第16話 津軽海峡X景色
「ふあぁ・・・・・。」
「お前ホントに朝弱いんだな・・・。」
秋の気配を感じさせる澄んだ青空と輝かしい朝の陽光下、ヤーデの背に揺られる如何にも寝起きといった様子で目をショボショボさせた吸血鬼は欠伸をする。
昨日もそうだったが、やはり朝は弱いらしい。
シエスが夜型なのか、それとも吸血鬼としての性質なのか。
まあ吸血鬼は夜というイメージがあるし(伝承上の吸血鬼と彼女ら本物の吸血鬼に関係があるのかは不明だが)、昨日も若干の不快感があると言っていたぐらいなので、本来ならどちらかというと夜行性の一族なのかもしれない。
そうなると、逆に俺が彼女に無理をさせている可能性もあるの、か?
「シエス、辛かったら無理せず言ってくれよ。」
「ん、大丈夫です。」
この大丈夫は気を使った大丈夫なのか本当に大丈夫なのか・・・・
まあ本人が言うなら大丈夫だろう。
すぐ右手には海岸段丘崖、左手には津軽海峡を望みながら歩いている四人の速さに合わせのんびりと進む。
とはいえ、彼らもハンター。その歩みは速く、常人の早歩き程度は出ていたりするので見た目はのんびり感がない。
目的地の青函トンネルまでは50kmほどはあるので、うかうかしていると日が暮れる。
優しい潮風が、前をゆくシエスの長い銀髪を揺らす。
沖合を見ると、港から脱出しようとしてモンスターに襲われたか、擱座したり、転覆した大型船の船体が波間に見え、その遥か遠くの向こう側には下北半島の山々が見える。
俺が住んでいた札幌近郊の海に比べて、色が青い。
生息しているプランクトンの量の違いか、もっと北に行ったり、日本海側の海は言い方は悪いかもしれないがどす黒い色をして見えるのだ。
「それにしても、北に比べると大分モンスターも少ないな。」
「そうですね。魔力の濃度も比較的薄いです。」
普通に歩いていてもあまりモンスターに襲われない。
勿論、時折襲い掛かってくるのだが、常に襲い掛かって来るほどじゃないし、中型モンスターの数も少ない。
「・・・これで少ないのかよ。」
「試される大地・・・・。」
前を歩く4人が呟く。
彼らは歩かせて自分は騎乗って感じ悪く見えるかもしれないが、わざわざ鞍作って餌という名の捧げものまでして連れてきたんで何となく乗っている。
別に交代で乗ってもいいのだが、俺とシエス以外の人を乗せようとするとこいつら振り落そうとしてくるんだ。
お陰でマキタさんの腰が逝きかけた。
「てか魔力の濃度って何だ?」
ん?感じないのか?
「コージさん、普通の人間はそこまで魔力を感知できませんし、体内魔力を操作もできませんよ?あなたが異常です。」
え、そうなの?
・・・周りに人がいなかったからわからん。
「でもシエスは出来ているじゃないか。感知も操作も。」
「私は吸k、ゔぅん!まあ、あれですから。」
おい、あぶねえな。
それにしても、そうだったのか。
確かに何度か彼らに対して、忍び寄ってくるモンスターへの警戒感無くね?と思ったが、あれは唯近寄ってこなきゃ気付けなかっただけなのか。
まあいっか。俺達は俺達、他人は他人だ。
まだそこまで植物に浸食されていない国道を、俺達は進む。
「あ、カモメだ。」
由仁火さん、だったか。魔法杖を持った女性が言う。
「禁足地も、モンスターばかりってわけでもないんだな。」
海の方を見ると確かにカモメのような白い鳥が空を優雅に飛んでいる。
「いや、あれは・・・」
次の瞬間、紫電を纏い海面に突っ込み、感電死した魚を加えて飛び上がるのが見えた。
「ヒェッ」
「な、何だありゃ。」
「
その後も、
「ヒェッ」
「あれは
「うおっ!?」
「あれは
「へぁ!?」
「あれは
といった感じでモンスターウォッチを楽しん(?)でもらい、
「北の大地コワい・・・・」
「昨日もそうだったけど見たことないモンスターが多すぎる・・・・」
「あんなの、中層下部でも見たことがねえぞ・・・・」
「推定下層クラスのモンスターが跳梁跋扈する地上・・・・正に魔境ね・・・・」
道が海沿いから離れる頃には四人は顔を青くしたり、ぐったりとした様子になっていた。
「もう少しだろ。頑張れ頑張れ。」
「こんな土地に住むなんて、やっぱこの人たち狂ってるんじゃ・・・・」
中々いい度胸しているな、おい!?
我ながら多少変わっている自覚はあるけど、狂っているまで言われる謂れはなないぞ。
「だって昨日の話だと、殆どずっとダンジョンに潜って、地上にいる時もダンジョンの入り口周囲のセーフティエリアとはいえライフラインも何もない孤独の空間、食事も狩猟と採取だろ?普通だったら無謀だし、耐えられんわ。」
いやあ、慣れれば楽しかったけどなあ。
それこそ最初は余裕がなかったが、ダンジョンやモンスターという未知の存在を自分の目で見て、触れ合うのは本当に楽しい。
子供のころ抱いていた童心のような、冒険心や探求心。
大人になるにつれて汚れ、薄れていったその純粋な気持ちをダンジョンやモンスターは満たし、虜にしてしまった。
御伽話の冒険者のように、未知なる事象やまだ見ぬ景色を求めて、ダンジョンを歩き回り強敵に立ち向かう。
子供っぽい?子供っぽくて結構!
今の俺は、間違いなく人生を楽しめているんだから。
しかも、そんなダンジョンの先は別の世界につながっているというではないか。
俺の中の冒険心が更に滾る。
まあとはいえ取り敢えずは本州だ。
思えば望んでとはいえ、この五年間突っ走ってきたわけだ
どうやら日本はしっかりと生き残っているらしいので、偶には文明の恩恵を享受しゆっくりと休むのもありだろう。
当初の計画通り、食材とかも買い込みたい。
お金は・・・・家族はもういないし親族は俺が知る限りはいないから、口座はそのままだと思うのだが、どうだろう?
まあ、最悪今持っているダンジョン産の素材や使わない武器を売れば何とかなるだろう。
ダンジョンの資源も復興に使われているって言ってたし、ハンターという職業があるならそういう買取もしているはずだ。
多分。
「向こうに着いたらどうするんだ?まずは色々登録だの何だりこっちの用事に付き合ってもらうことになるだろうが・・・・」
「暫くはゆっくりさせてもらうよ。」
「そうか。そっちのお嬢様は?会ったのは一昨日なんだろう?」
牧田さんが由仁火さんと話していたシエスの方を振り向いて言う。
どうやら昨日俺がいない間にそこそこ打ち解けたようで、多少はマシな表情で会話をしている。
「コージさんに付いていきますよ。私たち、一応相棒なんで。」
何故かドヤ顔で宣言するシエスさん。
「一応なんだ?」
「そりゃあ一昨日からの関係ですもの。まだ仮は取れませんよ。ふふっ。」
俺の返しに、
銀赤の吸血鬼は笑っていう。
「ははっ、そりゃそうか。仮が取れるように頑張るとしよう。」
「そうですね。」
「仲いいなぁ・・・。」
「俺も美人な彼女は欲しい・・・・。」
男たちから切実な声が聞こえてきた。
ふっ、残念だが一抜けさせてもらうぜ。
いや、別に彼女ではないけど。
俺達はあくまで相棒、しかもまだ仮の、だ。
それに、そういう視点だととてもじゃないが俺ではシエスに釣り合わない。
Hunter and Vampire ~禁足地に一人残り五年間ダンジョン内でモンスターを狩りまくったハンターと異世界からやって来た吸血姫の狩猟冒険譚~ 浅葱乃空 @asagisora
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