ノスタルジアの箱

作者 六月雨音

70

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★★★ Excellent!!!

それは、恋であったり、別れであったり。古い記憶でも、夢のようでもあります。
掌のなかにおさまるちいさな物たちだったり、遠く数百粁を超えて伝わる恋人の声であったりします。
真冬の凍みた青空であり、雨雲にかくれて見えない月でもあります。
詩のようであり、歌のようであり。未だ聴いたことのないリズムかと思えば、こちらの胸の奥に眠る感情を、ぎゅっとつかむものでもあります。

共通するのは、誰しも覚えのある(または、想像に難くない)身近でささやかな想い、でしょうか……。

丁寧に言葉を選んで語られる繊細なことどもが、とても愛おしく感じられる。そんな短編集です。

★★★ Excellent!!!

 最初から最後まで一息で読んでみると、最初はエッセイのように感じたのですが、いつの間にか詩のように感じました。この感覚はとても不思議で心地良く、このレヴューを書かせていただいている間も、ふわふわしています。
 小生が気に入ったのは、二人で異国の話をしようと提案する部分でした。お互いに12話ずつ話すから、倍の時間がかかるけど、それもいいねという素敵なやり取り。国名を見ていると、何故か旅に出たくなりました。おそらく小生もこの国々の「お話し」を話したり、聞いたりしたくなったのかもしれません。

 是非、御一読ください。

★★★ Excellent!!!

まるで蚕が命をかけて絹糸を吐き出すかのように産み出され、彼女が紡ぐ言葉達。
そんな繊細な言葉達が織りなす詩がこの箱には詰められている。

雨の濡れそぼる日に
月が照らす夜に
この箱を覗いてみる。

この箱を開ける者だけが纏うことができる世界がある。
是非この世界を堪能してみてください。


★★★ Excellent!!!

一番好きなフレーズは、『月明かり雨』。
著者自身が雨なので、雨が降っては月の君に出逢えないが、お天気雨のように『月明かり雨』もあるのだと。
また、『恋るす惑星』のような、ロマンティックな言葉遊びも面白い。
一つ一つのフレーズが、いつしか置き忘れてきた少女や少年の心をハッと思い起こさせてくれるような、透明で綺麗な何かで出来ている。
かと思えば、その置き忘れてきた心のまま、強かに恋心を弄ぶ純粋な片想いが飛び出したりもする。
著者がよくなくしてしまうと語っている、気に入りのおもちゃの指輪のような、大切な言葉に溢れている。

★★★ Excellent!!!

 切なく甘酸っぱい想い。その褪せることなき煌めきを大切にしまいこんだ小箱の中身をこっそりと見せてくれています。
 耽美で幻想的な心象風景が儚く浮かび上がってきて、ほうっと溜め息を洩らしてしまいます。
 ここは息をひそめて密やかに読み耽る世界。静かに落ち着いた心でその色に染まりたい世界です。

★★★ Excellent!!!

この惑星を構成する元素の数を、種類を、私は知らない。
およそ70億超の人が住む地球という惑星で、平均80年ほどしかない一生の中で、私たちが知ることの出来るものはとても少ないし、出会うことの出来る人はもっと少ないだろう。

宇宙の果ては遠く、とても近い位置にいるはずの月でさえ38万km以上の距離がある。
時速270kmの新幹線に乗っても2ヶ月近い時間がかかる計算だ。
隣の惑星に至っては、金星が4200万kmで火星が7800万kmだという。

そんな遠い遠い場所に、彼女はちょっとそこまでと言うようにふらりと出かけてしまう。
だから留守にすると思う、なんてあっけらかんと笑う彼女は、まさに恋する惑星。いや恋るす惑星。

彼女の想いは、ウインクは、言葉になって光になって姿を変えながらぐんぐんと惑星の彼方を目指していく。
光の尾を引く彗星のようだ、と私は思った。気がつけばその光に恋をしていた。

どのくらいの距離があるのだろう。そんなこと全然わからないけれど、その光の欠片は私が握りしめた小さな窓に降ってきた。この広い銀河系で、天文学的な確率で。

会いたかった。そんな言葉が、どちらからともなく生まれる。

夜の暗闇で、液晶ディスプレイの光がぼうっと輝いた。
あぁ、私は今。恋をしている。

★★★ Excellent!!!


 だけどその方が、ちょっとたのしい。待ちわびる切なさの向こう側から、きっといつかやってくる甘やかな夜の美しさ。

 そこに描かれている思いは、待っている、待ち続ける痛みだけれど、その繊細な文字の上には、書かれていない向こう側から、ふっと甘美な色彩がにじみ出る。そして痛みをともなった言葉は、誰かに届いて欲しい言葉は、真っ白な空中を舞う言葉の花束。

 詩とは、空中の花束である。いつかそう書いたのは誰だったか、とおい誰かへ宛てた花束は、その文字の空中に漂う香りは、たしかにきらめく寂しい詩として、きっと、見てくれるかもしれないなんて、あまりに心もとない期待となって、淡くふわふわ漂っている。その切なさは、届いたのか、それとも届かなかったのか、それは差出人と受取人にしかわからず、わからないまま、色は移って、いつしかみな郷愁になってゆく。

 そんな郷愁のつまったノスタルジアの箱に、こっそりしまわれた誰かへの手紙が、移り気なあなたのとおい未来、今この時が過去になった頃、もう一度そっと開かれて、少しだけ甘やかな残り香を漂わせる。その日に、想いを馳せずにはいられない。

 そんな、切なさと痛みと、やって来る幸福と、そしてそれらが郷愁になっていく時の、美しい瞬間を大切に集めた、とっても素敵な、ノスタルジアの箱。

★★★ Excellent!!!

数ある花のなかで、紫陽花をもっとも愛する
わたしだけれど、それを打ち明けるまえに
あなたはわたしのなかに紫陽花の色を
読みとってくれましたね。

むかしね、紫陽花が好きだといったら
花言葉をわざわざ教えてくださる方がいて

「紫陽花には高慢、移り気な方、貴女は冷淡です、
乙女の夢、などという意味があるのだそうです」

と聞いてもいないのに、わたしにむけて
そんな呪詛を吐いたそのひとが誰だったか
もう名前も覚えてないのに、そういわれたことは
わたしのなかに火傷のように痕を残しているの。
その言葉にこんな返事をしたことも。

「それだったら、あの花が少女だとして
美しくて傲慢で冷たくて、ふたつの相反する心を持っていて
どちらがほんとうの自分なのか自分でもわからなくて
それに苦しみながら、おもてにはいっさい表すことなく
内面で叶わない夢を育んでいる乙女、ということになりますね。
おともだちになりたい! と思ってしまうわたしは
どこかおかしいんでしょうか?」

なんて馬鹿なことをいって、相手を黙らせてしまいました。
そして言葉にしてからね、わたし、自分が少女だったら
紫陽花のような少女になりたかったんだ、と気づいたの。

あなたがそんな夢を叶えてくれました。
紫陽花の「少女」を、詩のなかに閉じこめてくれて、ありがとう。
あなたの詩のなかで、わたしが生きることができたらいいのにね。

レビューではなく、長いお手紙になってしまいました。
感謝と愛をこめて。

あなたに紫陽花の祝福を。

Good!


 僕の灯りは淡くてみにくい。
 黄色い色に白が混じって、自慢できる灯りじゃない。
 それでも貴女はこの色を、綺麗だねと言ってくれた。
 遠い昔に葉の陰で。


 そして聞こえる。いつかの声色。
 こっちの水は甘いと歌う、伸びやかで艶めいた声。
 僕は知ってる。
 あのひとは嘘を言ったりしない。
 だから僕は誘われる。



 向こうに見える山並みに、貴女の影の幻を見る。
 僕はこれでも精一杯に、足を動かし背を羽ばたかせ、消えゆく跡を追いかける。
 僕は夜汽車を使わないよ? 
 使えないよ。
 貴女を追い越したくなんて、ないから。


 移り気な貴女。
「浅い眠りの夜風がもらす、微かな声を聞きたいから――
「月に絆(ほだ)され心を許した、石達の色を見たいから――
 そんなどうしようもない理由で、汽車から降りて行ってしまう。
 僕に予測は出来ないよ。
 もし、追い越してしまったら。
 そんな事を考えて、僕は夜汽車のホームを去るんだ。
 もし、貴女の後ろに立ってしまったら。
 後ろに隠した籠なんて、僕は見たいと思わない。


 僕が知ってる星座なんて無い。知ってる星は一つだけ。
 小夜曲なんて僕は弾けない。覚えてる音は一つだけ。
 僕の灯りは一つだけ。
 貴女の興味を引けたのは奇跡で、飽きられたのは必然なんだ。
 戯れに手のぬくもりを与えられ、気まぐれに解き放たれた見知らぬ地。
 僕は貴女の影を追う。


 貴女は気の多いひと。
 そして、嘘を言わないひと。
 月の形の数ほどの愛する気持ちを知っていて、雨音の数だけ好きを言える。
 僕にこっそり教えてくれた貴女の心を占める恋。
「いつまで経ってもこっちを向いてくれないあの眼差しは、お月様と言うのよ」
「湿っぽく心を叩いてくる音は、雨音というのよ」
 声は止まない。
 どこかでも、誰かに教えてた。
 誰に送った言葉も真実。


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★★★ Excellent!!!

テーマに密接する事柄の連想が妙実にする世界の成り立ち。
浮かび上がる儚くもおぼろげな情景は、目の保養になるようです。
有意義な時でした――いずれまた、作者さまの華美な心象風景にお邪魔させてください!
ではまた。本日もお疲れ様です。