第14話 夕食時は君を想う

 彼女の許可も下りたことだしと、午後からはあれやこれやとこれから入り用なものをリストアップして王宮に向けての文をしたためた。


 もちろん、きっと心配しているであろう王宮の魔女様にも大切な大切な孫娘について近況をお伝えした。


 ささやかな変化は感じられるものの、彼女の笑顔は戻らない。それどころか声すら聞くことさえ難しい状況だった。


 不甲斐ないと思えることばかりだったけど、今日は違う。


 あの不思議な生き物を『モフモフ』と呼び、可愛がっている様子は今までに見ることのない光景で驚かされたし、あの生き物に先こされたかと思うと複雑だったが、ぐっと胸が熱くなった。


 うまく表現できないと思いつつもそのことを事細かにまとめたらかなり分厚い文が出来上がってしまった。


 嬉しかった。


 とても嬉しかった。


 荷物を整理しながら、あるものを見つけた。


 兄上が入れてくれたもののようだ。


 円球の中に火薬が詰められている。


 火をつけて水に浮かべると水面で色とりどりの光を放って咲き乱れる水中花火である。


 王宮の魔女が夏の間の楽しみとして作ってくれたものだと聞く。


 騎士たちはそれぞれの合図に使っていたりもしていて使い道は豊富だ。


 それでも彼女と俺が使用するのであれば、使い道はひとつである。


 水面に花を咲かせよう。


 高ぶる気持ちを抑えきれないまま、夕食作りにとりかかることになる。


 今日は久しぶりにたくさん野菜を届けてもらったため、いつもよりもボリュームたっぷりなサラダができあがる。


「魔女様ぁ〜! 夕食ができました!」


 夕食の時間は朝とは違い、無理矢理彼女を呼びに行くことはせず、ベルを鳴らす。


 不要ならばそう告げてくれるよう伝えてある。


「あっ!」


 ガチャと探るように扉が開かれる。


 できるだけ最高に見える笑顔を作る。


「魔女様、こんばんは」


 それでも彼女は出てきてくれるようになった。


 俺がこうして毎日ふたり分の夕食を準備していることをわかってくれたからだろう。


 優しい人なのだ。


 長い髪で顔を隠すように戸惑いながらも出てきてくれる。


 彼女とこうして会えることが嬉しくて、じわじわと頬が緩んでいくのを感じる。


「作りすぎちゃいました。今日はしっかり食べてくださいね〜。あ、このポトフは初めて作ってみたんですが、お口に合わなければ残してもらって大丈夫なので」


 一言も発することなく、彼女は対面の席に腰を下ろす。


 そうして一生懸命食べてくれるのだ。


 こんなにも幸せな時間があるものか。


 毎日毎日、幸せを更新している。


 いつもいつも違う喜びがあるのだ。


『ありがとう』


 ここに来るチャンスを俺にも与えてくれたこと。


 心の底から感謝をしている。


 俺は、王宮の魔女に何度も何度もそう綴って伝えていた。


 


 


 

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