サイドストーリー: ケイトの視点その2



ケイトは朝の通勤ラッシュを抜け、オフィスに到着するまでの時間を頭の中で整理していた。いつもは家族との朝の時間をゆっくり楽しむ余裕があるのに、この日は子どもたちを急かし、仕事に早く行く必要があった。大事な会議が予定されているからだ。子どもたちの「行ってらっしゃい」の声が、何だか少し心に引っかかる。


彼女はフィオナとの会議に出るため、早めにオフィスに入り、準備を進めていた。最近、フィオナはプロジェクトの成功にますます情熱を注いでいる。その熱意は尊敬に値するが、ケイトは少し心配していた。フィオナがあまりにも仕事にのめり込みすぎているのではないかと。


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会議室のドアが開き、フィオナが入ってきた。彼女はいつも通り、輝かしい目で新しいアイデアを語り始めた。フィオナのエネルギーには圧倒されることが多いが、ケイトはそれに応じて冷静に質問を投げかけた。


「フィオナ、この次のステップについてだけど、いろいろなリスクも考慮している?」


「もちろんよ、ケイト。これを成功させるために、リスクも含めて全てを管理しているつもり」


フィオナはそう言いながら、資料に目を落とした。ケイトは、彼女の完璧さを追い求める姿勢が時折怖く感じることがあった。フィオナがどれだけ仕事に集中しているかは明らかだが、ケイト自身の視点から見れば、それは危うさを伴うものだった。


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会議が終わり、ケイトはオフィスを出て一息つくためにカフェへ向かった。彼女は窓の外を見ながら、家庭と仕事のバランスについて考えていた。最近は、子どもたちの成長とともに仕事の負荷も増してきている。フィオナのように仕事一筋で突き進むことができたら、キャリアはもっと加速するのかもしれない。でも、彼女には家族がある。それがケイトにとっての誇りであり、同時に制約でもあった。


「フィオナみたいに全てを仕事に捧げることはできない……でも、それでいいんだ」


ケイトは自分にそう言い聞かせた。キャリアを追求するのは大切だが、家族を大切にすることも同じくらい大切だ。彼女は、仕事と家庭のバランスを取るために、時には妥協しなければならないことを理解していた。それでも、彼女が選んだ道に後悔はなかった。


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その日、ケイトは仕事を終えて家に帰った。子どもたちがリビングで宿題をしている姿を見て、彼女はほっとした。家族と過ごす時間が、彼女にとって最大の癒しだった。子どもたちと一緒に夕食を取り、いつものように一日を振り返る。


「今日はどんな仕事だったの?」と子どもが無邪気に尋ねた。


「いつも通り忙しかったわ。でも、家に帰ってこれるのが一番嬉しいのよ」とケイトは微笑みながら答えた。


その時、ケイトはフィオナとの違いを改めて感じた。フィオナは仕事に全てを捧げる覚悟があり、それは素晴らしいことだが、ケイトは違う選択をしている。彼女にとっての幸せは、仕事と家庭の両立であり、そのバランスを保つことだった。


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次の日、オフィスでフィオナに会った時、ケイトはふと思い立って声をかけた。


「フィオナ、ちょっと話せる?」


フィオナが驚いたように顔を上げた。「もちろん、何かあった?」


「私たち、もう少し自分たちのことも考えてもいいんじゃないかと思って。あなたはすごく頑張っているけど、時には休むことも大事よ」


フィオナは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに真剣な表情に戻った。「わかってるわ、ケイト。でも、今は止まるわけにはいかない」


ケイトはその言葉を聞いて、小さく微笑んだ。「私も、あなたのその気持ちはわかるわ。でも、自分のペースを大切にして。仕事はいつでもあるけど、他の大事なことも忘れないで」


フィオナは少しの間考え込んだ後、静かに頷いた。「ありがとう、ケイト。あなたの言うこと、ちゃんと考えてみるわ」


ケイトはそれ以上何も言わず、ただ静かに彼女を見守った。フィオナは自分の道を進むだろうが、ケイトは自分の選んだ道を歩み続ける。それが彼女にとって、最も大切な選択だった。

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