これぞまさに純文学

一言で言うなら時代背景と心理描写が秀逸な作品です。

時は大正――
思いを通わせる手段は手紙――
娯楽、ファッション、生活様式、見合い結婚が一般的なことも含め、時代背景一端を担う地の文が街を行き交う人々のように心地よく流れていきます。

無礼で失礼極まりない男……それが、やがて得難い人に変わりゆく心理の変化に注目してみてください。

紡がれる恋愛感情に見えない心の深みと奥ゆかしい変化とを堪能できることでしょう。


心を許しつつ、己の恋に気づいた喜びの笑みも。

焼け焦げてしまう程に襲われる一抹の羞恥心も。

彼と紡いだ思い出の全てが消えてしまう恐怖も。

嗚咽が漏れ、理性を叩き壊すほどに流した涙も。


あらゆる感情の波が押し寄せ、それまで抑えていた心の防波堤を破砕する力がこの小説にはあります。

作者様の心血注いだ結晶が、思いが、ここに結実することを、そしてこれまでの集大成として幅広い世代へと読み継がれることを一願として祈って。

改めて純粋に思う。
こういう純文学っていいなぁ。

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