第2話  美人?吸血鬼?それともポンコツ?

吸血鬼。夜闇にまぎれ、人間の生き血をすする不老の怪物。生と死の狭間に位置する者。

細部は異なるが似たような伝承は地球各地にあり、近年ではサブカルチャーにおいて登場することも少なくない架空の存在。

そう、架空。あくまでラノベやアニメの中のファンタジーの存在であり、それはダンジョンやモンスターというファンタジーそのものな存在が出現した今でも変わりがなく・・・・。

野生化したモンスターの中には人並みの高い知性を持つ存在もいるが、完全なヒト型のモンスターを俺は見たことが無い。



さて、今俺の前には自称吸血鬼な銀髪美女がいるわけだ。


  ふむ、



「この十字架が目に入らぬか!」

「はあ?見えますけど・・・」


「ガーリックアターック!」

「うわ、食べ物を投げないでくだs、服に匂いが付くでしょうが!」


「ほらほら、鏡ですよ~映っちゃってますよー」

「そうですね。」




「う~ん本当に吸血鬼?」

「あれですか?これは私馬鹿にされてますか?!」


う~ん、オカルトマニアでもない俺が知っている吸血鬼の特徴(諸説あり)といえば流れる水を渡れないとか、それこそ日光をあてると死ぬぐらいしかないか?でも今曇りだし近くに川もないしなあ。流石に俺の血を吸って見てというわけにもいかんし。


「はぁ、こっちの世界での吸血鬼への認識が色々おかしいことはわかりました。」

「まあ冗談は置いておいて・・・・迷宮、ダンジョンを越えてきたとか言ってたな。」

一遍にファンタジーが押し寄せてきてもうお腹いっぱいだよ。


「あら知らないんですか?」

「知るも何もまだダンジョンが出現してから6年、国に封鎖されてたそれらからモンスターがあふれだして世界が変わったのが5年前だぞ?そんなさも一般常識みたいに言われましても・・・・」


迷宮、またの名を、ダンジョン。

調査のため突入した各国の軍隊や警察機関がモンスター相手に多大な被害を出したためどこもが慎重になり、最初の一年は中に通常兵器では効果の薄い好戦的な生物がいることぐらいしか情報が出回らなかった。


もしかしたらその後、内地や外国では研究が進んでたり強い人が踏破して謎が明かされたりしているのかもしれないがスマホもパソコンもないし、そもそも圏外。俺に知る術はない。


「ふふっ、ではシエス先生のダンジョン講座といきましょうか。」


得意げにシエスが胸を張り説明を始めた。


いわく、ダンジョンは世界と世界を繋ぐものであり、その世界の魔力という存在を活性化させモンスターという厄介な外来生物を送り込んでくる環境改変装置であり、人々に資源という富と、新たなる力の可能性を与えてくれる神からのギフトでもある。

              


「ちなみに伝え聞いた話です。あと諸説あります。」

「え、それだけ?しかも最後ので一気に信憑性が薄れたんだが・・・・」

「しょうがないじゃないですか。誰も何が、何処が発生の起点なのかわかんないですし、ダンジョンがしゃべるわけでもないから何が目的なのかもわかんないんですもん。憶測です、憶測。」


シエスはそう投げやりに言って酒を呷る。

特に気品あふれる動作といったわけでもないのに一つ一つの動作が絵になるのはやはり素材がいいからだろうか。


「そもそも私もついこの前まではあんま興味なかったんですからね。ああでも、一番初めの世界と世界を繋ぐってのは本当だったみたいですけどね。」


「なら何でこの世界に来たんだ?冒険心?」


俺がそう質問すると、彼女の目がスッと細められた。

先程まで彼女がまとっていた雰囲気が変わったように感じられた。



「そんなきれいなものじゃないですよ。ただあの世界がいやになっただけですよ」


シエスは自嘲するように言った。


「いやになった?」

「ほら、人って自分達とは違うもの、理解できないものって排除したがるものじゃないですか。」


あー、まあ地球でも吸血鬼のイメージてどちらかというと生者の敵とかそんな感じだからな。俺も実際に会うまではその通りだったし。

向こうの世界のことはわからないが、まあ普通に考えたらよいものではないだろう。

同じ人間同士でさえも時に人種の違いだけで差別する、敵対する。それが恐らく服装的に彼女がいたであろう中世レベルの文明だったら尚更に。

それが他種族の知的生命体、しかも人の血を吸う吸血鬼ともなればどうなるかは目に見える。


「こっちはわざわざ気を遣って一人慎ましく森の中動物たちの血を吸いながら暮らしてるんだからそっとしておけばいいものを・・・・。

賞金に目がくらんだ傭兵、功績をあげたい貴族の私兵、盲目的な教会の聖騎士ども・・・・。まあ全部血祭りにしてやりましたけど。」


はあっとため息をを吐き、グラスに残っていたワインを一息に飲み込む。

まあ聞いている限りは正当防衛な感じがする。

というか気になる言葉があったな。

浩二が口を開く。


「吸血鬼なのに人の血を吸わないのか?」


「別に生きている動物であれば何でも大丈夫ですね。吸血の本来の目的は血を介した生命エネルギーの奪取による自身の強化や体の修復ですから。しかもただ生きていくだけなら5年に一度くらいの吸血で、あとは普通の食事で大丈夫なんですよ。」


へーそうなんだ。結構燃費がいいんだな。

まあ今日あった相手だし、噓をついている可能性もあるから完全には信用できないけど、俺の中での脅威度がだいぶ下がった。

だって吸血衝動とかでいきなり襲い掛かられるとか「君の血、おいしそうね」とか言い出さないか正直かなり怖かったもん。


出会ってそのまま一緒に飲みはじめたのも、久しぶりの人(?)だからっていうのももちろんあるけど変に刺激したくないってのもあり・・・。



「ん?でもそれならなんでそんなに人間から嫌われてたんだ?」


今の話を聞く限りそこまで敵視されるほどの理由がわからない。


「教会の方針だったりと、強大な力を持つ存在への恐れだったりとか・・・・。あと過去に人の血を吸って苦しむのを見るのが大好きとかいう変態がおりましてですね・・・・。」


「あー・・・・。」


中世ヨーロッパでいう魔女狩りみたいなことになっていると。

その変態野郎のせいで吸血鬼のイメージが最悪な形で定着してしまい、今でも人に仇名す者として扱われているということか。

さすがに可哀想に・・・・。


話してみたらわかるけど、吸血鬼でも悪い奴じゃない、多分。

確かに初手で不法侵入、無銭飲食とやらかしているところはあるが、こんな世界で鍵も閉めず家を開けていたんだから自分にも非はある。


普通に話が通じるし、普通に笑う。地球の伝承の吸血鬼よりもずっと人間臭い。

だから、今俺はこの吸血鬼のことをある程度信用できる。

まあもちろんリスクが0というわけでもないが。

まあ結局他人の考えてることなんて完全にはわからないし、だがそれを恐れて全てを疑っていては良い人間関係など生まれようもない。

まあ俺は五年間の交友関係0だけど。


何より久しぶりに人と話すのは楽しい。

見た目クール系の美人さんだし久しぶりに喋るから会話続くか不安だったけど、話してみると意外にのりいいし俺も普通に話せてる。



「まあ流石に何度も押し寄せる彼らにうんざりしたのと、あとは無気力に日々を過ごす自分がいやになったからですね。ただの現実逃避ですよ。」


さりげなく空になったグラスに二杯目のワインを注ごうとするシエスを浩二が止める。


「ふーん、俺からしたら普通の人と変わんないけどなー。」


特に意識せず言った言葉に彼女は一瞬固まり、そしてどことなく儚さを感じさせる顔で笑った。


「そうですか・・・・。それが噓でも私が来た意味はありましたね。」




ゴゴゴゴゴゴゴ


「「うん?」」

微かな地面の揺れを感知して二人揃って首をかしげる。

「なんでしょうね?」

「さあ?地震かなあ?まあ日本だと珍しくもないかr」


Grrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!


鼓膜を震わせる咆哮。

その風圧に窓が震える。


「ドラゴン?珍しいな?」


奴らは縄張り意識が強く基本的に持ち場を離れないはずだ。

そんなドラゴンがなぜ?

まさか新たな迷宮氾濫の発生!?

いや、ならばもっと弱い浅層のモンスターから出てくるはずだ。

ではなぜ・・・・。


ん?そういえば・・・・・


「なあ、そういえばダンジョンを越えてきたってことはちゃんとボス倒したんだよな?」


「・・・・・」


「まさかあの番人みたいに居座ってその先へ絶対に通そうとしないあいつを無理やり押しとおってきたとかそういうわけではないんだよな?」


「・・・・・」


「シエスさん?」

浩二は窓の外から目を離し、シエスのほうへ顔を向ける。

そこには冷や汗をだらだらと流しもとから白い肌をさらに不健康そうに青白くさせた吸血鬼がいた。

「ちゃ、ちゃんと振り切ったと思ったんです、けど・・・・。

     て、てへ♡?」


「何地上にボスモンスター連れてきてるんじゃこの残念美人!」


自分が刺激を求めてるからって俺を巻き込むんじゃねえ!


最初の知的でクールな美人さんという評価から、見た目と性根はともかく行動がポンな残念美人吸血鬼にだいぶ下がったぞ。

・・・いや。そういえば最初から他人の酒勝手に飲んでたな。

五年ぶりに会った人間がこれとは・・・。

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