現代社会への旅路

第10話   旅は道連れ

ギシャァー!

グェ!グェ!

グルルルル・・・



かつて自動車が行きかい、今ではモンスターの獣道となった国道を二人は歩く。


既に道は野に還り始めており、アスファルトはひび割れ、そこから草木が生えており、辺りから頻繫に聞こえてくる小型モンスターの鳴き声や吠え声が不気味さを醸し出していた。




「モンスター多いですね。」


「多いのか?向こうと比べても。」


「そりゃあ場所によりますけど、ここまで多いのはあまり見ないです

ね。」



キェェーグゥェ!?

頭上の張り出した木から飛び掛かってきた大きい猿のような見た目のモンスターのピテーコスを浩二が片手剣で切り払う。

ピコーテスは小型の肉食モンスターの中でも弱いほう、はっきり言えば雑魚なのだが、魔力探知が鋭く、相手の魔力量が自分よりも少ない奴の前にしか姿を表さない狡猾さを持っている。

まあ、意図的に魔力を抑えている今の俺たちに対しては完全に裏目に出ているようだが。


「樹木も巨大化していますし、大気中の魔力が濃いのが原因なんでしょうけど・・・。」




やはり魔力のせいなのか・・・。


ピテーコスが降ってきた、高さも幹の太さも、俺が知っている普通に比べ何倍にも巨大化したエゾ松の木を見上げる。


魔力という存在にあてられたことで生命力が増したのだろうか?

野には草がぼうぼうに生い茂り、樹木は巨大化し、青看板はツタにのまれ、道路は成長した木の根でぼこぼこになっている。

たかだか5年の月日を経ただけで、明治以降、先人達が汗を流して開拓してきた大地は徐々に自然に還ろうとしている。

家があったダンジョン周辺はそこまで変わらないが、少し離れればどこもこんな感じだ。


そしてそれら豊潤たる大地の恵みが草食モンスターの餌となり、増えた草食モンスターを喰らって肉食モンスターの餌となることで、この一見過剰とも思えるほどの数のモンスターが生息することを支えている。




「シエスが見てきた土地の中でも多いほうなのか?魔力。」



道を塞いでいる大破した戦車の残骸を乗り越え、二人は進む。



「そうですね。私がいた世界の東の果てには人が進出できていない大森林があったんです。魔力が濃すぎて木の大きさとかモンスターの数とかエグイ場所なんですけど、そこの雰囲気に似ていますね。」





ふむ。異世界基準でも、どうやらかなり濃いほうらしい。


さすが試される大地、北海道。





「多分コージさんの人間にしてはいかれたレベルの保有魔力量の一因もそこにあるんじゃないですかね?元々吸収効率と成長上限のポテンシャルがあったからだとは思いますけど。」


「俺そんなに多いの?」




いや、まあ一応一人でダンジョン深層を探索することが出来てたし、ドラゴン以外の大抵のモンスターには勝てるようになっているから、「俺、人間の割にはやれてるんじゃね?(ドヤァ)」って心の中で思ったことはあるけど、如何せん比較対象にできる他人が居なかったので正直わからん。


目の前の吸血鬼は俺よりずっと多いし。




「はあ。いいですか?これでも私は基本的に人間よりも魔力が多い吸血鬼の中でも結構上の方なんです。そもそもいくら魔力操作がうまくても普通の人間は竜の鱗に傷なんてつけられません!それこそ、伝説の賢者級か、勇者でもなければ・・・・。」




勇者、と口にした瞬間、顔を暗くし負のオーラを表情ににじませるシエス。




「どうした?」


「・・・なんでもありません。」




何でもなくはなさそうだが・・・・。

過去に何かあったのだろうか?

あまり掘り下げないほうが良さそうだ。

とりあえず、彼女の前では勇者という単語は禁句だな。




「ん、ぅん! いや~、それにしてもこの調子だと予定よりも時間がかかりそうだな~。」


「いや、気を使ってくれたのはわかりますが露骨すぎませんか!?」


「生涯彼女無し、大学に入ってから親しい友達無し、五年間他人との関わり無しの俺に高望みをするなよ!?一緒に行こうって誘ったのだって結構勇気を出したんだぞ?」


「ああ、そうだったんですね。確かに偶に口調とか変わってましたもんね、『君』とか。」



ぐあああああああ・・・・。

今思い返してみれば色々くさい言葉を言いまくった気がしてもう若くない心が痛む・・・。

いや、でもあれは本心だ。後悔はない。


浩二の心の傷を掘ぐり返した吸血鬼が、クスリと微笑む。



「でも誘ってくれて嬉しかったですよ。私もお陰で吹っ切れることができましたし。」


「俺が言うのも変かもしれないけど、何でついてきてくれたんだ?」


「私も賭けてみただけですよ。コージさんの御爺様が言うようにね。」



アスファルトを突き破って生え出したトレントの若木の藪をハルバードで斬り進みながらシエスが言う。


「どうせ、死んでるも同じ生活をしていたんです。誰とも関わらずただそこで存在し続けるだけの人生。これ以上この人生に未練はない。

だから賭けたんですよ、変革に。もし裏切られたらそれはそれ。あなたを殺して私も死にます。」



最後の一言のせいですごいヤンデレ感がでたんだが・・・。

まあ賭けるに値する人だと思われたのなら光栄なことだ。




「それにしても、確かにこの調子だと時間がかかりそうですね。」




前方からドシン、ドシンという大きな足音を響かせてやって来た大型バンほどの大きさの体を持つボスゴブリンが通り過ぎていくのを、茂みに隠れて見送る。




「いちいち戦うのも面倒だし、かと言って今みたいにやりすごしたり迂回するのも時間がかかるし・・・。」




無駄に体力はあるし、徒歩でのんびり旅をするのもゆっくりとその土地の様子や景色を見れるから悪くはない。


ただ、道内はの景色はもう見飽きたし、モンスターの観察とかもあらかた出来ているので、時間をかけるのはちょっとな・・・。


正面から押し通って行ってもいいのだが、流石にそれでは疲れるし、最近ようやく安定してきいる生態系のバランスが崩れる。


あまり派手にやりすぎると、血の匂いに釣られて周辺のモンスターに群がられ、それを倒せばさらに・・・と飛躍していき、その地域の肉食モンスターが激減、近い未来に草食モンスターが爆増ということになりかねない。


それだけだったら肉食モンスターが居なくなって良かったねでいいんだが、その後に待っているのは数年後の肉食モンスターの激増だ。


いや、別に侵略者たるモンスターの生態系を気にする必要はそこまでないんだけど、その生態系バランスを崩した結果何が起こるか完全には予測できないのであまりやりたくはない。


肉食モンスターの激増の後、草食モンスターを食い尽くし、飢えた肉食モンスターが海を渡って本州に・・・・とかに万が一なったら責任を持てない。

いや、まだ人が本州にいるのかはわからないけど・・・。


それに幾ら良質な武器だって、使っていたら損耗する。


ダンジョン外で敵を倒した時に得られる魔力の成長は、ダンジョン内でのそれと比べて小さいし、今は素材や肉が喫緊で欲しいわけでもないので、意味のない戦闘は避けたい。




「はあ、駆け鳥があればなぁ・・・・。」


「カケドリ?」


「知らないn、そう言えば6年前でしたね、モンスターが出現したの。」



思い出したように言うシエス。

カケドリ・・・どり・・・鳥なのか?

どうやら向こうの世界ではカケドリという存在は常識らしい。



「人一人乗れるぐらいの大きさの飛べない鳥型モンスターで、脚力が強くスタミナもある上におとなしい気性なので移動手段の定番としてよく飼われていたんですよ。ここにもいるのかな?」


「ああ、だから駆け鳥なのか。」


「そうです。」



地球でいう馬みたいな扱いなのかな?

モンスターの分機動力も力も強そうだが、その分躾けるのは大変そうだな。

北海道にもいるかな?

拠点から足を伸ばして、自分で道内のダンジョンを回って確かめたことなのだが、出現するモンスターの種類はダンジョンによって違う。

だから、その駆け鳥と呼ばれるモンスターが道内のダンジョンに出現しなければ、幾らこの北の大地を探しても見つかるはずがないのだ。



「そのモンスターの本当の名前は?」


「正しい名前は・・・えっと・・・・。何だっけな?」


「おーい、それ解らないと俺思い出しようがないよー・・・。」



初めて狩猟したモンスターの素材は絶対に鑑定機でみているので、名前さえわかれば思い出せるかも知れないのだが・・・。

とは言ってもホームグラウンド以外はそこまでしっかり潜れているわけではないので見落としもあるだろうけど。



「嘴が黄色で、毛色は結構種類があって、草食で、瞳孔が縦に長くてちょっと可愛いやつなんですけど・・・。」




絞り込めてるようで絞り込めてないぞ?

鳥型モンスターが全部で何種あると思ってるんだ。


渓流に掛かった、辛うじて『薄別橋』と書かれたプレートが見える苔むした欄干の橋を渡る。




「まあ、もし見つけたら教えてくr・・・・・・・。」


「コージさん?どうしました?」


「なあ。」


「?」



足を止めた浩二が、橋の上流側の川辺を指差す。



「あれ、駆け鳥だったりしない?」



浩二の指の先には、吞気に川の水を飲む、嘴が黄色で、毛色はカワセミのような綺麗な青色、瞳孔が縦に長くてちょっと可愛い人が乗れそうなサイズの二羽の鳥がいた。

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