第24話 魔女と秘密の薬草
王宮から依頼を受けた薬草を煎じたいため、しばらくは食事の時間も共にできないと言われた。
勝手にこの地へ送り込んでおいて、なおも彼女の自由を奪うとは何事だと行き場のないモヤモヤの矛先は王宮に向く。
あれからまともに彼女に会えていないのだ。
食事も準備をしておくといつの間にか空になった食器が戻ってきている。
ふたりで過ごす時間がなくなった。
絶望的すぎて嘆くくらいはさせてほしい。
一緒に食卓を囲んでいた頃が懐かしい。
「まっ、魔女様……」
意を決して彼女の部屋に声をかけてみたのはもうすぐ一週間が経とうとした頃だった。
「ちょっとお話があるのですが……あっ、先日購入した焼き菓子もございます! よかったらお茶でも……」
最初の頃の記憶が蘇り、半ば諦め気味で食い下がることもなく一度で引き下がろうとしたとき、彼女が出てきたのだ。
「まっ、魔女様……なっ、一体どうしたんですか!!」
喜ぶよりも先に絶句した。
「魔女様っ!」
彼女の指先が傷だらけだったのはもちろん、ボサボサになった黒髪をかき分けるとゲッソリさらにやせ細った頬はすすだらけで黒く汚れ、目元は真っ赤に腫れている。
「ああ、大変だ……な、なんでこんな……」
許可を取る間もなく彼女を抱え、出窓の側まで連れて行く。
目線の位置に彼女を座らせ、頬に触れても文句を言うわけでもなく彼女は虚ろな瞳でこちらを見ていた。
「痛いところはないですか? 怪我は……」
問いかけにはっとしたようにして、首をふる。
騒ぎ立ててもいけないとわかっていても、動揺してしまう。
「薬草を作っていたんですか?」
コクリと頷く。
「あなたをここまでしてまで作らなくてはいけないようなものならば、俺から丁重にお断りをしますよ」
目元は真っ赤になっていて、まるで先ほどまで泣いていたかのようだ。
「俺の……せいですか……?」
それだけは違ってほしいと願いながら、口に出ていた。
大きく瞳を広げたその様子は図星だろう。
それでも違うというように頭を振る。
「この前のことでしたら謝ります。決してあなたを蔑ろにしたわけではありません。意図をよく理解しないまま話を聞いてしまい、断るタイミングが……」
「お茶を……」
「えっ?」
「お茶を淹れます」
「ええっ?」
必死で絞り出した言い訳を突然遮られ、なおかつ予想外の提案をされて驚く。
「焼き菓子、食べたいです」
「えっ、あっ! はい! すぐ持ってきます」
予想外にも彼女とのティータイムが始まることとなり、感情が迷子になりながらもやっぱり有頂天で棚に入れてあったバスケットを取りに行く。
「チョコレート味やバター味、今おすすめのマロンの味もあって、いろいろありますよ」
どうしますか?と振り返ると、彼女はポットに両手を添えたところだった。
「魔女……様……?」
ほんの少しして彼女がテーブルの上にそれを乗せたとき、そこからはもくもくと湯気が上がっていた。
彼女はそこに水を注ぐ。
あっという間に暖かいお湯が出来上がる。
「すっ、すごい……」
驚きすぎて見入ってしまっていた。
「ま、魔女様、そんなことまでできるのですか?」
よく考えると、彼女が彼女の力を使うのを初めて見た。
「すごいです!」
「お茶を淹れるのは得意です」
「そうなんですか! 素晴らしいです! 俺もすぐに準備をしますね」
久しぶりに彼女と話せたことが嬉しくて、深くは考えていなかった。
自分のものをほとんど買わず、持っていないはずの彼女がどんなお茶を淹れてくれるかなんて、想像さえもしていなかった。
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