飛行機に魅了され、飛行機を愛する老人と出会った主人公が、子供の頃の夢を追い続けて「今」に至るまでの過程が、優しく語られていきます。
少年時代の主人公を導いた老人は、物語後半で自身のことを語ります。彼が現役だった頃の時代背景が明らかになった時、主人公に夢を託した老人の思いや、老人の思いをしっかりと受け止めた主人公の決意が、実に印象深く心に迫ってきます。
かつて世界に誇る航空技術を誇った日本は、戦後、航空機産業を復活させるまでに非常に長い道のりを辿り、航空事業後発国として苦難の道を歩んだのですが、そういう歴史を鑑みながら拝読する時、この作品の美しさがますます際立って感じられます。
だから飛行機に憧れる人々はみな、子供のように無邪気なのでしょう。現在と過去の回想という二つの世界を交互に行き来しながら、主人公の飛行機への憧れが美しい文体で語られていきます。
「飛行機に憧れ、空を飛ぶことを夢に見ない少年はいない。」作者の描く作品世界は、ヒコーキや少年を多く描いた、イナガキタルホの再来にも思えました。繊細に構成された世界は、ずっと肌を浸していたい、清冷でどこか懐かしい世界でした。
作品に出てくる、子供のような目をした人々。それは主人公も同じで、少年の憧れを持ち続けるものは、大人になっても少年であり続ける。空に憧れた少年は、大人になって夢を叶えた。でも、彼はまだ少年であり続けています。彼の出会った人々もそうです。飛行機は、少年の夢だからだ。だから、彼らはずっと少年なんだ。
忘れたくなかった少年の心を、思い出させてくれる素晴らしい作品です。