エピソード11: 「再生の兆し」 (4/4)



フィオナの声は落ち着いていたが、内心ではエドの反応に大きな期待と不安が入り混じっていた。プレゼンテーションが進む中、エドの表情が少しずつ変化していることにフィオナは気づいた。彼の鋭い視線は資料に集中し、特に具体的な収益見通しに対する関心が高まっているようだった。


「私たちのプロジェクトは、初年度での収益見込みとして約10%の成長を予測しています。伝統工芸品のオンライン販売とエコツーリズムの観光収益が、安定した収益源として機能するようになっています。さらに、地元の農産物や手工芸品を活用した新しい商品ラインを開発中で、これが収益の追加要素となる予定です。」


フィオナが数字を示すと、エドはさらに深く資料に目を通した。彼の表情は冷静だが、その中にわずかな興味の光が見えた。彼はペンを回しながら、フィオナに質問を投げかけた。


「フィオナ、確かにあなたの提示した数字には納得できる部分がある。しかし、長期的なリスクについても考えているか? 観光業やオンライン販売は外部の影響を受けやすい。それが地元経済にどう影響を与えるか、もっと具体的に教えてほしい。」


エドの質問にフィオナは一瞬、緊張が走るのを感じた。彼の指摘は鋭く、彼女が予期していた通りの懸念だった。だが、フィオナは事前にその点も考慮していた。彼女は冷静に答えた。


「エド、確かに観光業やオンライン販売は外部の変動に左右されやすい。しかし、私たちはそれに対抗するために地域の持続可能な経済基盤を構築しようとしています。例えば、地元の製品を使った特産品の開発や、地域の教育プログラムを通じた若者の職業訓練にも力を入れています。これにより、地域内での経済循環を強化し、外部依存を減らすことができると考えています。」


フィオナの説明に、エドはしばらく黙り込んだ。彼は深く考え込みながら、資料を再度見直していた。彼の眼差しが資料に集中する中、フィオナはじっとその反応を待った。


「なるほど、地域内での循環を強化するというわけか。それは興味深いアイデアだ。外部の経済変動に対してある程度の緩衝材になるかもしれないな。」


エドの声には、以前よりも柔らかな響きがあった。彼はようやくフィオナのビジョンを本当に理解し始めているようだった。


「フィオナ、君の提案には確かに可能性を感じる。だが、最後にもう一つ確認しておきたいことがある。」


フィオナは緊張を抑え、エドの言葉を待った。彼は彼女をじっと見つめ、真剣な表情で問いかけた。


「このプロジェクトが失敗した場合、君はどう対応するつもりだ? 長期的なビジョンを持つのは素晴らしいが、現実には思い通りにいかないことも多い。それに備えるためのプランはあるのか?」


フィオナはエドの問いに対して一瞬考え込んだ。失敗のリスクは常に存在する。彼女はそのことを理解しつつも、自分の中には揺るがない信念があった。それは、彼女がこのプロジェクトにかけている情熱と、地域の人々と共に未来を築こうという強い意志だった。


「エド、リスクがあることは承知しています。しかし、私たちは失敗の可能性も視野に入れています。そのために、プロジェクトの進行段階ごとにフィードバックを取り入れ、柔軟に対応できる体制を整えています。もし市場の動向や外部要因が変わったとしても、迅速に戦略を修正し、最善の結果を追求するつもりです。地域の持続可能な発展は一朝一夕では実現できませんが、私たちは長期的な視点で取り組んでいます。」


フィオナの言葉に、エドは再び考え込んだ。彼は数秒間、静かにフィオナを見つめていたが、やがて微笑んだ。


「わかった。君の信念は本物だ。君がこのプロジェクトを成功させるために何をしてきたか、その努力を私は尊重する。君の言葉を信じて、私はこのプロジェクトに投資することを決断した。」


その言葉を聞いた瞬間、フィオナは胸の中で大きな安堵感を覚えた。ついに彼女の努力が実を結んだのだ。エドの信頼を勝ち取ったことで、彼女のプロジェクトは次のステージへと進むことができる。


---


その夜、フィオナは事務所に戻り、チームにエドの決断を伝えた。リアンもカイラも、その知らせを聞いて喜びの声を上げた。長い間続いてきた彼らの努力が、ついに具体的な形になろうとしていた。


「ついにここまで来たのね……」


フィオナは静かに呟きながら、これまでの道のりを振り返っていた。たくさんの困難があったが、その一つ一つを乗り越え、彼女はここまでたどり着いた。


「これからが本当の勝負だわ。」


フィオナはそう自分に言い聞かせ、次のステージに向けた準備を進めていた。エドの投資が決まったことで、プロジェクトは大きく動き出す。しかし、それはまた新たな挑戦の始まりでもあった。彼女は、これからもチームと共に歩んでいく覚悟を胸に抱きながら、夜空を見上げた。


夜の冷たい風が彼女の頬を撫でたが、その心には確かな希望の光が輝いていた。


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