第42話 ドラゴンと騎士とその絆
「異空間?」
「そうです。我々の住んでいる森と同じです。誰にも知られていないのに、実際にはそこは存在している……そんな場所です」
「すごい、そんなことまでわかるんですか?」
騎士のひとりが乗り出し、驚いたように彼女はさりげなく俺の後ろに隠れる。
「わたしにここまでのことはできませんけど、魔女の使用した力はわかります」
「えっ……」
「祖母と同じくらい強い魔力を感じます」
ごくりと息をのむ。
王宮の魔女の力と言われると俺らはただただ無力の存在でしかなくなる。
「この力は悪いものではありません。むしろ、ここに住む人間に危害を加えないよう……」
彼女が言い終わる前に突然後ろから大きな音がして、茂みの中から鋭い爪が飛び出した。
とっさに彼女をかばい、剣を構える。
ハルクの声に合わせ、その場にいた騎士たちが戦闘態勢に入る。
ドラゴンだ。
金色の目をして牙を剥いた生き物が現れる。
思ったより大きくなかったが、容赦ない爪先に触れたら身が裂かれるのではないかとぞっとする。
もちろん王宮で鍛え上げられた騎士たちばかりではあるが、自分たちだけでなんとかできるものなのか。
そう思えるほど圧倒的な差を感じた。
後方にいた騎士たちが一斉に矢を放つ。
ドラゴンに命中するものの、あまり効果はないようだ。
それでもドラゴンの注意はそちらに向かい、方向転換を決めたドラゴンを今度はこちらから切り込む。
そういう作戦だった。
だがらそれが甘いということはすぐあとに知ることになる。
向きを変えてからは一瞬だった。
こちらが斬りかかる頃には、そこにドラゴンは物凄い速度で後方の騎士に襲い掛かったところだった。
両サイドから矢が放たれてもドラゴンはピクリともしない。そのまま勢いよく口から炎が放たれた。
ドラゴンの通過したところは木々が倒れ始める。
騎士たちの緊張した声が聞こえた瞬間、光が漏れる。
「えっ……」
周りの木からつるが伸び、ドラゴンに巻き付いたのだ。
「今のうちに逃げてください!」
彼女の声が響き、騎士たちはその場から身を離す。
見えるのは身動きが取れなくなって必死に炎を吐き続けるドラゴンの姿だった。
取り押さえようとする騎士たちも近づくことができず、今にも引きちぎれそうなつるをただただ眺める。
「矢をはな……」
「待ってくれ!」
指示を出そうとするハルクを制し、思わず声が出た。
「……おまえ」
絶対にそれだけはないと思っていたが、その姿に違和感を覚えた。
「ジャドール?」
「大丈夫です。ちょっと近づきますので魔女様は下がっていてください」
「えっ、隊長! ちょっ……」
「危ないです!」
「……久しぶりだな」
ドラゴンに声をかけた俺は頭のおかしなやつだと思われただろう。
剣をおさめ、前に回り込む。
「俺だ、ジャドールだ」
以前会った時はとても小さかったため、すぐに気づくことができなかった。
「これでわかるか?」
再び剣を抜き、構えるとドラゴンは動きを止め、大きな瞳をこちらに向ける。
ほんの一瞬だけ、無の空間が流れた。
先に沈黙を破ったのはドラゴンの方で、止まらぬ勢いでつるを引きちぎった。
突風が吹き荒れ、四方八方から新しいつるが伸びてきた時には怒涛のごとく迫ってきた爪先が頬をかすめたところたった。
「ジャドール!」
魔女様の金切り声が聞こえ、まわりが息をのんだのがわかった。
それでも次の瞬間、大きな体を丸くしたドラゴンが俺の胸元に頭を擦り寄せてきたのだ。
「仲間とはぐれたのか? ここはおまえのいるところじゃないだろ」
問うとドラゴンはゴロゴロと喉を鳴らした。その背には勢いよく巻きつけられたつるが力強く絡まっている。
「魔女様、大丈夫です」
と笑うと、彼女は泣きそうに顔を歪めた。
「あなたにご紹介したかった、俺のトレーニング相手です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます