第14話
「ふぁああ」と
やっと最後の授業が終わった。
風夏は思いっきり背伸びをして眠気を飛ばそうとするが、そう簡単には消えそうにない。
「そんな欠伸してたら、また写真撮られてインスタにあげられるよ?」
昨日は弟に説教されて寝る時間が遅くなってしまったので、寝不足気味だ。
「明日はいよいよ対バンライブだね」
「そうなんだよね~なんか実感ないけど」
「頑張ってね」と真海は部活へ行った。
とはいえ今日は予定もないしな、と風夏は音楽室へ向かった。
ピアノの前に座ると、ゆっくりと鍵盤を弾く。
やがて深呼吸をして、ピアノソナタ月光を弾き始める。
この曲を弾いている時に
「洋人・・?」
「おぅ」
「どうしたの?」
「
「あぁ別に大したことじゃ」
「・・・あいつ何か言ってたか?」
「洋人みたいに友達がほしいし、打ち込めるもの見つけたいって言ってたよ」
「そうか」と少し嬉しそうに微笑んで、椅子に座った。
「海人くん、いい子だね」
「あぁ」
「また話してあげなよ」
「そうだな。俺もあいつと話したいし」
沈黙が流れる。
2人きりになると、調子が狂う。
なんだか上手く話せない。
風夏は、誤魔化すようにピアノを適当に弾いてみるが、ドキドキは治りそうにもない。
「風夏、卒業したら留学するのか?」
「え・・・なんで知ってるの?」
「たまたま聞いた、早川と話してるのを」
「あ・・そっか」
風夏はピアノの椅子から降りて、洋人の隣に座った。
「私は、音楽が好きだからこれから先もずっと音楽に関わりたいって思ってる。でも金銭的にも音大は厳しいって思ってる時に先生から紹介されたの。先生の友人がピアニストでそのピアノの先生が有名なピアニストで、そこで勉強してみないかって誘われた」
ふっと立ち上がって、グランドピアノに触れる。
夕日が当たってピアノが輝いている。
「私バンドもすごく好きだよ?1人じゃ得られないものもたくさんあるし、1人でやるより何倍も楽しいって思える。でもやっぱりピアノが私は好き。だから・・・」
風夏はスーっと息を吸った。
「私、高校卒業したら留学する」
洋人は少し目を丸くして「そうか」と言った。
「だから、バンドで活動できるのもあと1年・・かな」
「・・・そうだな」
「もし許してくれるなら・・・何年後かわからないけど・・・また」
そう言いかけて、風夏は口を閉じた。
「・・なんてね!新しいキーボード早めに探しなよね」
風夏は強がってそういうと、洋人に背を向ける。
「ばーか」
「何よ、突然」
「風夏以上のキーボードなんていねぇよ」
風夏の後ろに立ってくるっと自分の方を向かせた。
「頑張ってこい!俺がその間にめちゃくちゃ有名なバンドにしといてやるから」
じんわりと涙がにじんでくる。
風夏はそのまま洋人の胸に飛び込んだ。
「ありがとう。頑張る」
「仕方ねぇから、いつまでも待っててやる」
そう言って、風夏をぎゅっと抱きしめた。
翌日は晴天で、野外ライブにはもってこいの日だ。
風夏は母がこっそり用意してくれた衣装に身を包んで、会場近くの待ち合わせ場所に向かった。
人だかりができているところがある。
「あそこだな」
イケメンの周りには人が集まる。
なにより最近はインスタで少しずつ認知も高まっているから、余計にだ。
「風夏ちゃ~ん」
「ジャージもいいけど、今日の服装可愛いね」
「二人もすごくかっこいいよ」
風夏がそういうと「一人忘れてねぇか?」と洋人がふざけて睨んでくる。
「・・洋人もかっこいいよ」
昨日のこともあって、なんだか恥ずかしくなる。
会場に向かうと「兄さん」と海人の声がする。
振り返ると、海人が母親と立っていた。
「海人」
洋人がそういうと、海人は嬉しそうに「観に来たよ」と言った。
「母さん・・・」
「洋人、元気そうね」
「あぁ」
「・・・応援してるわ」
母親はそういうと、会場の中へ歩いていった。
「兄さん、母さんああ見えてずっと兄さんを応援してたらしいよ」
「・・知ってる。ライブにこっそりいつも来てたしな」
「知ってたの?なーんだ」
そう言って、「あとでね」と海人も会場の中へ向かっていった。
風夏のスマホが震えて、見てみると、母親からラインが来ている。
「拓海君と陽樹君のご家族にも偶然出会えたので一緒に楽しみます・・・写真?」
添付された写真をみると、3組の家族が乾杯している。
「もう飲んでる・・・」
風夏がため息をつくと、「もう仲良くなってるとかすごいね」と陽樹は笑った。
会場に着くと、アーティストの控室に案内される。
「いよいよだね」
たくさんの人が会場に詰め掛けているのが、音でわかる。
「今日は有名な人も来るもんね」と4人で歩いていると、「だから、もう何でそんな服を着てくるんだよ!」と後ろから声がする。
「別にいいだろ?イケてると思うけどなぁ」
と横を通り過ぎていく。
派手なオレンジ色のパーカーの背中には、BADと書かれている。
「なかなかの服のセンスだね」
陽樹が少し引いたように言った。
「私のジャージの方がマシだ」
そしてライブが始まる。
大きな歓声が鳴り響き、かなり盛り上がっている。
少し離れた控室まで聞こえてくる。
「いよいよだね」
「ドキドキするね」
拓海もコクコク頷いている。
「今日来ている客の全員を俺らのファンにするぞ」
全員が頷く。
「俺らの力見せてやろう!」
洋人が手を差し出す。
その上に拓海、陽樹と乗せる。
最後に風夏がそっと手を乗せると「絶対成功させるぞー!」という洋人の号令に、「おー!」と声を上げた。
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