第14話 交流
「(シエス。)」
「(ええ、コージさん。)」
「(ああ。)」
「「(・・・・めっちゃ怪しまれてる・・・。)」」
笑顔を顔に貼り付け、まるでクマに出会ったかのようにゆっくりと後ずさる三人。
「つ、連れが怪我をしておりまして。謝礼の方は後ほどギルド青森支部で・・・。」
何でだ。何がいけなかったというんだ。
彼らの装いを観察する。
・・・・見たところダンジョン中層の宝箱から頻出する、迷宮産武器と防具・・・だな。
武装しているという意味では自分と同じだし、特に不審なこともしていないと思うが・・・。
そこで、彼ら全員が戦いにおいては不利と言わざる得ない蛍光オレンジの腕章を、揃って身に付けているのが目に入った。
・・・なるほど。
考えればわかる話だ。
彼らの装いは迷宮産の革鎧やプレートアーマなど、一見物語の冒険者に見えるが、その下に着ているウェアやインナー、小物類は工業製品だ。
よく言えば小綺麗。
文明は、現代的な社会は存続している、そう考えていいだろう。
逆に考えれば、社会の安全を維持するため、武器を持ち、同じ人間として比較にならないほどの身体性能を持つ、彼らのような人が野放しにせずきちんと管理されているということになる。
腕章に刻まれたマークとフィルムに入れられた個人情報が書かれた紙。
あれが恐らく許可証だとか所属を示すものなんだろう。
人が退去したはずの土地にいる、自分たち以上の武力を持つ所属不明の人間。
あっやしいー・・・・。
うん、俺でも怖いわ。
さて、どうしようか。
見捨てるのもどうかと思って、成り行きで助けてしまったが何のプランも考えていない。
取り敢えず函館まで進んで現地や対岸の様子を確認してから、渡る方法やその後の予定を考えようと思っていたのだ。
こんな早くに人と接触するとは思いもしなかった。
今の俺って、法律的にどうなるんだろう?
銃、剣の不法所持と使用、各種危険物の密造・・・。
改めて考えると結構ヤバい。
自衛権・・・は流石に無理があるよな。好きで残ってたんだし。
そして、俺もシエスも、思いっきり武器を使うところを見られてしまっている。
あれ?結構まずくないか?
俺たちが取れる選択肢は三つ。
一つ目、この場はとんずらし、こっそりと本州に渡る。ただ、以後の日本で取れる行動が著しく小さくなる。犯罪を認めるようなものだからだ。正味本当にヤバくなっても、自給自足できるのでダンジョン内に潜ったりここに戻ってくればいいのだが、お天道様のもとを歩けなくなるのは確実だ。それは嫌だ。
二つ目、無かったことにする。一番楽だが、流石にヒトとしてないし、そこまで切羽詰まっているわけでもない。
三つ目、懐柔策。うまくいけば情報も手に入るし、本州に渡る足を確保できるかもしれない。
よし、ダメでもともと、取り敢えずこれだな。ダメだったら一つ目にプラン変更だ。
さて、まずは話しを聞いて貰わなければ・・・。
このチームのリーダーだろうか?片目に眼帯をしたスキンヘッドの大男という、山賊の親玉みたいな人物におんぶされている、足から血を流している女性を見る。
出血が酷いのか、顔は青くぐったりとしている。
確かに、急いだほうがいいだろう。
「おお、何ということだ!ケガしているじゃないか。ポーションをあげよう。」
浩二が懐から緑の液体が入ったガラスの小瓶、中級回復ポーションを取り出し、ハンター達が気づいた頃には女性の右足にかけていた。
その動きを、ハンターたちは目で追えなかった。
気づいたら自分達の横に音もなくいたのだ。
「!!!!ッ何をした!?」
「大丈夫、毒じゃない。落ち着きな。」
「断りなく液体ぶっかけられて落ち着けるかぁ!」
「あれ、直ってる・・・」
「「「ミサトっ!?」」」
スパッツの下、深々と見えていた傷口は塞がり、顔色も随分と回復した女性がむくりと体を起こす。
「ま、まさか本当に回復ポーションを使ったのかっ!?」
「マジで一瞬で治ったわ。下級じゃなくて中級よ?」
「オークションに出せば8000万はするんだぞ。どういうことだ。」
「何だ、何が目的だ。」
こそこそ話しているつもりなんだろうけど、丸聞こえなんよな・・・。
それにしても中級ポーション1つで八千万か。
あと200本ぐらいはあるな・・・。
下層にまで行けばハズレとして沢山宝箱から出るのだが、そこまで潜れる人はまだ少ないのだろうか?
「悪徳商人みたいに後で金を請求するようなことはしないので安心しな。
なに、ちょっと情報が欲しいのと俺の話を聞いてもらいたいだけだよ。」
浩二はニヤリと笑って言った。
「うわー胡散臭い顔している・・・」
「何でだよ。清々しい良い笑顔だろ。」
「鏡見返した方が良いですよ?」
おかしいな。ブラック企業で身に付けた、爽やか営業スマイルをしたつもりなんだが・・・・。
「き、貴重なポーションを使って頂きありがとうございます。」
「いいよ、勝手にやったことだしね。それで、話し聞いてくれる気になってくれたかな?」
「どうする?」
「聞いてもいいんじゃない?そこまで悪人には見えないし。」
「別に人に害がある行為をしているのを見たわけでもないし、いいんじゃないか?」
「個人的に気になるな。何であの強さで話題になってないのか。」
全部聞こえてるんだよなぁ・・・。
「たかだか5年、ここに引きこもってダンジョン潜ってたただけだよ。」
「・・・こもる?」
「おい、なんか言ってるぞ。」
「この魔境にってことだよな?」
「ダンジョンから出ても魔境のこの土地で?何で?」
「正気なのか?俺なら気が狂うぞ?」
「やっぱり狂人か?」
だから聞こえてるんだよなぁ。
誰が狂人じゃい。
「ネットもインフラも人との関わりも何も無いけど、結構楽しいよ。少なくとも会社勤めの頃よりずっと。あと敬語じゃなくていいよ。」
会社じゃ敬語を使う側だったし、山賊みたいな格好をした人に敬語を使われるのは違和感がすごい。
「い、いいのか。慣れないから助かるが・・・。」
おっかなびっくりといった様子で、山賊風の男が言う。
「別にそんなに警戒しなくても。」
「こんな僻地で、自分よりもよっぽど強い身元不明の男女相手を前にそれは無理があるのだが・・・。」
それはそう。
俺も最初シエスと会った時は怖かったもん。
まあともあれ、多少は肩の力を抜いてくれたかな。
「まあ取り敢えず自己紹介といこう。俺は浩二、こっちで借りてきた猫みたいになっているのがシエス。」
俺の一歩後ろでさっきから一言も言葉を発していない、借りてきた吸血鬼を差して言う。
「牧田広。こいつらと一緒にハンター活動をしている。一応これでもAランクパーティー何だぜ?」
うん、変に敬語を使うよりもそっちの方が余程様になっているよ。
話した感じ、普通に常識人っぽそうなのだが見た目があれだから・・・・。
「ハンター・・・?Aランクって何だ?」
「・・・・ほんとに知らないのか。」
「篭ってたって言っただろ?」
「・・・何でそんなことしたのか聞いていいか?」
「最初は自暴自棄。その後は単純にこの生活を気に入ったから。」
「・・・・そうか。」
本当に、よくあの時に死ななかったものだ。
正気を保っていたら、あんな無茶なことはしなかったはずだ。
ただ己の衝動に身を任せ、落ちていたサバイバルナイフでボロボロになりながら小型モンスターをめった刺しにし、導かれるようにダンジョンへ潜り、宝箱から出てくる武器をとっかえひっかえし奥へと進んだ。
その激情が納まり、地上に出た時には周りには誰もいなかった。
何故死ななかったのか、不思議なくらいだ。
だが、その無茶と暴走があったからこそ、今の俺がある。
「それで、ハンターって言うのは猟友会とかそういうやつか?大丈夫かい?頭のおかしい愛護団体からの的外れなクレームとか殺到してないか?」
「俺たちみたいに、一般的にはダンジョンに入ってモンスターを狩ったり、素材を採取して地上に持ち帰ることを生業にする人のことだ。本当は堅苦しく長い正式名があるんだが、皆そう呼んでいる。どちらかというとラノベやネット小説でいう冒険者とか、探索者とかそんな感じだ。まあ、そういう団体も居るにはいるんだが・・・。」
いるのか。
まあそういうバカな輩はどこにでも居るもんか。
それにしても、モンスターを狩るハンター、ねえ・・・。
モンスター○ンター・・・・・いや、これ以上は止めておこう。
ともかく、随分とファンタジーな世の中になったものだ。
「一応、国は維持できているという認識でいいかな?」
「ああ。そら一時期はかなり荒れたし、今も復興途中だが多少は安定してきているよ。皮肉なことに、ダンジョンから食料と資源が穫れるからな。
ダンジョンで滅びかけ、ダンジョンで復興する。皮肉なもんさ。滅んだ国も多いがな。」
「そうか。ちなみに俺たちの扱いはどうなると思う?」
「うーん、どうだろう?日本人なのに変わりはないし、失踪宣告を取り消せば大丈夫なんじゃないか?そっちのお嬢様は国籍あるのか?」
「無いな。どこの国籍も持ってないぞ。」
「・・・・何でか聞くのは、止めておくよ。」
「ああ、そうしてくれ。」
せっかく安定してきたらしい世の中を変にかき混ぜたくないしな。
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