第7話
「
翌日、
「痛てぇな。なんだよ、俺は眠いのに」
掴まれた腕を痛そうに撫でながら、風夏を軽くにらんだ。
「洋人、
「・・・何も言ってねぇよ」
「じゃあ何で突然辞めるなんて言い出したのよ。おかしいじゃない、タイミングも良すぎるし」
「知らねぇよ」
「そんなわけ」
「話はそれだけか?なら俺は教室に戻るぞ」
「洋人!」
洋人が教室の扉を開けて出ていく。
「ねぇ!本当にそれでいいの?」
風夏がそう問いかけると、少し立ち止まったが、そのまま教室へ戻っていった。
放課後、風夏は練習をさぼって、
あれから何度か陽樹にLINEしたが、返事がないので直接会いに行くことにしたのだ。
「・・・風夏ちゃん、洋人・・怒るんじゃ・・」
拓海が心配そうな顔をしている。
「いいのよ、あんな奴。怒らせとけば」
そんな会話をしているうちに、陽樹が女子たちに囲まれながら校舎から出てきた。
相変わらずのモテっぷりだ。
陽樹は風夏と拓海を見つけると、女の子たちに断りを入れて向かってきた。
「風夏ちゃん、制服姿もかわいいね」
いつもと変わらぬ笑顔で、声をかけてくる。
「陽樹くん、バンドのことなんだけど」
「・・・ごめんね。突然抜けるなんて言って」
「そうだよ、突然辞めるなんてどうして?」
「バンドはもういいかなって。もう来年には高3で受験生だし、勉強に集中した方が将来の為にはいいと思ってね」
「もういいかなって、そんな…。あんなに4人で頑張ってきたじゃない」
「・・・陽樹、らしくない・・・」
「拓海、俺無しでもちゃんとやっていけよ。どちらにしても大学にいけばもう俺の力は頼れないんだからな」
なかなか自分で話さない拓海に代わって、拓海の些細な行動や顔色でいつも陽樹は意見を代弁したりしていた。
拓海にとっても陽樹は大事な存在なのだ。
だが、陽樹は2人の問いに答えることはなく、「じゃあ、今日も塾に行かないといけないから」と陽樹は女の子たちの元へ戻っていった。
「ねぇ!ドラム好きなんじゃないの!」
風夏は、大きな声で陽樹に呼びかけた。
陽樹はこちらを振り返ると、「好きだよ」と言って寂し気に微笑むと、女の子の輪に入っていった。
「塾一緒にいこう」とはしゃぐ女の子たちの声が聞こえる。
「好きなのに、どうして続けられないんだろう・・・」
風夏は思ったことを口に出したが、誰も答える人はいなかった。
トボトボと風夏と拓海は歩いていたが、気づくとスタジオに来ていた。
「拓海くん、行こうか」
「・・・うん」
スタジオの扉を開くと、洋人がギターを弾きながら歌っていた。
洋人の歌声はいつ聞いても心地いい。
力強さもあるが、こちらの気持ちを温かくさせるような声をしている。
真剣に歌い、ギターを弾いている。
洋人は音楽の道で生きていきたいのが伝わってくるし、生きていくべきだと感じる。
何よりこの時間が一番洋人は輝いている。
風香も拓海も声をかけられずに、ただ洋人が歌い終わるのを見ていた。
曲が終わると、くるっと振り返って「おい、お前ら遅いぞ」と睨んでくる。
「ごめん、ごめん」と言いながら、それぞれベース、キーボードの準備にかかった。
3人で演奏を始めると、やはり楽しくて、最高の気分になる。
自分自身が音楽から離れるなんて考えられないと風夏は思った。
「で、対バンについてなんだが」
演奏を終えて、洋人が話始めた。
「正直、対バンまでにドラムを探すのは難しい。あと一ヶ月程度だからな」
洋人も拓海ももちろん風夏もドラムをやっている知人なんておらうず、あてもない。
「だから、3人で勝ちに行こうと思う」
陽樹の代わりに誰かを入れるより、よっぽど納得いく結論だと風夏は思った。
「リズムをしっかり取れれば、3人でもいける。実際にドラムのいないバンドはいくらだっているんだからな」
洋人がそういうと、風夏と拓海は頷いた。
「ただドラムありきの演奏を俺らはしてきたから、変えていかなきゃいけない。つまり」
「つまり?」
「練習するしかない」
「まぁそれに勝るもんはないよね」
「あと曲もちょっとアレンジするものありだな」
「・・・バラードとかなら・・ドラムなしでも・・・いけるかも」
「バラードか。今まで作ったことないんだよな。チャレンジするのもありだな」
「そもそも対バンって何曲できるの?」
「2曲だ。だから盛り上げる曲とバラードで行くのはありだ」
ある程度意見がまとまってきたところで、洋人が手を前に出した。
「ここから忙しくなるけど、やってやろう」
拓海もそっと手をのせる。
「・・・僕も頑張る」
風夏もその上に重ねる。
「アレンジなら任せてよ」
「やるぞー!」
洋人が大きな声を上げると「おー!」と風夏と拓海もそれに倣った。
(陽樹くんがいればな・・・)
風夏はドラムの空席を見ながら、そう思わずにはいれなかった。
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