十五歳 春
第6話 囚われの騎士の奮闘記
「すげーな」
毎朝同じ光景に、半ば呆れてしまった。
雲に覆われた灰色の朝は、昼間なのか夜なのかわからない。
ただただ持参した懐中時計が午前五時の時間を指しているため、今が朝の時刻をだと思っているものの、実際はこれが正しいのかどうかさえよくわからない。
毎日毎日こんな天気を目の当たりにしていたら、気も病むことだろう。
塞ぎ込むようにして逃げ帰ってきた騎士たちを思い出し、ぼんやり思う。
日課である朝のトレーニングを終え、小屋を囲む湖に向かう。
タオルを浸すとひんやりした感覚が手を伝って体を冷やしてくれる。
彼女のいるであろう寝室はずっとカーテンが閉め切られている。
寝ているのか起きているのかさえわからない。
朝ご飯は同じように用意しておくものの、彼女は室内から出てくる様子はなく心配になることもあった。
(なにか、彼女が食べられるものがあればいいけど……)
興味を引き、自然と足を運びたくなるような何かがあればいいのに。
手入れのされていない庭を見渡し、考えてみる。
クククククッ!
慣れ親しんだ声が聴こえ、顔を上げると頭上からゆったり膨らんだ生き物が降ってくる。
ボブン!とバルーンが弾むような音を立てて、その生き物は目の前で着地をした。
「今日も悪いな」
頭らしい場所を探して撫でてやると、クククッとまたその生き物は声を上げ、徐々にしぼんでいく。
この生き物は、王家とのやり取りの際に使用する運び屋だ。
手のひらサイズの丸い鳥が周りをふよふよと舞う頃にはその場は大きな箱でいっぱいになっていた。
中身を確認することもなく、箱をひとつひとつ自室のある小屋の裏側へと運ぶ。
生活のできる必要最低限のものはこうして手に入る。
騎士たちとこのやり取りが途切れ始めると彼らに限界がきているであろう危険信号でもあった。
やけに重い箱をひとつあけてみると食べ物がたくさん入っていて、どうやら家族からの荷物のようで兄や両親からの手紙が入っていた。
どうせまた心配の言葉が永遠と綴られているのだろうとポケットに突っ込む。
誰のチョイスなのか、マグカップを含む食器がいくつか入っていて、そう言えば彼女のコップを割ってしまったことを思い出した。
彼女とゆっくり食事を楽しめる日は来るのかと思いながら、ククッと鳴く丸い生き物に箱から出したばかりの人参を差し出す。
ものの数秒で人参を丸呑みしたその生き物は満足そうにククッと鳴き、そのままふわふわともと来た道へと戻っていく。
不定期にやってくるあの生き物が次にいつやってくるかはわからないけど、次に現れる頃には彼女の好きな食べ物をリクエストできたら良いなと思う。
手を洗い、両手いっぱいの野菜を抱えた俺は台所へと向かう渡り廊下に向かった。
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