第37話 ドラゴン退治と愛おしい魔女
「そうだ! 今日は午後から三キロほど離れた地点まで行こうと思ってるんです。外出の許可をいただいてもいいですか?」
朝食を取りつつ確認を行う。
この近くの土地でドラゴンの目撃情報があったのは聞いていたが、被害の報告も受け始めたため、騎士たちが本気で動き出すこととなり、近いからという理由で俺のところにも王家から出動要請の打診が来たのだ。
もちろんそんな近い距離にいて、こちらに危害を与えられても困るため、早々に退治したいと思っている。
この地はそう簡単に見つかることはないとは言え、不安要素は消しておきたい。
「あなたは自由の身です。わたしの許可はいりませんから自由にしてください」
問うと申し訳無さそうに彼女の瞳が俺を映す。
「あなたが留守の間、逃げもしませんから」
「大丈夫です。逃げたら逃げた先で俺と幸せになりましょう」
「なっ!!」
本当はこの人のことも誘えと言われていた。もしも人間の手に負えなかったら魔女の力も必要になる可能性があるというのだ。
もちろん、お断りだ。
彼女に危険が及ぶとわかっていて連れていけるはずがない。俺が倒せばいいだけだ。
「ジャドール」
「はい」
「わたしのことは、誘ってくれないんですか?」
「えっ?」
耳を疑った。
だ、誰が今……何と言った?
「いつも一緒にお出かけをしていますから」
「………」
突然大きな爆弾を投下された気持ちになった。
手に持つコップを落としそうになる。
「い、いえ、そんな大したところへは行かないので、あなたにわざわざご足労願う必要もないなぁって……」
何をそんなに慌てる必要があるのかと思いながらも必死に言い訳じみた言葉を並べる。
「わたしには会わせたくない人がいるんですか?」
「はい?」
会わせたくない人、というよりも、主に絶対に関わらせたくない生き物だ。
「そうですよね。あなたは人気者だし、会いたいと願う人も少なくはないですよね」
「ええ?」
「わたしができないことも満たしてくれる方もいるでしょうし、それなら……」
ちょっ……
「だぁぁぁあっ! 違います! 違いますよ!」
ちょっと待て。待て待て待て。
なにか大きな勘違いをしていないか。
まさか、他人との逢引を疑っているとでも言いたいのだろうか。
「ご安心ください! どんな想像をしたかは知りませんが、俺はあなた以外にときめかないし、反応しませんから」
「なっ、何がですか!」
「とにかく、あなた以外に会いたいなんて人はいません! 同僚が近くにいるから会いに行くだけです」
言ってしまってはっとするが、嘘ではない。目的は違えど会うことは本当だ。
「本当に、それだけ……」
「知っています」
「えっ」
「今朝の仕返しです」
ぷっと頬を膨らませ、彼女は顔をそらす。
「あなたは、大切なことほど何も言わない」
「ええっ……」
まさか。
「わたしにも出動命令は来ています。一緒に戦いますから、連れて行ってください」
「なっ!」
「ごちそうさまでした」
食べ終わった食器をきれいに重ねて持ち、彼女は席を立つ。
「ま、魔女様!」
「今から準備に入ります。絶対に置いていかないでくださいね」
去りゆく後ろ姿を呆然と眺め、我に返った俺は慌ててモフモフに手紙を託すことになる。
彼女は丁重に扱うということと、自分は『ジャドール』であるということ。
とにかく余計なことは言わないでくれと、ドラゴン退治よりも気が重い午後が無事過ぎゆくことを心底願った。
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