自分の意思で立ち、足で歩き、そして生き残るのだ。

青春とミステリーをはじめて組み合わせた作家は、偉大だと思う。
一見すると、明るくて爽やかな青春というものはミステリーとは縁遠いところにあるような気がするからだ。

しかし、光あるところに影が生まれるように、青春もまた明るくて爽やかな一面だけを持っているわけではない。
無知で無力で青い春を駆け抜ける少年少女は、大人になるにつれて鈍感になっていく“痛み”も敏感に受け止め、まだまだ未発達な定規の中で必死にもがいたり苦しんだりを繰り返す。
大人が聞けば、「そんな些細な話で」と感じてしまうような出来事でも、彼ら彼女らにとってはたった一つの紛れもない現実なのだ。

この物語の中では、そんな些細で重大な、当然のように残酷な現実と戦って生き残るための手段として、ジャンピング・ジャックの存在が仄めかされている。
ときに“操り人形”と訳されることもあるその名前だが、彼(あるいは彼女)に縋った人々は自分の意思でそうすることを選んだのだと思うと、皮肉めいたものを感じずにはいられない。

だって自身を操るのは、いつだって自分ではないか。

無知で無力な少年少女たちは、ときに無知で無力な自分自身に打ちのめされながらも、自分の意思で立ち、自分の足で歩き、そして生き残らざるをえない。
その苦さと、力強さを緻密な文章で描ききったこの作品に、私は最大限の敬意を払いたいと思う。

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