そこに至るまでの細やかな描写につい引き込まれる

 皮膚の病に苦しむ様子から始まり、カメラを与えられたのがきっかけで写真が楽しみとなっていく様子が室内から夜の屋外へと移り……一枚の絵に引き寄せられて行く経緯が、非常に堅実で丁寧な描写で描かれ、すっかり物語に乗せられてしまいました。
 何故、ではなくいかようにそこに引っ張られていくのか、という点で非常に巧みな物語でした。屋敷で徐々に朝を迎える場面や、ドクダミやアトリエの匂いなどへの言及も作品に奥行きを与えているように感じます。
 ラストも一般的なオチではなく、表現者の心の中に潜む『深淵』に気づきながらもひとつ高みに上ったような結末で、とても好感が持てます。自伝なのだろうか、と少し感じました。そのくらいリアリティがありました。

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