第12話  第一村人?





人の営み途絶えた、雄大な北の大地。


森の木々の間から、3人の人影がはい出てくる。



「ヤバいヤバいヤバいヤバい!?」


「お前がヘマするからだろッ!」



何かから逃げるように、必死に草原を走る3人。

その時、背後の森の木々が、吹っ飛んだ。


「ギシャアアアアアー!」


以上成長したブナの木々を薙ぎ倒しながら、一匹の巨大な蟻が姿を現す。

いや、最早蟻と言っていいのだろうか?


触覚を含めれば、その大きさは優に30メートルを超え、頭部に複数ある目は赫赫と赤く輝き、丸太以上に太い六本の足をせわしなく動かし土煙を上げながら、三人を追って草原を爆走する。



「やっぱ禁足地調査なんて碌なもんじゃねぇー!」


「何でこんなクエスト受けたこのクソリーダー!」


「報酬が良かったんだよッ!それにこんなクエスト若者達に任せられるか!」


「それで死んだら世話ないやッ!」


「いいから黙って足動かせッ!」



息を荒げながら三人は必死に走る。

全員が革鎧やプレートメイルを身に付け、背中や腰には剣や槍などの前時代的な武器を身に着けていた。


よく見ればリーダーと思われる、片目に眼帯をしたスキンヘッドのクレイモア使いの背には、ローブを着て魔法杖を抱える一人の女性が背負われている。

怪我をしているのか、右足から血を流しぐったりとしている。



「置...て...け。私さ...いな...れば逃げ切れ...。」



背負われた女性は、擦れた声でそう言う。



「はっ、誰が置いていくもんか。4人で大金持ちになってやるって誓ったろうがッ。元ラガーマンの体力なめんなよッ。」


「おー、カッくいい!」


「そうだ!全員で帰ってちょっとお高いレストランに行くんだッ!」



熱き友情(?)を叫びあうそんな彼らだが、死の気配は土煙を上げながら着々と迫ってきていた。


ギギッギッギ!

丸太のような足と黒光りする重厚な顎が、4人を圧殺せんと迫る。



「やべぇ、これはマジでヤバいぞッ!」


「死にたくねぇよーッ!」




大蟻が四人をひき殺すまで、あと10メートル。


そして、遂にその前足が四人目がけて振り降ろされ・・・


キュルルルルーーー・・・・


突如、大気を切り裂くような甲高く、不快な音が彼らの鼓膜を強烈に揺さぶった。


「な、何だ!?」


「うおっ、気持ち悪りい・・・。」



キュルルルルーーー・・・・


再び同じ音が、彼らの鼓膜に猛烈な不快感を残して、通り過ぎていく。


今度は集中していたため音の発生源が分かった。


左から何かが音を発しながら高速で飛来してきた。


耳に残る不快感に顔を歪め、それでも走りながらリーダーと呼ばれた男は左を見る。



あれは、人か?


必死に走りながらも、目を凝らす。


数百メートル離れた場所を、二人の男女が馬・・・いやでかい鳥に騎乗して並走している。


男が銃のようなものを構えると先程と同じように、不快な音をたてながら何か、いや銃弾が目にも止まらぬ速度で飛来し飛び去っていく。



「救援かッ!?」


「わからんッ!とにかく走れぇ、うん?」



あれほど執拗に自分達を追いかけていた大蟻が急に進路を変更し、二人の方へと近づいていく。



「助、かった?」


「そう、みたい、だな。ふぅ、はぁ。彼らがひきつけてくれている間に距離をとるぞ。」


今にもオーバーヒートしそうな心臓を必死に抑え、息を整えながら話す3人。


「彼ら大丈夫か?二人だぞ?」


「あの乗ってる鳥?みたいな奴。ありゃあ速そうだし逃げ切れる自信があるから陽動してくれたんだろ。礼はあとだ。ここは手を煩わせないようにとっとと・・・・。」


再び走り出すリーダー。


彼が次に見たのは、突如飛来し、目の前の地面に突き刺さった蟻の脚部だった。



「へっ!?グウぉブシッ」


「「リーダー!?」」



幾ら魔力による強化により、常人よりも遥かに高い運動能力を持つハンターでも、人一人背負った状態で、突如鼻の先に出現した蟻の足という名の柱を回避することはできず・・・・


見事に、顔面を強打した。





________________




タッタッタッタッタッタッ・・・・・


路面を覆い尽くしたコケ類と短草を踏みしめながら、浩二とシエスを背に載せた駆け鳥・・・ジェイドとヤーデは国道5号線跡を南に進む。


最初こそ苦戦したが、シエスの指導と、鳥頭とは思えないほどの賢さを発揮するジェイドの自動運転機能により、取り敢えず普通に乗れている。


なんせ、障害物とかがあっても勝手に避けてくれるし、道に沿って進んでくれるため、浩二がしていることと言えば休憩の合図や、発進の合図、分かれ道でどちらに進むかを教えるだけである。


「マジで優秀だな、コイツら。」


「グウェ!」


浩二が呟くと返事をするみたいに鳴き声をするジェイド。

いや、賢いこいつのことだ。するみたいではなく本当に返事をしているのかもしれない。


こう聞くとゆったりと旅をしていると思うかもしれないが、実際には普通に車と同じくらいの速度で巡航している。


ヒグマの最高速度は時速50km程と言われるがあくまでそれは最高速度。瞬間でしかなく実際はすぐにバテてしまう。


だがこの二羽は巡航でこれなのだ。何時間もこのスピードを、しかも上に俺達を乗せた状態でキープできる。




「「「ガァウッ、ガァウッ!」」」


俺たちを発見した黒狼の群れが格好の餌だと追ってくるが、速度を上げたジェイドとヤーデ相手に距離を詰めることができず暫く追走すると諦める。

やはり徒歩での移動に比べるとどうしても目立つためこうして肉食モンスターに襲われるリスクは増す。

とはいえジェイドとヤーデのお陰で大半のモンスターはこのように労せず撒くことができているが。


出発したときは魔境となっている道内の移動に、少なくとも一週間は必要だと思っていたが、二羽の健脚による強行進軍のお陰で、半日で200km以上移動することができた。



「う、う~ん。私が知っている駆け鳥よりやっぱりちょっと優秀すぎる気が・・・・。」


「そうなのか?」


「い、いえ、私も乗ったのは久しぶりなので、何とも・・・・。まあ困ることでもないしいっか。」


ハルバードを騎乗状態で振り回し、上空から襲い掛かってきた弾丸燕の群れを切り伏せながら話すシエス。


ピキッ



「あっ。」


弾丸燕を斬り飛ばす為に、シエスが魔力をハルバードに込めた時、小さな金属音と共に刃にひびが入った。



「あちゃー、流石に限界か。」


「急に来たな。」


「まあ竜と戦った時に結構無理させましたし、魔力の通りで何となくダメそうとは思ってたんですけど、もうちょっと保って欲しかったな・・・。」


「代えは持ってるのか?」


「一応何本かは持ってるんですけど、これより良いのはないんですよね・・・どうしようかな・・・。」



・・・・竜との戦闘で魔力を注ぎ込みすぎたのだろう。

綺麗に輝いていた白銀の刃は所々黒っぽく変色している。

過剰に流れた魔力のせいで物質が変性している。


理屈はわからないが、物質にはどこまで魔力を注いでも大丈夫かの許容量というものがある。

その許容量を越えて注いでしまうと、こうなってしまうのだ。


物によってはそうすることで逆に強くなったりするのだが、大半の物質は元に比べて脆くなってしまう。


あそこまで変質してしまうと一から作り直したほうが楽だろう。




「俺でよければ作ろうか?丁度竜素材があるだろう。安全な場所に着いてからだし、時間は多少かかるだろうけど。」


「・・・・お願いしてもいいですか?代金は払いますので。」


「いや、いいよ。もう仲間だろ。」


「・・・そういうものですか?」


「そういうもんだよ。」



大沼を左手に眺めながら、二人と2羽は進む。

道南の方が比較的魔力の濃度が薄いらしく、植生の変化や建造物の風化も比較的緩やかに感じる。

海竜が岩上でのんびりと日向ぼっこしているのが見えた。


トンネルをくぐり、ちょっとした峠を走り抜ける。




「今日はこのあたりで野営かな。」


山際に暖かく輝く、太陽を見て言う。


完全に暗くなってから野営地を探したり、飯を作ったりするのは難しい。

既に七飯に入っているが、海峡を見るのは明日にして今日はこの辺りで休もう。




「よし、ジェイド。止まってくr・・・」



ズズーン!

たまたま眺めていた道の左側に広がる草原の丘。


その向こうにある森の木々が土煙と共に倒れるのが見えた。


ズーン!ズズーン!ズーン!


何かが森の中を移動している。



「うーん?モンスターか?」


「でかいですねー。あれは相当あらぶってますよ。」


「繫殖期の王蟻キングアントの巣にでも近づいたのかな?」



突然の揺れに小鳥たちが一斉に飛び立ち、小型モンスターはまきこまれまいと走り出す。


断続して響く地鳴りと、土煙は徐々にこちらに近づいているようだ。



「まあ、巻き込まれないうちにさっさと離れ・・・・。」


「待て!人だ。」


森から3人、いや4人の人影が飛び出してきたのが見えた。

鎧を着た男性が3人と、担がれた女性が3人。

身体性能と共に、魔力によって強化された浩二の視力が捉えた。


三人はそのまま森から離れるように走り、それを追うように後ろから王蟻が木々をなぎ倒して現れた。



「追われてるな。」


「追われてますね。」


「助けるか?」


「うーん・・・・・。」


少し不安そうな顔で悩むシエス。


「そんなに不安にならなくても大丈夫だと思うぞ?見た感じ向こうの方が大分弱そうだし。それに、今を変えたいんだろう?」



代り映えのない、独りぼっちの人生を。



「・・・そうですね。助けましょう。」


「おう。・・・・てか、俺と最初会った時に普通に喋ってたよな?」


「浩二さんは、何というか、話しやすい雰囲気の人ですから。あと私、追い込まれたらできるタイプなので。」



?そうかな?

その話だと友達が少なく、童貞である説明つかなくないか?



「まあ、もうそろ押しつぶされそうだし、さっさと助けに行きますか。行くぞ、皆!」


「はい!」


「「グウェ!」」



やっぱりこの鳥達たち、人の言葉わかってるだろ・・・・。


ジェイドとヤーデが速度を上げ、北の大地を疾走する。


命がけの追いかけっこを展開する四人とキングアントの側面に回り、背負っていた小銃ライフルを構える。


既に通常弾を装填済みだが、腰のポーチから鏑弾を取り出し、一発分追加で小銃に装填。


こういった時、スムーズに特殊弾を装填するため、常にマガジン一杯には装填せず一発分だけ空にしてある。

尚、普通なら、常に弾を銃に入れてある時点で猟銃免許持ってたとしても即免停な訳ですが、そんなこと言ってたらこの過酷な環境に適応できません。

だから、セーフティを掛けてあったとしても絶対に銃口を人に向けてはいけません。(迫真)



4人を踏みつぶそうと迫るキングアントの、鼻先を通るように狙いをつける。


ダァーン!キュルルルルーーー・・・・


大きく、何処か不快な音を発しながら弾丸は飛翔する。


もう一発装填し再び発射。


トレントの上位種にノイザートレントというやつがいるんだが、これはそいつの種子を加工して作った弾だ。

ノイザートレントは、草食モンスターが近づいてくるとこの種子を飛ばして自己防衛をするという面白い性質を持っている。

この種子の内部は複雑な形をした空洞が張り巡らされており、風を当てると笛のように、モンスターにとって不快に感じる音が鳴る。


色々実験した結果、虫に食われることが多いからか、特に昆虫類相手に効果を発揮することが多かった。


さて、幾ら大きくなろうともキングアントも分類的には昆虫系モンスターであり、


結果、狙い通りこちらに意識を向かせることができた。


キングアントがこちらに向かって進路を変更し、逃げる4人から離れる。


「よし、これで心置きなく戦えるな。」


「ですね。」



ミスリルの弾頭に魔力を注ぎ込む。


狙うのは右前足の関節部。


目と神経に魔力を集中させ、身体機能を活性化させる。

爆走状態のため激しく動いているが、動きのパターン自体は単調だ。


魔力で強化されたこの身体性能なら、



撃鉄を、落とす。


乾いた発砲音が轟き、

青く輝くミスリルの弾頭が、一閃。


青い閃光は吸い込まれるようにキングアントの右前足の関節部に着弾し


関節部を破断させ、右前足を吹き飛ばした。



それを見て、シエスはハルバードを持ってヤーデの背中から飛び降り、銀閃となって駆ける。


突如六本ある足の一本を失ったことでバランスを崩し、キングアントはその凶悪な顎を強かに地面にぶつける。


体勢を整えた時には、斧槍を構えた吸血鬼が足元にいた。


己の身長よりも優に大きい、魔力を込めたハルバードを上段から軽々と右中足へ振り下ろし、関節を引き裂き、同時にヒビが入っていたハルバードの刃が完全に割れる。


刃の大きさゆえに切断とまでは行かなかったのを見るや否や、何を思ったか、魔力を込めた足でぶらぶらと繋がっている足を蹴り飛ばした。



文字通り蹴とばされた足は宙を舞い、


「「あっ。」」


退避行動を取ろうとする四人組の目と鼻の先に突き刺さり衝突事故を引き起こした。



尚、そんな悲惨な事故が発生している間に格の違いをわからせられたキングアントは、先が無くなった足を引き摺って逃げ出した。




「何やっとんの!?」


「すっ、すいません!私も足吹き飛ばしたほうがいい流れかなって・・・・。大丈夫、死んでないしセーフです!」


ならセーフ、かぁ?




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