-4
「……死んでよ穂波」
幼い頃から何度も思った。
こんな奴、死んでしまえばいいと。
「あんたさえいなければ、私が愛されてたのに」
そう、世の中は不公平だ。
親や周りの人達に愛されようと必死に頑張った。
成績もトップ、素行も良くて、評判も良くて、見た目だって誰と比べても劣っていない。
死ぬほど努力した……ただ愛されたくて……それなのに。
愛されたのは私じゃなくて、妹の穂波。
グズでブスで何も出来ないバカ穂波。
馬鹿な子ほど可愛いってよく言うけど、そんなの許さない。
何もできない、何もしようとしないこんな奴に愛される資格なんてない。
「痩せてるのが羨ましいって、そう言ってたよね?」
私は包丁で、ザックリと穂波の二の腕の肉を削ぎ落とした。
「ぎゃああああああああああっ」
悲鳴が部屋中に轟く。
返り血が飛び散る。
足元をものすごい量の血が流れていく。
まるで真っ赤な絨毯だ。
「体型維持って、結構大変なんだよ。食事制限とか運動量調整とか」
血の滲むような努力があってこそ、人間は輝くんだ。
「それを、努力もしないで私みたいになりたい!? 馬鹿じゃないの!!」
ふざけんな。妬むばっかり、羨むばったりしか能がないくせに。
「そんなに痩せたいなら、こうするしかないよね?」
ザックリと、ふくらはぎの肉を削ぎ落とす。
「いやああああああああっ」
叫べ、もっと叫べ。
「他に落として欲しい所は?」
私だって、苦しくて何度も叫んだんだ。
――あんたのせいで。
「ほら…もっと肉を落とさないと…」
何かある度に「お姉ちゃんはいいよね…」の一言。
僻み根性だけは一人前で、そのくせ何かあると嘘泣きしたりして、人の気を惹いて。
そういうのが余計に腹が立つ。
顔には出さなかったけど、私の腸は煮えくり返ってとうに沸点超えてんだよ。
「顔だって、化粧とか気使ってんだよ」
穂波の頬に包丁を突き付ける。
「そっか、化粧でも補えないんだ」
包丁を高く、高く振りかざす。
「やめてっ!!」
恐怖に顔を引き攣らせる穂波。
「じゃあ、顔はないほうがいいね」
一思いに終わらせてやれ。
「やめてお姉ちゃんっ!!」
包丁をざくっと、顔に突き立てた。
その瞬間に、穂波は断末魔の叫び声を上げる。
「ぎゃあああああああああああっ!」
仕返しが終わると、意識が遠退いていく。
これでやっと呪いから解放される。
そう思った、そのとき。
「まだそんなつまんない遊びしてんの?」
突然風が吹いて、どこからか声がする。
驚いて振り返ると、そこには見知らぬ男が立っていた。
顔がボコボコにヘコんで、血まみれだ。
「ひいっ…」
「ああ、悪い悪い。元に戻すよ」
次の瞬間に、顔だけは普通の人間に戻る。
「みんな死ぬ間際の記憶に囚われ過ぎなんだよ」
彼は、スマートに笑って見せた。
それに引き替え、私のこの身体。
身体には一列に列んで穴が開いていて、そこから血がトポトポと流れ出ていた。
――これが、私?
そうだ、あの日、マンションの5階から落とされて串刺しになったんだ。
「あんたには用はないよ。後ろの、顔がない奴に用があってさ」
言われなくても、私はもう消えなくちゃいけない。
行き先は、きっと地獄だ。
「首がないなんて…心外だわ」
穂波の声がする。
彼は話し続ける。
「このゲーム、新しい遊び方を思い付いたんだ」
「何それ、どんな??」
――プツンと、そこで意識が途切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。