もしもこれがミステリー小説であるならば、おそらく不十分だ。
謎は提示されていないし、謎を解く役目を担った人物も不在だから。
しかし、倒叙ミステリの冒頭部分であると思って読めば、わくわくする文章であることは間違いない。
やや矛盾した表現に聞こえるかもしれないが、登場人物はどこかリアルなフィクション感を持っており、それこそ日本ではなくヨーロッパなどの映画やドラマで描かれるような暗く静かな人間性が印象に残る。
物語として、というには短すぎる時間かもしれないが、映画1シーン分の迫力は十分、このわずかな量の文章の中に詰まっていると感じた。