細かい描写と漠然とした心理描写の対比

物語全体を通して語られるのは、結局のところ、怪病を患った1人の男性が廃墟へ向かい、奇妙な体験をする話。

だがしかし、純文学のような語り口で語られる丁寧な描写は読者の心にいともたやすく写し出す。幻想さと入り混じり、独特の世界観を醸し出している。匂いに至るまで想像できる文章力と、正確な描写を描いたのち、男の目を通してみた比喩表現を重ねる手法は是非とも真似したい。
反比例するように、男性の心理描写は漠然としたものが多い。そのためか、非常に感情移入がしやすいのだ。「惹きつけられるものがあった」「うまく言い表せないが」「何かが足りない気がする」など、明確な答え、理由を提示しない書き方が読者の想像に自由を与えているのだろう。

これからこの作品を読む方は、程よく空虚に語られる主人公に自身を重ね合わせ、美しくも少し不気味な、奇妙な世界観に身を委ねてみてはいかがだろうか。

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