エピローグ11:マイケル・オサリバンの視点 (1/2)



マイケル・オサリバンは、夜の冷たい空気に包まれた自宅の庭に佇んでいた。フィオナのプロジェクトがついに具体的な形となり、彼女が地域の未来を切り開く姿を見て、彼は誇りを感じながらも複雑な感情に揺れていた。


フィオナの成長を父親として見守ることができたことは、間違いなく喜ばしいことだった。彼女が金融の世界で学び、そしてその知識を生かして地元のために尽力している姿は、娘としてだけでなく、一人のリーダーとしても称賛に値する。彼女はこれまでの努力を結実させ、エドの投資を勝ち取った。しかし、マイケルの胸の奥には、古い傷のようなものがじわりと疼いていた。


彼の世代は、アイルランドが変革を迫られる時代を生き抜いてきた。小さな家具工場を経営していた頃、地域の職人たちが集まり、地元の材料を使って家具を作っていた。それは自分の誇りでもあり、家族を養う手段でもあった。しかし、外資系企業が次々と市場に参入し、地元の工場は次第に淘汰されていった。彼の工場も例外ではなかった。最終的に、彼は経営を続けることができなくなり、閉鎖を余儀なくされた。


「昔のことだ……」とマイケルは心の中で呟いた。だが、その記憶は未だに彼の胸の奥にくすぶっていた。フィオナが金融の世界で成功を収め、今や地域の未来を切り開くためのリーダーとして活躍しているのを見ると、その古い傷が再び開きかけるのを感じた。


娘が外資と向き合い、未来を作る立場になっていることに矛盾を感じるのは自然なことだった。フィオナは決して自分の過去を否定しているわけではない。しかし、彼女が進む道は、自分たちの世代が守り抜こうとしたものとは全く異なるものだった。古い世代として、彼が感じる感情は簡単に拭い去ることができない。


「フィオナは時代を超えて未来を見ているんだ」とマイケルは心の中で繰り返した。だが、自分の時代の苦しみや誇りが、時にはフィオナの成功と相反するように感じられることもあった。


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その夜、フィオナが家に戻ってきた。彼女はリビングで母のキャスリンと紅茶を飲んでいたが、マイケルは庭の外からその様子を静かに見守っていた。フィオナの表情には疲れが見えたが、その目には確かな自信が宿っていた。彼女はついにエドの信頼を得て、プロジェクトを一歩前進させたのだ。


「大したものだよ、フィオナ……」マイケルは娘に対して静かにそう呟いた。


彼は家に戻り、暖炉の前に腰を下ろした。フィオナは、母キャスリンとの会話を終えたあと、父親のそばに座った。二人の間には、しばらくの間、沈黙が流れた。マイケルは、フィオナがどれだけの努力をしてきたかを理解していたし、そのすべてを尊重していた。しかし、彼には言葉にできない感情が残っていた。


「フィオナ……」マイケルがゆっくりと口を開いた。「お前がここまで頑張ってきたこと、父さんは本当に誇りに思ってる。でも、時々考えるんだ。俺たちの世代が守ろうとしてきたものが、今どうなっているのかをな……」


フィオナは静かに父の言葉を聞いていた。彼女は自分の選んだ道が、父親の過去に何らかの影響を与えていることを感じていた。金融資本主義と外資の力を利用しながらも、彼女は地元の未来を守ろうとしている。しかし、それが父の誇りを傷つけることになっていないかどうか、心のどこかで不安を感じていた。


「父さん……あなたが守ってきたもの、決して無駄になっていないわ。私もそれを大切にしているし、だからこそ、今のやり方で未来を作ろうとしているの」


フィオナは優しい声で答えた。彼女は父の目を見つめながら、自分が築こうとしている未来が、過去の誇りを決して無駄にしないことを伝えたかった。


「わかってるよ、フィオナ。お前が何を目指しているのかも。でもな……時々俺は考えるんだ。この手で作った家具や、この地で守ってきた技術が、もう俺たちの世代では通用しないのかってな」


マイケルは、長い間心に秘めていた感情をようやく口に出した。彼は、自分が誇りを持って守り抜いた技術や工場が、現代の金融の波に飲み込まれていくのを見て、何もできなかった自分に対して無力感を抱いていたのだ。


「父さん、あなたが築いてきたものは、今も私の中で生きているわ。あなたが守ってきた伝統と技術、それは今でも価値があるし、私はそれを次の世代に伝えていくために、このプロジェクトを進めているの」


フィオナは父の手を握り、強くそう言った。彼女の言葉には、確かな信念が込められていた。マイケルはその手の温かさを感じながら、フィオナがどれだけ真剣にこの地域の未来を守ろうとしているかを再確認した。


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その夜、マイケルはようやく娘の成功を心から祝福することができた。彼の中に残っていた古い傷は完全に消えることはないかもしれないが、それでもフィオナが未来を切り開こうとする姿を見て、自分たちの世代が守り続けてきた価値が、新しい形で引き継がれていることを感じることができた。


「フィオナ……お前がここまで来たこと、本当に誇りに思うよ」


マイケルは静かにそう呟き、暖炉の炎を見つめた。その炎は、過去の苦しみも未来への希望も、一つにして揺らめいていた。

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