第3話 緑鱗竜
「それ」は困惑していた。
「それ」にそれまでの記憶はほとんど無い。
まるで何者かに支配され操られているかのように身体は独りでに動き、その思考には靄がかかり自我というものがなかった。
だが今は違う。手足が自分の思うままに動く。世界が鮮やかに見える。
思考ははっきりし、生きるために必要な行動もなぜかわかる。
だが、なぜだろうか。頭の中で何としてもあの人間の雌を殺さねばならぬという衝動が残っている。
同時に奴を殺せば自分は真の自由を手に入れられるという謎の確信があった。
巨大な首をもたげ、黄金色の眼を丘の上の人間に向ける。
__________
「うわ~こっち見てる・・・・」
「やっぱでかいな。流石ドラゴン、ファンタジーのラスボス定番。」
家の外に出て、坂道上からダンジョンの中からはい出てきたドラゴンを観察する。
でかい。
全長は20mほど、ダンプトラックのようなサイズ。
ドラゴンといっても西洋ファンタジー系のドラゴンだ。
鈍い緑色の重厚な鱗。
巨体を浮かせるであろう対の翼。
大重量を支え動く為に発達した、二本足。
つかまれたらひとたまりもないであろう鋭いかぎ爪。
人など丸吞みできるだろう口と獰猛な歯。
瞳は黄色く瞳孔は縦に長い。
ドラゴンの巨体がつっかえてしまったのか、天井部分が一部崩れていたダンジョンの入り口が独りでに修復されていく。
こういった光景を見れば確かにダンジョンは神が作ったと言われるのもわからなくはない。
「やっぱあれ怒ってますかね?」
「そら番人を無視して通って来たんだから怒るんじゃね?」
「うーん、振り切ったと思ったんだけどな・・・・」
どうやらダンジョンは、ボスモンスターを戦わずに無理やり突破するというせこい真似をした人を許してくれなかったようだ。
というかそんな存在をどうやって出し抜いて突破して来たんだろう?
「コージさん、見知らぬ私に酒を奢っ奢ってくださりありがとうございました。久しぶりに他人と話せて楽しかったです。」
そう言って歩き出すシエス。
「一人で戦うつもりか?」
問いかけると彼女は歩を止めこちらを振り向き、目を瞬かせる。
「私をどんだけ失礼な女だと思ってるんですか。確かに人の家に勝手に乗り込んだりしましたが、流石に私も自分で蒔いた種は自分で刈り取りますよ。」
「そうか。それを聞いて安心したよ。君が当然のように連帯責任にしてくる吸血鬼じゃなくて。」
「失礼ですね!」
頬を膨らませムスっと言うシエス。
ああ、よかったよ。こいつとなら共闘できそうだ。
「俺にも手伝わせろよ。」
「え?」
「シエスが強いのはわかるが流石にあれはキツイ、だから巻いてきたんだろ?」
「え、ええ。でも・・・」
戸惑い首を傾げるシエス。
「なんでって顔してるな。ふっ、流石にここではいさよならって言えるほど男捨ててないさ。」
「コージさん!・・・・本当は?」
「あいつの素材半分欲しいです。」
「私のときめきを返してください。」
モンスターの素材は有用だ。ものによっては金属よりもずっと高い強度を示し、地球の科学では再現できないような性質をもつものもある。
現に俺が今着ている革鎧やブーツなどもモンスターの素材から俺のとあるスキルで作ったものだ。
そして、モンスターの中でトップクラスの強さを誇るドラゴンであればその素材の有用性も言わずもがなである。
自分一人で倒すのにはまだキツイため今まで手を出してこなかった。
この共闘のチャンス、逃す手はない!
「まあ、こう言った方がお前も信用できるだろう?」
「ふふっ、まあそうですね。・・・・ありがとうございます。」
前を向いてポツリとつぶやいたのが聞こえた。
ツンデレか。
「まあ実際、お前が助けたいって思えるやつだからってのもあるがな。」
「え?告白?」
「どこがだよ?」
まあ自分で言っといてなんだが今のは臭かったかもしれない。
「さて、流石にしびれを切らしたみたいだな。」
「逆に今までよく待ってくれましたね。」
ドラゴンがその巨大な顎を開け、大きく息を吸い込み一度口を閉じたと思った瞬間、
迫りくる火炎
俺はドラゴンに向かって右、シエスは左に向かって飛び避ける。
「なかなかの弾速だな。」
「威力も流石ドラゴンブレスって感じですね。範囲が大きくないのが救いですかね。」
焼け溶けたアスファルトを見てシエスが言う。
ファンタジーに出てくるドラゴンの定番技だな。
事前に魔力操作による反射神経、脚力の強化をしてなかったらまずかったかも。
「って連射してくるんかい!?」
口を開いたまま、次の炎弾を放ってきた。
再び転がり避けるが、少しだけ油断していたためさっきよりも近くを掠める。
外れた炎弾は浩二の後ろにあった廃屋に着弾し、溶けて赤くドロドロになったコンクリート壁が飛び散る。
依然ドラゴンの顔がこちらを向いているのを見て、的を絞らせないよう走り出す。
「シエス!なんかあいつについて知っている情報はないのか?」
「古い伝承で聞いたことがあります。緑鱗竜、炎の力を持つ下位ドラゴンですね。」
今度はシエスに目標を変えたのか、そちらに炎弾を三連射。
ひらりひらりと躱しながらシエスが答える
「飛ばれるとめんどくせーな・・・・。てかこれで中位かよ。」
でも、確かに以前地上で会った別のドラゴンに比べれば圧が薄く感じるかもしれない。
「ダンジョンにも格みたいなのがあるらしいですからね。まあ中位といっても小国なら一匹で壊滅しますし。昔の伝説の勇者が付けたランクらしいので。」
やっぱ勇者とかいるんだ。流石異世界だな。
シエスの足元の影が漆黒に染まり波打ったと思えば、そこからズズッと武器が出現する。
紺鼠の柄に光輝く白銀の刃、
ところどころに流麗な装飾が施されたハルバードだ。
長さは200cmほどでハルバードとしては小さめだが女性のシエスが持つとそれでもでかく見える。
振り回すにはかなりの力が要りそうだがまあ持っているということは使えるんだろう。
それにしてもあのスキル?魔法?便利そうだしカッコいいな・・・。
俺もベルトで背負っていたライフルを手に取り構える。
西部を征した銃、ウィンチェスターM1873・・・・を目指して俺がハンドメイドでこつこつ作ったレバーアクションライフルだ。
なぜこんなものを一人で作れたかというと俺のスキルが関係して来るんだけど戦闘には関係ないので今は置いとく。
サブウェポンとして腰には近接用の片手剣を差してある。
「俺は基本的にオールラウンダーだから前衛もできなくはないけどけど今回は後衛かな。」
「私は見ての通り完全に近接なのでそれでいきましょう。素材が欲しいんだったら援護頑張ってくださいね。」
「おう。めちゃ頑張るわ。後ろのことは気にせんでいいぞ。」
「それでは、」
「ああ行くとするか」
ブレス攻撃が止み、ドラゴンが息継ぎするのを見て、二人は駆け出した。
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