プロローグ
-1
1、この手紙を渡されたあなたは渡した当人から怨まれています。
2、この手紙を渡されたあなたは渡した当人から仕返しをされます。
3、あなたは仕返しを回避することはできません。
4、あなたは仕返しをされたかわりに他の誰かに仕返しができます。
5、もちろん仕返しは倍返しにできます。
6、実行厳守です。
なお、この手紙は破いたり燃やしても効果は消えません。
ルールを破ったものには罰が与えられます。
――――――――――――――
ゆらゆらと揺らめく陽炎のよう、ぼんやりとした風景の中に現れた男が今、一枚の紙切れを突き出した。
髪はぼさぼさ、服も赤黒い染みだらけ、俯き加減で表情は見えないが、何かぶつぶつと呟いている。
不気味な男を前にしたひとりの女性が顔を顰める。
「……あんた、誰? 何なの、その変な紙切れ?」
まだ朝早い時間だ。
路地裏に人の気配は他にない。
「よくわかんないけど、人違いじゃない?」
肩から提げていた鞄の持ち手をぎゅっと握りしめた女性は、じりじりと後退りを始めた。
「あんたのことなんて知らないし……」
途端に顔を上げた男が、恨めしそうな顔で女性を睨みつける。
「僕のこと気づいてもいなかったの……こんなに君を愛しているのに」
「知らないって言ってるでしょ!」
男は、勢いよく駆けていく。
「やだっ! こないで!」
女性は鞄を叩きつけたが、男は微動だにしなかった。
ザクッ……
「いっ……」
女性は、その場に膝をつく。左の脇腹には刺し傷ができていて、赤黒い液体が傷口から流れ出ていた。
「い、いやっ……」と彼女は叫んだつもりだったが、恐怖と痛みで悲鳴は声にはならなかった。
「僕が悪いんじゃないんだ、僕が悪いんじゃないんだ」
アスファルトにナイフをカツン、カツンと何回も何回も突き立てていた男は立ち上がり、ナイフの先を再び女性に向ける。
「そう……僕の悪いんじゃない。君が悪いんだ」
その顔は快楽すら伺える――すでに正気じゃなかった。
「倍返しがルールだからね」
なんでもそう。初めは軽い弾みで始まるんだ。
最初は小川のせせらぎ程度でも、山を下り、いつしか下流は激流と深見が増す。
そして、広く青く大きな海原へ……モウ、トメラレナイ。
男はブツブツ呟きながら、時折笑みを浮かべた。
「いやああああああああっ!!」
ナイフは真上から振り下ろされて、女性の首元にザクリと刺さった。
ナイフが引き抜かれると、そこから血が吹き出した。
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