第5話  つまり、食える!

「やったか!?」

「何フラグ立てようとしてるんですか!?」



ごめんごめん、様式美だからついね。


冗談はさておき、足にベルトで付けていた投げナイフを光を失った眼に投擲する。

ナイフが眼に刺さっても何も反応がない。

ちゃんと倒せたらしい。

真面目な話、モンスターに限らず、相手に致命傷を与えたとしても油断は禁物だ。

死んだふりをした相手に手傷を負わせられたことも一度じゃないし、中には回復魔法を使える敵もいる。

油断すると、あっという間に自分が狩られる側に回る。

まあ油断しなくとも運が悪いと狩られる側に回りかねないが。


ともかく、今回は勝ったみたいだ。




「「よしっ!」」



手のひらを出し二人でハイタッチをした。



「いやー思ってたよりも楽に狩れましたね。」

「そうだな。正直四肢一本ぐらいはなくなるかと思ってた。まあ生まれたてだからな。戦いなれてない感じだったし、ダンジョン内で倒すよりも簡単だったかもしれない。本来のドラゴンの強さはこんなものじゃないからな。」



二人とも所々服が焦げていたり土埃で汚れているし、魔力をミスリルの許容量ギリギリまで込めた弾を撃ち続けた俺の体内魔力はすっからかんだが、逆に言えばそれだけだ。

というかなんでシエスはかすり傷ひとつないんだ?

あんなに激しい接近戦をしていたのに、服はともかく身体に傷一つない。見えないところでポーションでも飲んだのだろうか。


ドラゴンの恐ろしさは、その身体能力、魔力量による純粋な攻撃力と防御力に加え、人間並みの高い知能を兼ね備えていること。

一般にモンスターの知能はそこまで高くない。

中には高いものもいるがそれでもその知能が人間に届くことはない。

モンスターの脅威の所以はやはり純粋な身体のスペックによる力押し。

理不尽な攻撃力とその生命力は、元が脆弱な人間など油断したらあっという間に狩られてしまう。

では、その圧倒的なスペックを操れるだけの知能があれば?

その強大な力を効率的に扱い、戦術的に、柔軟にこちらを倒しにきたら?

その脅威度は跳ね上がる。

今回は生まれたてということもあり相手も力を扱いきれていなかったし、俺とシエスの連携に見事に翻弄されていた。

例えば、ダメージが蓄積する前、もっと早くに多少強引でも空に飛び立っていたら、戦況は変わっていただろう。

その隙をなるだけ与えぬよう、シエスも常に密着した状態で立ち回っていたが、多少の損害を無視すれば十分に可能であったはずだ。


本来のドラゴンの強さは、重みはあんなものではない。

生物としての格の違いを感じさせる、モンスターというくくりに収まらない、神々しさすら感じさせる雄々しく賢い生き物だ。

正に半神、そう思わせるような存在だった。



「ふーん。まるで戦ったことがあるみたいに言いますね。」

「戦っては無いな。たまたま遭遇して、見逃されただけさ。」




気まぐれに足を運んだ秋の山地で出会った蒼き竜。

あの時はまだ今ほど魔力もなかったから、神威的ともいえる魔力の重圧に、意識を保つので精一杯だった。

『ほう。その小さき体で我の魔力に抗うか・・・・。』

『・・・・まだこのような地に人の子が残っているとは・・・。』

『はっはっは、なかなか面白い者だ。』

『お主ならばあるいは我らの格に・・・・。』

『さらばだ、まだ小さき者よ。』

あの時竜と交わした言葉の数々を思い出す。




「あれは凄まじかった。今でもあいつに勝てるビジョンが浮かばない。」


そもそも、喧嘩を売っていいい相手ではない。

そう思えた。

ダンジョンの中の操られている存在や、今倒した自我が生まれたての存在と違い、本来はそれほどの格を持った相手なのだ。



まがいなりにもそんな相手に楽に勝てたのは、ダンジョンから出たことで自我が芽生えた直後、言えば生れたてで戦い方を知らず、下手に感情があるために怯みや混乱による硬直なども存在し、むしろダンジョンに縛られている状態よりもかなり弱体化していたこと。

何より、普段はいない前衛がいたこと、その前衛が凄ーい強かったことだろう。



「おまえめっちゃ強いな。俺いなくても倒せたんじゃね?」



正直これから素材をもらうのに居たたまれなさを感じる。



「確かに倒せたかもしれません。相当弱くなっていましたから。

でも面倒な戦いになっていたと思いますよ?

最初に気を引いてもらったおかげで簡単に足元に潜り込めましたし、うまい具合に隙を作り出してくれるので無理せずに行けました。あの翼を折った攻撃も凄かったで

す。」



シエスは笑ってそう言ってくれた。



「そ、そそそうかな。」


やべえ。人生で褒められたことなんて数えるくらいしかない俺の心が浄化されちまいそうだ。

ああ、これが、人の温もりってやつか・・・・。






「いや、何灰になって散りそうな顔しているんですか?」



おっといかんいかん。

久しぶりの人の温かさに消滅しそうになっちまったぜ。

えぐいぐらい強いし所々で残念な感じが出てる(いいやつではあるけど)吸血鬼なので忘れそうになるがこいつ普通にというかガチで美人だからな。

正直に言って笑顔の破壊力がヤバい。



「よ、よし。鮮度が落ちる前にさっさと解体するか。」

「そんなに焦らなくてもいいのでは?」

「何言ってるるんだ、早くしないと味が落ちるだろう?」

「え?」

「え?」






___________




「ふぅ、やっと終わった。やっぱりでかいと大変だな。」

「戦闘よりもよっぽど時間かかるんですよね・・・。」



綺麗に部位ごとに解体され、広場の上にひいたシートの上に並べられた素材たちを見て言う。

二人とも血まみれであり、はたから見ればとても猟奇的な光景である。

事前の取り決め通り、素材は文字通り二人分に山分けされ、肉などの鮮度を保つ必要があるものはマジックバッグに入れてある。


よくあるモンスターを倒すと煙になってドロップ品だけ残るとかいう仕様は残念ながらない。

今回は立地的に大丈夫だったが、ダンジョン内や、地上でもモンスターが多い場所では他のモンスターが血の匂いに寄って来るし、時間もかかるので戦闘と同じくらい大変。

まあその代わり全ての素材が手に入るので一概に悪いとは言えない。

勿論戦っていたのだ、利用できないほど傷つき利用できない部位も多い。だが、ドラゴンの巨体はそれを加味しても十分な素材を俺たちにもたらした。



「ではでは、皆さまお待ちかねの鑑定ターイム!」

「ふふっ、二人しかいませんけどね。」

「ノリだよ。」



取り敢えず側に並べてあった鱗を手に取り、ダンジョンの入り口の傍の黒光りする台座の上に設置されているバスケットボールほどの大きさの水晶球へかざす。

すると水晶球が一瞬青く輝き、文字列が台座に投影される。


~~~~~~

緑鱗竜の鱗(背)

品質:上

素材レベル:85

極めて硬く、軽い竜の鱗。魔力を通すことでその硬度は劇的に上がる。

この鱗で作られた鱗はアダマンタイト製の剣をもはじく。

~~~~~~




「素材レベル85・・・流石の高さだな。」



ダンジョンの出現時に時を同じくして現れたこの水晶玉、どういった仕組かは分からないがかざしたものの情報がわかるのである。

ラノベとかでよある、いわゆる鑑定の魔道具のようなものなのだろう。

ちなみに素材ではなく人の手をかざすと自分のスキルやステータスがわかる。

俺は安直に鑑定機って呼んでいる。

これのお陰でダンジョンから持って帰ったモンスター素材や採取した植物、宝箱からドロップしたものがどういったものか知ることもできるし

、自分の成長を客観的に把握できるのでかなり助かっている。


ちなみに素材レベルというのは武具にした場合、料理にした場合の出来のなんとなくの目安である。

素材レベル:85ならば今まで見てきた中でもトップレベルに高い。

まあ素材の性能なんて、利用方法や作ったものによって変わるので何を基準にしているのかはわからないが・・・・。

まあゲームの中で素材についているレア度みたいなものだと思っておけば大丈夫だ。


ダンジョンを作った存在がいたとしてその目的は何なのだろうか。

無駄に中に入る人に対して親切なとこがあるし、かといって放っておくとモンスターを地上に吐出し続ける。

一応自分なりの仮説は持っているがそれでも分からない事が多すぎる。


ともかく、他の部位の素材も順に鑑定していく。


そして最後は、


「さて、ドラゴンは食えるのか食えないのか、答えは!」

「ホントに食べられるんですかね~。」



逆になんで食おうとしないんだ。

ドラゴンの肉なんて漫画だと美食の定番だぞ。

まあ流石に鑑定機がなかったらもっと慎重にはなるだろうけど。

どんなでも食べれるか考えてしまう日本人が特殊なだけなのだろうか。

さて結果は、


~~~~~~

緑鱗竜の肉(ロース)

品質:上

素材レベル:45

毒は無い。滋養強壮に良い。

~~~~~~



「だってよ。」

「本当に食べれるんだ・・・・。いやでも美味しいと決まったわけじゃ・・・。」



うん、毒はないらしい。

だったら後はチャレンジだ!


時計を見ると既に夕方の5時。最近は日の入りが早くなってきたので既に太陽は山に隠れ辺りは薄暗くなってきている。



「じゃあ調理といきますか。」

「今更ですけど私も食べていいんですか?」

「流石にこの流れで別々に食べようって話しにはならなくないか?一人分も二人分も変わらんし、折角のドラゴン肉だぞ?」

「そ、そうなんですか?私家族以外の他人とご飯食べたことがなくて・・・」


・・・・・・。


「そんな可哀想なものを見る目で私を見るなぁ!」

「ごめん、つい。まあほら、他人と食う飯はうまいぞ?」

「うう・・・・ではお言葉に甘えて・・・・」



坂を登る。

人とこの坂を登るのも随分と久しぶりだ。



「シエスは普段料理はするのか?」

「一人暮らしをしてきた以上、多少はできますよ。」

「そりゃそうか。そのうち異世界の飯も食べてみた、い、な・・・・」



丘を上った先

スタンピード後もずっと活動の拠点にしていた愛しの我が家


・・・・・の敷地に残っていたのは炭化した建材とと溶けて流れ出した金属の塊


悲報、我が家、焼失す。




「俺の、家ぇ!?」

「うわー・・・・。」




ドラゴンめ・・・・・。

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