第4話 緑鱗竜Ⅱ

再び始まった炎のブレスによる掃射を跳び避けながら、俺とシエスは走る。


ライフルを構える。

初弾は既に薬室内に装填済み。

トリガーに指を置き、ミスリルの弾頭に許容量ギリギリまで魔力を込める。

当たりそうな炎弾を身を翻して避けてから、アイアンサイトごしに素早く狙いを定める。

狙いはドラゴンの頭部。

トリガーを落とし、撃針が弾薬の雷管を叩きつける。


ダァーン!

乾いた発砲音が響き渡る。



限界まで魔力を注ぎ込められたミスリルの弾頭が青く輝きながら飛翔する。


両者間の距離を瞬時に飛翔した弾頭は、500メートル離れているとは思えない精度でドラゴンの頭部に命中した。


ドガギィン!

『grr!?』

着弾の衝撃で首が動く。


「流石に頭は硬いな・・・・。」

着弾した鱗に残ったごく小さなひびを見て言う。


ガチャ。

レバーを下げ、薬莢を排出しハンマーを起こす。

元の位置に戻し次弾を装填、魔力を込める。


ダァーン!


ガチャ


ダァーン!


ガチャ


ダァーン!


ガチャ


生まれて初めてされる攻撃にドラゴンがひるんでいるうちに射撃を続ける。


足、腹、翼と狙っていく。

腹は頭部ほど鱗が厚くないのかより深々とひびが入るが位置的に斜めからの射撃になり有効打とまではいかない。

しかし翼の方は鱗に覆われてない為ある程度ダメージが入っているように見える。


チューブマガジン内にある残り9発をドラゴンの右翼、構造上最も脆いであろう関節部に叩き込む。

ドラゴンも避けようと体を動かし3発が外れたが、自身のブレスよりも速い弾速と浩二の正確な偏差射撃によって多くが関節部に命中する。


さて、これで一時的に攻撃が途絶え、リロードの隙が生まれるわけだが・・・・


『Grrr…..』

うっとおしい攻撃が止んだと同時にブレスを放つために息を吸い込み始めるドラゴン。


敵の攻撃を避け、多少なりともダメージを与えられているのも魔力操作の精度や効率といった小手先の技術によるもの。

ソロの場合だとこのまま撃ち合う消耗戦に発展し、純粋な魔力総量と体力で劣るこちらのスタミナ切れでゲームオーバーになるだろう。

ソロだったら、な。


「はあぁっ!」

俺が射撃しドラゴンの意識を釘づけている間に接近したシエスがハルバードで左足に力の入った一撃を叩き込む。

敵の意識が向いてないからこそできる全力の一撃!

『Gru!?』

ブレスを放とうとしていたドラゴンが衝撃で姿勢を崩しブレスが俺の左を通り過ぎる。


(・・・・てか威力すごいな!?)

鱗がない足とはいえ相当な硬さを持っているはず。あの体重を支えているのだ。骨もさぞ頑丈だろう。

そんな骨の三分の一ぐらいまでハルバードの分厚い刃が切り込んでいるように見えたのだが・・・・。

あれでは歩くことはできても力を込めるのは無理だろう。

あの一撃を出す身体能力と技量ももちろんだが、接近するまでの隠密能力もえぐい。

もちろん俺がヘイトを稼いでいたいうのもあるだろう。

だがそれを抜きにしてほれぼれするほど気配を感じなかった。

自分も隠密能力には自信があったのだが今のを見てちょっと心折れそう・・・・。



竜はその巨体を使い、足元のシエスを踏みつぶそうとする。

しかしシエスは重量武器を持っているとは思えぬほどの軽やかさで迫りくる爪を躱し、ついでに先程切り付けたところへ槍先による突きで追撃を行う。


ドラゴンが苦悶の声を発しその瞳には自身を傷つけたことに対する怒りが灯っている。

今やドラゴンの意識は完全にシエスに向いていた。


今度は体当たりで圧殺しようとするが、これもシエスは地面すれすれに滑り込むように腹の下に潜り回避し、ドラゴンの腹を切り付ける。



ヘイトが向いてないうちに右腰にあるマジックポーチの中から弾を13発取り出しチューブマガジンへと一発づつ押込み装填しながら、

フレンドリーファイアを避けより正確な射撃を行うべくドラゴンへと走る。

レバーを下げハンマーを起こし、薬室に初弾を装填。


ちょうどドラゴンは、シエスに気を取られ、横っ腹をこちらに向けている。

距離は300メートル弱。


ダァーン!

発砲。


青く輝きながら飛翔した弾丸は下腹部の鱗に垂直に当たり、砕いた。

着弾地点から真紅の血がにじみ出る。


やはり下腹部の鱗は頭部ほど厚くなく、角度さえ良ければこの距離からでもダメージが入る。


なるべく着弾地点が重なるように、またシエスに当たらないよう気を付けながらマガジン内にある弾を撃ち込んでいく。


また、さりげなく右翼の関節付近にも少しずつダメージを与える。


チクチクと、しかし確実にダメージを蓄積させていく俺をうっとおしく思ったのか再び俺にブレスを放とうとするがその隙にシエスが大きめの一発を食らわせて妨害する。



戦闘が始まって10分ほど。

もう何度目だろうか、ポーチから弾を取り出しマガジンに装填。

今度は隙があれば目を狙っていく。

それを避けようと顔を隠すドラゴンにシエスがダメージを与えていく。


俺の射撃で隙を作り出し、シエスが大ダメージを与える。


今や戦場の広場は、ドラゴンが体の各所から滴らせる血液によって赤く彩られていた。



「そろそろいけるかな?」

マジックポーチの中から弾を4つだけ取り出す。

もちろんレバーアクションライフル用の弾だ。だが先程までの弾とはひと味違う。

思い付きで作りはじめたら思いの外難しくてこの前ようやくまともなものを作れるようになった。

仄かに赤い光を放つ弾頭をもつそれらをライフルに一発づつチューブマガジンに押し入れながら、


シエスとドラゴンは戦っているうちに徐々にこちらへと移動しており400メートルほどの位置から150メートル程の位置へと静かに前進する。

最後の一発を薬室内に直接装填しアイアンサイトごしに機会を伺う。


その間もシエスによる攻撃で小さい傷が増えていく。

ちょこまかと避け続ける足元のシエスに痺れを切らしたドラゴンは地をけり飛び立とうとする

近接武器の届かない上空からブレスによる攻撃を行うつもりだろう。


だが、その行動は遅すぎた。


「させねえよ。」


力を溜める一瞬の硬直を突き、狙いを定め発砲。

狙いは先の射撃でかたい外皮が貫かれ内部の肉質が露出している右の翼の関節部。

間をおかず残りの3発を発砲。

こちらはドラゴンが動いたことで一発が外れもう一発は胴に当たった。


痛みに目をしかめ、しかしまだ飛べぬほどではないと、ドラゴンは宙へ舞う。


念を入れ、地上から100メートル程まで上昇したとき、



ボゴォン!


突如、ドラゴンの右翼に爆発が生じ、ドラゴンは錐揉み状態で地上へと墜落する。


『Guuuu……』


「ようし!うまくいったな。」


徹甲榴弾。

弾頭内部に火薬を仕込み着弾後、時間差で標的の体内で爆発、内部から体内構造を破壊する。

弾頭の重量的に貫通力は普通の弾頭に劣るがその代わり外殻を貫通できた際の破壊力は絶大。


浩二が小さい頃よく遊んでいた某狩りゲーのアイテムから思い付き作成したものである。

なお作品内では、体内からの爆発でダメージを与えるというよりかは頭部などの急所付近での爆発で敵生物のノックダウンを狙うものなので、別に体内からのダメージを与えるという設定はないのだが、小さい頃の記憶であるため浩二は忘れている。


扱いの難しい弾だが今回はうまくいき、翼の関節の一部を破砕、体重を支えきれず自重で完璧に翼が折れた。


「信管の作成に手間取ったかいがあったよ。」


落ちてきたドラゴンに待ち構えているのはハルバードを構えた吸血鬼。


と、なぜかシエスが自身の腕に切り傷を入れ、滴る血をハルバードに垂らす。

するとどうやっているのか分からないが、刃の部分に血をまとわせ高速で表面を流動させ始めた。

何だその厨二心くすぐられる技は!


ずしんと地面に叩きつけられるドラゴン。


地面に倒れたドラゴンの首元へシエスがハルバードを振り下ろす。

それは正に止めの一撃。


ブシャァァァー

動脈を断ち切ったのか傷口から鮮血が噴き出す。

明らかにさっきまでの斬撃に比べて切れ味が上がっている。

やはりさっきの行動には意味があったらしい。


『Gsyaaaaaaaa!』

ドラゴンが悲鳴のような咆哮を上げ、今まで見たどの動作よりも激しく地面の上をのたうち回り、さしものシエスも距離をとる。

だが、やはり致命傷だったのか。

徐々に動きが鈍くなっていくのを二人で離れて見守る。


ズンッ!


広場が血の池に様変わりしたころには地に横たわり、動かなくなった。





「やったか!?」

「何フラグ立てようとしてるんですか!?」


ごめんごめん、様式美だからついね。

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