返し歌 羽を閉じる
- ★ Good!
僕の灯りは淡くてみにくい。
黄色い色に白が混じって、自慢できる灯りじゃない。
それでも貴女はこの色を、綺麗だねと言ってくれた。
遠い昔に葉の陰で。
そして聞こえる。いつかの声色。
こっちの水は甘いと歌う、伸びやかで艶めいた声。
僕は知ってる。
あのひとは嘘を言ったりしない。
だから僕は誘われる。
向こうに見える山並みに、貴女の影の幻を見る。
僕はこれでも精一杯に、足を動かし背を羽ばたかせ、消えゆく跡を追いかける。
僕は夜汽車を使わないよ?
使えないよ。
貴女を追い越したくなんて、ないから。
移り気な貴女。
「浅い眠りの夜風がもらす、微かな声を聞きたいから――
「月に絆(ほだ)され心を許した、石達の色を見たいから――
そんなどうしようもない理由で、汽車から降りて行ってしまう。
僕に予測は出来ないよ。
もし、追い越してしまったら。
そんな事を考えて、僕は夜汽車のホームを去るんだ。
もし、貴女の後ろに立ってしまったら。
後ろに隠した籠なんて、僕は見たいと思わない。
僕が知ってる星座なんて無い。知ってる星は一つだけ。
小夜曲なんて僕は弾けない。覚えてる音は一つだけ。
僕の灯りは一つだけ。
貴女の興味を引けたのは奇跡で、飽きられたのは必然なんだ。
戯れに手のぬくもりを与えられ、気まぐれに解き放たれた見知らぬ地。
僕は貴女の影を追う。
貴女は気の多いひと。
そして、嘘を言わないひと。
月の形の数ほどの愛する気持ちを知っていて、雨音の数だけ好きを言える。
僕にこっそり教えてくれた貴女の心を占める恋。
「いつまで経ってもこっちを向いてくれないあの眼差しは、お月様と言うのよ」
「湿っぽく心を叩いてくる音は、雨音というのよ」
声は止まない。
どこかでも、誰かに教えてた。
誰に送った言葉も真実。
どこにも嘘なんてなかった。
貴女の声が、聞きたい。
苦い水と歌わない限り、僕は世界を飛べるんだ。
籠を隠してくれるなら、貴女の周りを無邪気に飛べる。
また気まぐれに、細く長い指を反らせて誘ってくれたら、指先で、気が済むまで光ってみせる。
もしも、二度目の奇跡が起きて、僕を捕らえてくれるなら――
入れられたのは小さな籠。
黄金に光る甲虫。
瑠璃色に閃く小さな羽虫。
どこで捕まえたのだろう。水の中で生まれた虹の様な、碧の灯を持つ遠い僕の仲間達。
僕に羽を広げられる場所は無い。
飛ぶ必要の無い貴女の檻。
望んだ獄。
籠絡の蟲籠。
僕は知ってる。
貴女は嘘を言わないひとだ。
いつかまた、気まぐれに、「綺麗ね」と微笑んでくれる時のために。
どれが僕なのかを忘れられないように。
僕は僕だけの灯りをともす。
いつかまた、手のぬくもりをもらえるように。
僕のままで、待っています。
いつかまた、優しい言葉をもらえるように。
いつかまた、甘い水を飲ませてもらえるように。
いつか、情を教えてもらえますように。
いつか――
お願い神様。
永遠を、下さい。