月は気まぐれ、恋は留守。


 だけどその方が、ちょっとたのしい。待ちわびる切なさの向こう側から、きっといつかやってくる甘やかな夜の美しさ。

 そこに描かれている思いは、待っている、待ち続ける痛みだけれど、その繊細な文字の上には、書かれていない向こう側から、ふっと甘美な色彩がにじみ出る。そして痛みをともなった言葉は、誰かに届いて欲しい言葉は、真っ白な空中を舞う言葉の花束。

 詩とは、空中の花束である。いつかそう書いたのは誰だったか、とおい誰かへ宛てた花束は、その文字の空中に漂う香りは、たしかにきらめく寂しい詩として、きっと、見てくれるかもしれないなんて、あまりに心もとない期待となって、淡くふわふわ漂っている。その切なさは、届いたのか、それとも届かなかったのか、それは差出人と受取人にしかわからず、わからないまま、色は移って、いつしかみな郷愁になってゆく。

 そんな郷愁のつまったノスタルジアの箱に、こっそりしまわれた誰かへの手紙が、移り気なあなたのとおい未来、今この時が過去になった頃、もう一度そっと開かれて、少しだけ甘やかな残り香を漂わせる。その日に、想いを馳せずにはいられない。

 そんな、切なさと痛みと、やって来る幸福と、そしてそれらが郷愁になっていく時の、美しい瞬間を大切に集めた、とっても素敵な、ノスタルジアの箱。

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