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「……死んでよ穂波」


幼い頃から何度も思った。

こんな奴、死んでしまえばいいと。


「あんたさえいなければ、私が愛されてたのに」


そう、世の中は不公平だ。

親や周りの人達に愛されようと必死に頑張った。

成績もトップ、素行も良くて、評判も良くて、見た目だって誰と比べても劣っていない。

死ぬほど努力した……ただ愛されたくて……それなのに。


愛されたのは私じゃなくて、妹の穂波。

グズでブスで何も出来ないバカ穂波。

馬鹿な子ほど可愛いってよく言うけど、そんなの許さない。

何もできない、何もしようとしないこんな奴に愛される資格なんてない。

「痩せてるのが羨ましいって、そう言ってたよね?」

私は包丁で、ザックリと穂波の二の腕の肉を削ぎ落とした。


「ぎゃああああああああああっ」


悲鳴が部屋中に轟く。

返り血が飛び散る。

足元をものすごい量の血が流れていく。

まるで真っ赤な絨毯だ。


「体型維持って、結構大変なんだよ。食事制限とか運動量調整とか」


血の滲むような努力があってこそ、人間は輝くんだ。


「それを、努力もしないで私みたいになりたい!? 馬鹿じゃないの!!」


ふざけんな。妬むばっかり、羨むばったりしか能がないくせに。


「そんなに痩せたいなら、こうするしかないよね?」


ザックリと、ふくらはぎの肉を削ぎ落とす。


「いやああああああああっ」


叫べ、もっと叫べ。


「他に落として欲しい所は?」


私だって、苦しくて何度も叫んだんだ。


――あんたのせいで。


「ほら…もっと肉を落とさないと…」


何かある度に「お姉ちゃんはいいよね…」の一言。


僻み根性だけは一人前で、そのくせ何かあると嘘泣きしたりして、人の気を惹いて。

そういうのが余計に腹が立つ。

顔には出さなかったけど、私の腸は煮えくり返ってとうに沸点超えてんだよ。

「顔だって、化粧とか気使ってんだよ」

穂波の頬に包丁を突き付ける。

「そっか、化粧でも補えないんだ」

包丁を高く、高く振りかざす。

「やめてっ!!」

恐怖に顔を引き攣らせる穂波。

「じゃあ、顔はないほうがいいね」

一思いに終わらせてやれ。


「やめてお姉ちゃんっ!!」


包丁をざくっと、顔に突き立てた。

その瞬間に、穂波は断末魔の叫び声を上げる。


「ぎゃあああああああああああっ!」


仕返しが終わると、意識が遠退いていく。

これでやっと呪いから解放される。

そう思った、そのとき。

「まだそんなつまんない遊びしてんの?」

突然風が吹いて、どこからか声がする。

驚いて振り返ると、そこには見知らぬ男が立っていた。

顔がボコボコにヘコんで、血まみれだ。

「ひいっ…」

「ああ、悪い悪い。元に戻すよ」

次の瞬間に、顔だけは普通の人間に戻る。

「みんな死ぬ間際の記憶に囚われ過ぎなんだよ」

彼は、スマートに笑って見せた。

それに引き替え、私のこの身体。

身体には一列に列んで穴が開いていて、そこから血がトポトポと流れ出ていた。

――これが、私?

そうだ、あの日、マンションの5階から落とされて串刺しになったんだ。

「あんたには用はないよ。後ろの、顔がない奴に用があってさ」

言われなくても、私はもう消えなくちゃいけない。

行き先は、きっと地獄だ。


「首がないなんて…心外だわ」


穂波の声がする。

彼は話し続ける。


「このゲーム、新しい遊び方を思い付いたんだ」

「何それ、どんな??」


――プツンと、そこで意識が途切れた。




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