【ひと休み編】〜魔女の大切なもの〜
「魔女様が素晴らしい方で安心しました」
ひとりの騎士が予想していなかった言葉を漏らし、フローラを驚かせた。
「隊長……あ、正式にはもう俺らの隊長ではないんですけど、あの方……えっと、ジャドールさんはとても素晴らしい方なので、魔女様には失礼ながら魔女様の住む森で過ごされることを心配していました」
「心配どころか、隊長……いえ、ジャドールさん、生き生きしてますね」
「むしろあんなにも鼻の下を伸ばしてデレデレしてる隊長……いえ、ジャドールさんはは初めてですよ!」
口々に話し始められ、圧倒される。
「あちらからもこちらからもよくモテる人でしたけど、必要最低限しか接しようとしなかったので、新鮮です」
「ひ、必用最低限……意外です」
いつも必要以上に近づいてくるし、入り込んでくる人だ。
思わず笑ってしまう。
「でも、俺らには優しいんです」
「そうなんです! 俺らが気軽に話しかけて良い方ではない方なのに、気さくに接してくれる」
「揺るぎない方で、とても自分に厳しい方です」
憧れます!と次々に褒め言葉が並ぶジャドールの普段は見せない有能な騎士としての一面を聞けるのはフローラにとって嬉しいことであった。
「必ずやり遂げないといけないことがあるのだと、そのためには常にどんな犠牲も厭わない方でした」
「本当に、本当に本当にかっこいいんです!」
「そうなんですね」
フローラは笑みを浮かべていた。
抑えなければいけないと思いつつも、緩む口元を隠しきれなかった。
「魔女様……」
「はい」
「隊長のことは好きですか?」
どう答えていいのか。
自分などが感情を述べてもいいのか。
「おい、いい加減にしておけよ」
ジャドールがハルクと呼んでいた青年がまわりの騎士たちを制する。
「た、多分……」
でも、共有したいと思った。
「多分、あなたたちと同じくらい」
同じ気持ちの人たちとその気持ちをわかちあうなんて、なんて素敵なことだろうか。
フローラはそう思った。
「じゃあ、大好きですね」
「えっ!!」
「わぁー! 俺たちも大好きです!!」
「魔女様、一生ついていきます!」
弾けるような騎士たちの笑顔が溢れ、ハルクは苦笑しつつも口角を上げていた。
ジャドールという人間はなんて、なんて人に大切にされているのだろうか。
脳裏に浮かんだ彼の笑顔を思い出し、フローラは頬を染めた。
「魔女様、大好きです!」
「うぉー! 俺もだ!」
「おいっ!」
万歳をして興奮のあまり、フローラを崇める形になっていた騎士たちの後ろから鋭い声がして、彼らは飛び上がることとなる。
「むやみに近づくなと言っただろ」
話していた話題の張本人がそこに立っていて、フローラは穴があったら入りたかったが、ジャドールの頬に痛々しい傷があることに気づき、胸が締め付けられそうに痛くなった。
変わらないのは騎士たちだけだ。
「隊長! 俺、魔女様が好きになってしまいました」
「俺もです!」
「俺も!」
「ふざけるな、冗談じゃない」
「隊長がリタイアしたら、俺が変わりに森に行きます」
「俺から幸せを奪うな!」
あはは!と彼らは楽しそうに声をあげる。かつてもこうしてたくさん笑い、ともに同じところを目指して戦ってきたのだろう。
フローラには入れない大きな絆のようなものを感じられた。
「フローラ」
後ろに現れたのは、第三王子だった。
「少しだけ時間をもらったよ。付き合ってもらえるかな」
遠ざかる背中はきっと気づいている。
だけど、気づかないふりをしているのだろう。フローラに選択肢を与えるために。
結局、肝心なところで彼は自身よりフローラの考えを優先してくれる人なのだ。
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