陰鬱な雰囲気が文章から漂うようでついつい引き込まれる。なんとも難儀な短編だ。夜に読むと胸の奥がかゆくなるような錯覚を覚えた。淀んだ水の香りがするようでどうにも気分が悪い。読み終わった時に大きく吐いた自分の息で、気付かぬうちに自分が息を止めていたことに気付いた。これから読む方は大きく息を吸ってから読むことをオススメする。溺れてしまわぬよう気を付けるべきだ。
作品を読み終えて、暫し物思いに耽りました。魚のような亡霊はもともと人だったのか、それとも別の人の中に住んでいたのだろうか。いやそれとも、とある誰かの人生の中で絵という形で生み出され、男のように人知れず朽ちて行こうとしていたのだろうか。暗い雰囲気の中で浄化されていく感覚。余韻を残す良い作品だと思いました。
文章の美しさに魅せられました。丁寧な情景描写に、独特の世界観。読んでいくうちに物語の世界に埋没していく感じを味わえました。作者さんの多作品も読んでみたいです。
短編ながら、これだけの世界観を描いたことが素晴らしい
例えば自分が“あのテレビで見たことのある屋敷を見てみたい”と思ったとする。しかし現実は“仕事”“家庭”“用事”でそこに辿り着くのは困難だ。この物語はいとも簡単に、まるで異次元の扉を開けたかのように主人公と同じ目線で追記憶させてくれる。主人公の目を借り、身体を借りて物語を進む中、きっとあなたは物語に取り込まれる。短い中に男の人生の片鱗と未来をきっと体感出来る。
隠喩を駆使した文章は独りよがりになりがちだが、本作は読者がどこかで読んだような表現に収まっており、読みやすい。どこかで読んだような文、というのは、陳腐という意味とイコールではない。リーダビリティと文学的表現はいつもギリギリの折衝点を探るものではあるが、大抵の作者は文学的表現に傾倒し、誰もついていけないような手の込んだゴミを作る。その点で言えば、本作の作者は読者への配慮が行き届いていて、サービス精神溢れる作者だといえる。まぁとにかく、いい人が書いてるから読め、ってことで!