第15話
いよいよ次が出番となった。
袖から見るステージは大きい。
手が震えそうになるが、手を握り
何百人もいるであろう観客が盛り上がっている様子が見える。全員がステージを見て、同じ曲で盛り上がっている。
「思ったよりすごいね」
「どんなステージだろうといつも通り演奏するだけだ。だろ?」
洋人はそう言うと、手首を左右に揺らしながらストレッチをしている。
「まぁこのステージも通過点だしね」
前のバンドの演奏が終わった。
「・・・行くぞ!」
4人で目を合わせると「次は今話題の高校生バンドSummer Blue」と司会者がアナウンスが聞こえた。
光輝くステージへ4人で歩いていく。
これからどれだけ4人で笑って演奏できるのだろう。
あと少しだからこそ、この一回を楽しみたい。
大人になる過程でたくさんの傷を作り、悩み苦しむこともあるだろう。
でもきっとあの夏を、この秋を思い出すたびに力をくれるに違いない。
未来は明るいと信じて進もうー。
多くの歓声が聞こえる。
自分たちの最高の演奏が始まった。
「もう泣かないでよ」
「すぐ連絡してよ?本当に絶対約束だからね」
「わかってる」
あれから一年が経った。
対バンは大成功で、観客たちが自分たちの音楽に合わせて手を叩き、洋人の号令で手を振ってくれた時は感動して震えた。
その日から3日間は興奮で上手く寝れなかったくらいだ。
「ごめんなさい」
そしてライブが終わって落ち着いた頃、風香は陽樹にデートに行けないことを伝えた。
「私、洋人のことが…好きだから」
「…やっぱりか」
「え?」風香が驚いた顔をすると、「バレバレだよ」と陽樹が笑った。
「ちゃんと答えてくれてありがとう。これからもバンド仲間としてよろしく」
陽樹に差し出された手を「もちろん、こちらこそよろしく」と風香は握った。
「…フラれちゃった?」
立ち去る風香を見ながら、拓海が尋ねると、「あぁ」と陽樹はしゃがみこんだ。
「結構本気だったんだけどなぁ」
「…きっといいことある」
「フッ、そうだな…。それにまだ諦めるとは決めてないし」
陽樹は立ち上がった。
「え?」
キョトンとする拓海を置いて、「俺は、諦めない!」そう言って陽樹も歩き出した。
夏のバンド大会は、洋人の宣言通り優勝した。
Winter Soulはメジャーデビューしたこともあり参加しなかったのだが、それが不服らしく、優勝したのに洋人のブスッとした顔がインスタに上がった。
今となっては、インスタのフォロワー数は1万人を超えている。
4人の集合写真がピン留めされている。
みんな最高にいい笑顔をしている。
この写真の服装がジャージじゃなかったらなと風香は思いながら、少し微笑んで今日の投稿にもいいねをした。
風香は空港で今までのインスタの写真を見返した。
たくさんの思い出が詰まっている。
SNSなんて自分には関係ないと思っていたが、こうやって振り返ってみると悪くない。
(楽しかったな・・・)
いよいよ仲間から離れて、旅立たないといけない。
「ふうかぁあ」
真海はもう何回目かわからないハグをした。
「風香ちゃん」
陽樹と拓海もやってきた。
「風香ちゃんがいなくなるのは本当に寂しいよ」
拓海も隣でこくこく頷いている。
「私もみんなと離れたくない」
「でも決めたんだよね?」
「…うん」
「お互い頑張ろう」
陽樹は第一志望の大学に無事合格した。
今はドラムの弾ける法律家を目指しているそうだ。
音楽も止める気はないらしい。
昼間は弁護士、夜はプロのドラマーってカッコよくない?とのこと。
「…身体に気をつけてね」
拓海も無事看護の専門学校に合格した。
ただやはり音楽のことも忘れられないと、看護師になるか、音楽の道で生きていくかは考え中だそうだ。
「2人も身体に気をつけてね」
風香が2人をまとめて抱き締めると、「おい」と後ろから声がした。
振り返ると洋人が立っている。
「何堂々と浮気してんだ」
「バーカ、海外じゃハグは挨拶なんだよーだ」
2人で目を合わせて笑う。
「…ちゃんとLINE返事してよね?」
「おぅ」
「あとケンカはしないでよね?プロになったらケンカとか大問題になるんだから」
「おぅ」
「ちゃんと睡眠もとってね?作曲したりしたら全然寝なくなっちゃうでしょう?健康第一なんだから」
「おぅ」
「えーっと、あと、あと、あと…」
「うるさいやつだなぁ」
洋人が風香の腕をぐっと引き寄せた。
洋人の胸の中に収まる。
「安心しろ、ちゃんと待っててやるから」
「…うん」
「なんか前髪にゴミついてるぞ?」
「え?!ヤダ」
「取ってやるから目閉じとけ」
風香は素直に目を閉じた。
顎に洋人の手が触れた。
次の瞬間、風香の顔は真っ赤になって熱くなった。
洋人の腕の袖口をギュッと握った。
ライラック 月丘翠 @mochikawa_22
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