エピソード10: 「新たな道」 (3/4)



フィオナは事務所で、エドとの会議に向けた資料をもう一度確認していた。プロジェクトの全体像はできあがりつつあったが、まだ微調整が必要な部分が残っていた。彼女は、リアンやカイラ、そして地域のサポートを得たことで、プロジェクトがさらに強固なものになったことを実感していた。


「リアンが納得してくれたのは大きいわ。これで伝統と現代技術のバランスを取る道が見えたはず。」


フィオナは自分にそう言い聞かせ、次のステップを考え始めた。


彼女のプロジェクトは、伝統工芸品と観光業の相乗効果を狙っていた。これまで地域内で大切にされてきた伝統工芸品を、観光客や国際的な市場に広げていくことが、地域経済の持続可能な成長に繋がると考えていた。しかし、そのためには地元の人々が抱く懸念や不安を取り除かなければならなかった。


彼女はこれまで、地域の名士や学者、職人と協力して進めてきたが、実際のマーケティングや収益性に対する具体的な対策がまだ不十分だと感じていた。エドは彼女にその点を指摘していた。数字で示せなければ、投資は得られない。


「今度の会議では、もっと具体的な数字とスケジュールを見せなければ……」


フィオナは資料をじっくり見直しながら、エドの反応を想像していた。彼は合理的で冷静な投資家だが、フィオナのビジョンに対して興味を持ち始めている。彼女はそのチャンスを生かし、プロジェクトを次の段階に進めることができるはずだった。


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翌日、フィオナはエドとの会議に向け、再びダブリンの中心地にある高級ホテルへ向かっていた。彼女の胸には、これまでの準備がすべて詰まっているという自信があったが、それと同時に不安も押し寄せていた。


エドとの再会は、これまでの努力が実を結ぶかどうかを左右する重要な瞬間だった。


ホテルのロビーに到着すると、エドはすでに待っていた。彼は相変わらず落ち着いた表情をしていたが、その鋭い目はフィオナをしっかりと見つめていた。


「フィオナ、君の準備は整っているかい?」


エドの声には期待と冷静さが入り混じっていた。フィオナは頷き、資料をテーブルの上に広げた。


「はい、エド。今回は具体的な収益モデルと、プロジェクトの進行スケジュールを持ってきました。」


フィオナが話を進めると、エドは真剣な眼差しで資料に目を通していた。彼女は数字を示しながら、プロジェクトがいかに地域の経済を活性化させ、持続可能な形で成長していくかを説明した。


「私たちの目指しているのは、観光業を通じた地域の経済成長だけではありません。地元の伝統工芸を守りながら、それを世界に広めることで、新しい市場を作り出すことです。例えば、この地域の伝統的な木彫りや織物は、国際的な需要があります。私たちはその価値を最大限に活用するため、オンラインでの販売と現地体験型のツアーを組み合わせるつもりです。」


エドは資料に集中し、時折メモを取りながらフィオナの説明を聞いていた。彼の表情は依然として冷静だったが、時折興味深げに頷く姿が見えた。


「なるほど。確かに、アイルランドの伝統工芸には国際的なポテンシャルがある。ただし、その市場にどうアプローチするかが鍵だな。オンライン販売は競争が激しい分野だし、観光業も不確実な要素が多い。」


エドの指摘は、フィオナが予想していた通りだった。彼は現実的なリスクを重視し、感情に流されることなく冷静にプロジェクトを評価していた。


「もちろん、その点も考慮しています。だからこそ、私たちは地元の強みを最大限に活かし、他の観光地との差別化を図るつもりです。例えば、リアンをはじめとする地元の職人たちとの直接交流を観光の一部に組み込むことで、唯一無二の体験を提供することができます。それに、地元の歴史や文化を重視したエコツーリズムも加えることで、観光業に新しい価値を提供できると考えています。」


フィオナの説明に、エドは少し考え込んだ後、再び口を開いた。


「確かに、観光業に差別化を持たせることは重要だ。リアルな体験を売りにすることで、他のオンライン販売サイトとの差別化が図れるかもしれないな。ただし、その成功にはマーケティングの力が必要だ。カイラのデジタル戦略についても、もう少し詳しく教えてくれるか?」


フィオナはカイラが準備してくれたマーケティングプランを説明し始めた。SNSを使ったターゲットマーケティングや、地元文化をアピールする動画コンテンツの活用など、彼女たちはデジタル技術を駆使して観光業と工芸品のプロモーションを行う計画を立てていた。


「カイラのチームは、最新のマーケティングツールを活用して、特定のターゲット層にアプローチします。これにより、私たちのプロジェクトは国際的に広く認知されることを目指しています。」


エドはその説明を聞きながら、資料に目を通し続けていた。彼は少し考え込んだ後、再びフィオナに目を向けた。


「フィオナ、君のプロジェクトは確かに興味深い。これまでの準備もよくできているし、ビジョンにも共感できる部分が多い。ただ、最後にもう一つ、私が懸念しているのは、現実的なリスク管理の面だ。特に、このプロジェクトが失敗した場合、どのような対策を考えているか教えてほしい。」


フィオナは一瞬、エドの鋭い質問に緊張が走った。しかし、彼女はすぐに自分を落ち着かせ、冷静に答えた。


「エド、リスク管理についてはしっかりと考えています。私たちは段階的な進行を計画しており、各ステージでフィードバックを得て修正を加えるつもりです。また、地元の経済に与える影響についても慎重に検討し、持続可能な成長を確保するための調整を行います。万が一の失敗が起きた場合でも、私たちはすぐに次の手を打てる体制を整えています。」


エドはしばらく黙って考え込んでいたが、やがて微笑んだ。


「よし、フィオナ。君の情熱と計画には説得力がある。今回の提案、私は支持しよう。君たちのプロジェクトに投資する価値があると判断した。」


その言葉に、フィオナの胸には大きな安堵感が広がった。彼女の努力が報われた瞬間だった。


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