第6話     焼けた家とドラゴン肉

「はぁ、五年間苦楽を共にして、自分の手でリフォームしてきた拠点が・・・。」



悔しくはあるが家の方向を背に戦っていた俺の落ち度である。


ダンジョンの入り口にはモンスターは寄り付かない。

勿論ダンジョンからモンスターが出てきた迷宮氾濫の時はその入口からあふれ出てくるのだが、暫くすると全く近寄らないようになるのだ。

仮説だが、俺はモンスターが自分を縛り付けていたものに対して本能的に怖がっているのでは無いかと考えている。

そんなこんなで五年前の迷宮氾濫時に奇跡的に残って以降、家の付近でモンスターと戦ったことが無かったので考えが及ぼなかった。


戦闘中にそんな些細な事を考えていて良いのかと思うかもしれないが、助けが来ないこの地で、尚且つ仲間がいない俺にとって戦闘のことだけ考えているわけにはいかないのだ。

今日の寝床は?食糧の残量は?弾の残数、装備の消耗は?体力は持つのか?

常に生きるために先のことを考えて動かなければ詰むのだ。

それを前提にすると今回のは正に失態。まあ大事なものや貴重なものはマジックバグに入っているのでそこまで致命的ではないので、次への教訓にするとしよう。


草を片手剣で薙ぎ払い作った家(跡)前の空き地にペグを打ち、モンスターの皮を繋ぎ合わせて作ったモノポールテントを張る。

迷宮氾濫時に完全に破壊された家が多く、数少ない原型を保っている廃屋なんていくらでもあるんだが五年間風雨に晒され、人の営みの痕跡残る部屋は端的に言って汚く・・・。

ダンジョン探索や遠出した時の野営用に持っていたテントを使うことにした。

降るかどうか微妙な空模様だが念のた、雨水が入ってこないよう、テントの周りを片手剣で掘って小さな溝を作っておく。

尚、このサバイバルナイフのように使っている片手剣、ダンジョンの宝箱から見つけたものでオリハルコン製の少し幅広な剣身を持つ剣で、切れ味はともかく錆びず丈夫で使いかってがいいことから戦闘以外でもこうして使っている。




「ほとんど何も残っていませんでしたもんね。残念でしたね。」



足元の影から出したタープのような大きい布を木と木の間に紐で張り、三角状の屋根を作るシエス。

言葉遣いも丁寧だし一見お嬢様みたいに見えるが、野営には手慣れていそうだ。



「その影から物出せる技便利だな。スキル?」



ダンジョンに入って魔力を得た時、人によると極まれに何らかの特殊能力を会得することがある。

まだギリギリネットが生きていた頃見た記憶では【スキル】とSNSで言われていた。


人よりも度をこして感覚器官が優れていたり、力が強かったり。

魔法杖無しに炎や氷を操ることができたり。

人間の身体能力の延長のようなものから、魔法のようなまさに超能力といったものまで、多様な能力のスキルが確認されていた。

それでも持っている人の数自体はとても少ないらしいが。


因みに俺は、一つスキルを持っている。

あまり戦闘に直接使えるものではないが、この生活をしているうえではとても便利なスキルだ。



「はい。でもそっちの亜空間収納のアイテムバッグのほうが便利だと思いますよ?時間も止まらないですし、ある程度大きな影がないと使いづらいですから。私も宝箱探してみよっかな・・・・。」



俺が今持っているマジックバッグはダンジョンのかなり深いところで見つけた宝箱から出た亜空間収納系のものだ。


ダンジョンで見つかるマジックバッグには空間拡張系と亜空間収納系の二種があり、空間拡張はあくまで既存の空間を拡張しているだけなので中の時間は止まらないが、亜空間収納系は鞄内に別次元の空間を作成するので中では時間が止まり(正確には限りなく遅くなっているだけだが)腐敗もしない。

その代わりある程度深くの宝箱からしか出ないのだ。

もっと早くこれがあればよりたくさんの今では手に入らない食材や調味料を保存できたのに・・・・!



「マジックバッグも便利だけど大事のものが入っているから失くしたり奪われたりしたら大変だし、肌身離さず持っているのも大変だし。

万が一戦闘時に破れでもしたら目も当てられんわ。」



今持っているのはダンジョンの深層産なので丈夫っちゃ丈夫だが流石にドラゴンの攻撃にたえられるとも思えない。

尚、破れた際にはその空間から一気に内容物が溢れだし、中身のものをロストすることはないが入れていたものによっては生き埋め状態になるので注意が必要だ。(経験者は語る。)



「ふぅ~ん、一長一短ですか。」

「だな。」


家から離れて作っていた薪小屋から、薪を取ってくる。

草に延焼しないように地面を掘り起し、そこに2本の薪を枕木として置きその上に並列上に薪を並べていく。数ある焚き木の組み方の中でも火力調整が容易で安定した火力で燃えるため、調理に向いている組み方だ。


バッグの中から火の魔法杖を出して手に取る



「ちょっと離れてくれ。」



ボンっ。

薪をかすめるようにバスケットボールほどの火の玉が飛翔し、そのまま地面に着弾して弾けて消える。

切ってから薪小屋で暫く乾燥させていた薪には火がついていた。



「魔法杖も魔力さえあれば火がつけられるから便利なんだけど、威力の調節できないのがな・・・・」



ともあれこれで火の用意はできた。

バッグからスキレットや飯盒、包丁、直火用の串など無駄にあるアダマンタイトを使って作った調理器具を出していく。

最後に、今日のメイン食材である切り分けたドラドンの胸肉をトレント製のまな板に載せる。



「意外と鶏肉っぽい見た目なんだよな。さて現代調味料がない中何を作るか・・・・。」



あのいかつい見た目に反して見た目は割と淡白な色で、少し色は赤っぽいが一見皮を剥いだ鶏の胸肉に見える。

いや、でも蛇の肉は鶏に似ているって聞いたことがあるし、あの緑鱗竜っていうドラゴンも若干爬虫類っぽさがあったからあり得なくはないのか?

う~ん、何を作ろうか。

普通未知の食材を使って料理を作るのならば、外来種を料理人に調理してもらうかのテレビ番組のシェフのように一口分焼いて味を確かめたりするのかもしれないが俺はしない。

鑑定機さまのお告げによりある程度の美味しさは確約されているので、余程のへまを打たなければひどいことにはならないはずだ。

それにその方がワクワクするじゃないか。



「よし、決めた。」



ドラゴンの胸肉を二つに切り分け、筋を取り除きそれぞれ厚みが均等になるように開き、肉の両面にしっかりと塩と迷宮コショウ(冗談ではなく本当にそういう名前なのだ)の乾燥させ砕いた実をふる。

皮目に刻んだ迷宮バジルと迷宮ローズマリーをまぶし、指ですり込むように押さえつける。


そうこうしているうちに火が調理できるくらいに落ち着いてきたので、水平になるよう並べた太い薪の上に網を置き、スキレットを置く。

フライパンにオリーブオイル(マジックバックに少しだけ残っていたのでこれだけは正真正銘のオリーブオイルだ)をひき、皮目を下にして焼いていく。

こんがりと焼き目が付いたら裏返して蓋をし、何分か蒸し焼きにする。どうやらパリッと焼けたみたいだ。


皿に盛り付け、これだけでは味気ないので迷宮トマトと迷宮レタスをのせて彩りをプラス。



「レモンかけていいか?」

「?どうぞ。」



これまた迷宮産のレモンを絞って掛け、軽く炙っておいた作り置きしていた丸パンを別皿にのせてはい完成。



「お待たせ。ドラゴンの香草焼き、どうぞ召し上がれ。」

「おお、少なくとも見ためと匂いは美味しそうですね!」



トレントの素材で作った携帯机を組み立て、薪にするために切り倒した木の切り株を椅子に座る。



「では、いただきます。」



先程まで生きていたドラゴンの肉や野菜などの自然の恵み(ダンジョンに生えている野菜が自然かはともかく)に手を合わせる。



「?何ですか?」

「ああ、この国では食事をとる前にこう言って、自分の糧とする命に感謝するんだ。自分が彼らの命を食らうことで生き、それを無駄にしてはいけないことを忘れないためにもね。」

「へー、良い文化ですね。」



俺も普通に現代生活をしているときはそんなこと思わずただ慣習でしていただけだったが、この狩猟生活のような生活をし始め、自分の手で生き物を殺しそれを食料にするようになってそう思うようになった。

ここでは五年前まで地球の支配者として君臨していた人も、生態系の一部でしかない。

ひとたび狩りに赴けば、どちらが狩られるか、生きて相手を糧にするかの立場の押し付け合い。

そこに人間の絶対的な優位は存在しない。

モンスターも必死に生きている。ダンジョンから出れば彼らも俺たちと同じ生物なのだから。

だが、狩らなければ生きられない。

だからこそ、己の糧となった彼らに感謝を。


まあ日本の文化だからシエスが知らないのも当たり前・・・・うん?



「なあ、すごい今更なんだけどなんで日本語話せてるんだ?」



余りにも自然に会話ができているため疑問に思わなかった。



「・・・・そういえば、なんででしょう?」







え、怖。







「ま、まあ冷めないうちに食べよう!」

「そ、そそうですね!」


手を合わせて「いただきます。」と言いナイフで肉を切りフォークで口元に運ぶシエス。

やはり、一人で過ごしてきた割にはその所作はとても上品に思えるのだが何か理由があるのだろうか?

俺も肉をナイフに通す。



「柔らかいな。」

「そうですね。」



ゴクリと喉を鳴らし、二人はドラゴン肉を口に運ぶ。


「美味っ」

「う、噓。お、美味しい・・・。」



噛んだ瞬間ジュワっと溢れ出る肉汁の旨み。

よく脂がのっているが上品な脂でくどくは無く、繊細なバランスを維持して成立する味。

シエスに至っては驚愕に目を見開き、カタカタとフォークを震わせている。



例えるならば、



「「超うまい鶏肉」ですね。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る