たせる事に成功しています。
 さらには情景描写も巧みであり、廃墟に入るシーンなどは、今まさに自分がその場所に立ち入っていくような感覚がありました。
 私もこういった作品を書いてみたい。

★★ Very Good!!

陰鬱な雰囲気が文章から漂うようでついつい引き込まれる。
なんとも難儀な短編だ。夜に読むと胸の奥がかゆくなるような錯覚を覚えた。
淀んだ水の香りがするようでどうにも気分が悪い。
読み終わった時に大きく吐いた自分の息で、気付かぬうちに自分が息を止めていたことに気付いた。
これから読む方は大きく息を吸ってから読むことをオススメする。
溺れてしまわぬよう気を付けるべきだ。

★★ Very Good!!

作品を読み終えて、暫し物思いに耽りました。

魚のような亡霊はもともと人だったのか、それとも別の人の中に住んでいたのだろうか。いやそれとも、とある誰かの人生の中で絵という形で生み出され、男のように人知れず朽ちて行こうとしていたのだろうか。

暗い雰囲気の中で浄化されていく感覚。
余韻を残す良い作品だと思いました。

★★★ Excellent!!!

例えば自分が“あのテレビで見たことのある屋敷を見てみたい”と思ったとする。
しかし現実は“仕事”“家庭”“用事”でそこに辿り着くのは困難だ。
この物語はいとも簡単に、まるで異次元の扉を開けたかのように主人公と同じ目線で追記憶させてくれる。
主人公の目を借り、身体を借りて物語を進む中、きっとあなたは物語に取り込まれる。

短い中に男の人生の片鱗と未来をきっと体感出来る。

★★ Very Good!!

隠喩を駆使した文章は独りよがりになりがちだが、本作は読者がどこかで読んだような表現に収まっており、読みやすい。どこかで読んだような文、というのは、陳腐という意味とイコールではない。リーダビリティと文学的表現はいつもギリギリの折衝点を探るものではあるが、大抵の作者は文学的表現に傾倒し、誰もついていけないような手の込んだゴミを作る。その点で言えば、本作の作者は読者への配慮が行き届いていて、サービス精神溢れる作者だといえる。
まぁとにかく、いい人が書いてるから読め、ってことで!