資本の織り手たち

エピソード6: 金融業界の力

フィオナは地元で数日を過ごした後、再び都会の金融街に戻ってきた。あの静かで平和だった田舎の風景とは打って変わって、金融街の喧騒が彼女を迎えた。高層ビルが立ち並び、忙しなく行き交う人々。成功と競争が渦巻くこの場所が、彼女にとって第二の故郷ともいえる場所だった。

だが、地元で見た現実が、彼女の心に大きな影を落としていた。都会での成功が確かに彼女にとっては大きな成果であり、誇りでもあったが、地元の人々が苦しんでいる姿が脳裏から離れない。

---

「フィオナ、次のプロジェクトの準備はどうだ？」

オフィスに戻ったフィオナは、エドからの問いかけを受けた。彼の声はいつも通り冷静で、まるでフィオナの内心の葛藤など一切存在しないかのように響いた。

「ええ、準備は順調です。次のスマートファクトリーの導入についても、見込み通りに進められると思います」

フィオナはそう答えたが、心の中では別の言葉が浮かんでいた。次のプロジェクトがさらに大きな利益を生むことは間違いないだろう。しかし、その裏でまた別の町が苦しむことになるのではないか、という思いが頭をよぎる。

エドは彼女の言葉に満足そうに頷き、机の上に書類を並べた。

「良い知らせだ。次のステージでは、さらに大規模な投資が見込まれている。フィオナ、君の手腕にかかっている」

彼の冷徹な視線が、フィオナに突き刺さる。エドにとって、成功とは数字で表されるものだ。利益が上がれば、それがすべて。彼の口から「地元の人々」や「労働者」という言葉が出ることはない。フィオナはその事実を痛感した。

---

その日の午後、フィオナは同僚のケイトと昼食を共にすることになった。ケイトもまた、数字と結果を重視する人物であり、フィオナのプロジェクト成功を称賛する立場にあった。

「フィオナ、本当にすごいわ。あなたのプロジェクトのおかげで、私たちの会社は今後数年間、安泰ね。次のプロジェクトも順調なら、ボーナスが期待できるわ」

ケイトの明るい声に、フィオナは微笑んで応えたが、その笑顔の裏に苦悩があった。

「ありがとう、ケイト。でも、最近少し考えているの。私たちが進めているこのスマートファクトリーの導入が、本当にすべての人にとって良いことなのかって」

ケイトは驚いた表情を見せた。「どういうこと？」

「私、地元に戻ったの。そしたら、私たちのプロジェクトが進むにつれて、多くの工場が閉鎖されて、地元の人たちが職を失っているのを目の当たりにしたの。成功は素晴らしいけれど、その裏で多くの人々が苦しんでいる」

ケイトは少しの間黙っていたが、やがて冷静に答えた。「それは、仕方がないことよ。フィオナ、ビジネスの世界では、常に誰かが勝ち、誰かが負ける。効率化が進めば、古いものは淘汰される。それが現実なのよ」

「でも、それで良いの？」

フィオナの問いかけに、ケイトは肩をすくめた。「それが現実よ。私たちが感情に流されていたら、ビジネスは成り立たないわ。重要なのは、私たちが得る結果だけ」

---

フィオナはケイトの言葉を聞きながら、自分の中で答えを見つけられずにいた。エドもケイトも、成功と利益を重視するが、それがすべての人々にとっての成功ではないことを無視している。彼らは現実主義者であり、数字と結果を追い求めることが正しいと信じている。

だが、フィオナはそれに納得できなかった。自分のプロジェクトが生み出す結果が、地元の人々の生活を破壊しているという現実。彼女は、エドやケイトと同じように割り切ることができない。

---

その夜、フィオナはオフィスで一人、資料を見つめていた。次のプロジェクトの計画書には、さらなる利益が見込まれている。だが、その利益を得るためには、また別の工場が閉鎖され、労働者が職を失うだろう。それが分かっていて、この計画を進めるべきなのか。

フィオナの心は揺れ動いていた。成功と利益。それは確かに重要なものだ。しかし、それが他者に苦しみを強いるものであれば、本当にそれは正しいのだろうか。

---

次の日、フィオナはエドと再び会議で顔を合わせた。彼はいつも通り冷静で、数字を見ながら次のプロジェクトの進行を確認していた。フィオナはその彼を見つめながら、自分の中である決意を固めつつあった。

「エド、このプロジェクト、本当にこのままで良いのでしょうか？」

彼女の突然の問いに、エドは目を細めて彼女を見た。「どういう意味だ？」

「私たちが進めているプロジェクトが、多くの人々に苦しみを与えていることを、考えたことはありますか？」

エドは一瞬黙り込み、そして冷静に答えた。「フィオナ、君はビジネスを感情で捉えている。それは良くない兆候だ。成功には犠牲が伴う。それが資本主義の現実だ」

その言葉に、フィオナは改めて自分の立場を見つめ直すことになった。彼女はこれまで、成功のために突き進んできたが、その成功が他者に犠牲を強いるものであれば、本当にそれは正しいのか。