第13話 ハプニング!?
目を覚ますと、体はだいぶ軽くなっていた。寝すぎたせいか、腰が痛く、体が少し鈍く感じるものの、昨日のような重だるさはない。
スマホを見ると、まだ朝の早い時間だった。
「よし、もう体調はバッチリかな」
ベッドからゆっくりと起き上がり、深呼吸を一つ。昨日までの怠さが嘘のように、気持ちがすっきりしている。
しかし、意識がハッキリしてくると、髪の毛のベタつきが気になって仕方がない。
たまには朝風呂も悪くないかもな。
シャワーを浴びるために部屋を出ようとドアに手をかけた瞬間、ふとクローゼットが目に入った。そこには、きちんとハンガーにかけられた俺の制服が掛かっている。
「……ん?」
俺は確か、テスト終わりにミアと出かけてそのまま熱を出して帰ってきたはず……
だが、今俺が着ているのは制服ではない。いつもの部屋着だ。頭の中に違和感が広がる。
「むむむ……?」
ゆっくりと制服に近づき、手を伸ばしてみる。畳まれたわけでもなく、シワ一つなく、綺麗にかけられているその姿に、明らかに自分がやった覚えはない。
誰かが、俺を着替えさせてくれた……?
一気に頬が熱くなるのが分かる。
「う、嘘だろ……」
手で顔を覆い、羞恥心が全身に広がるのを感じた。まさか……しかも、今こうして普段着を着ているということは、誰かが俺の体に触れて――
想像だけで頭が真っ白になる。
「い、いや、これは不可抗力だ。きっと嫌な思いをしながらもやってくれたに違いない……」
自分を落ち着かせようとするが、どうしても頭の中に浮かぶのは、その瞬間の出来事だ。誰が俺の服を着替えさせたのか――十中八九、このシェアハウスに住む三人の誰かに違いないのだが。
「ま、まさか……」
さらに考えを進めようとするが、これ以上想像するのは思春期の男の子には危険だ。
俺は首を振って思考を振り払い、クローゼットを閉めた。
「と、とにかく、まずはシャワーだ……!」
頭の中を一度綺麗さっぱりさせなければ。
恥ずかしさと焦りが入り混じったまま、俺は風呂場に向かったが、心臓の鼓動はまだ収まらない。
家の中は俺の心臓とは裏腹に静寂に包まれており、階下にある風呂場に向かう途中、誰も起きていない様子だった。
俺はドアノブに手をかけ、静かに風呂場の扉を開けた。
「ふぅ、誰もいないな……」
安心して中に入り、脱衣所で服を脱いでいると微かに足音が聞こえた気がした。
まさか、俺にラノベ主人公よろしくラッキースケベ展開などあるわけがない。
一つ屋根の下に、男一人と女三人がシェアハウスしているだけだ。
服を脱ぎ終えてタオルを取り、シャワーを浴びる準備を整えたその瞬間、脱衣所のドアが突然開いた。
「えっ!?」
声にならない叫びを押し殺し、振り向くと、目の前には下着姿で立っている侑香先輩が――。
「きゃああああっ!!」
彼女の驚いた声が風呂場に響き渡り、俺は反射的にタオルで自分を隠した。
「な、なんで君がここにいるのよ!?」
「俺のセリフだ! なんで先輩が……!」
お互いに視線を合わせないまま、言い訳しようとするも、状況が状況なだけに言葉が詰まってしまう。
気まずさで頭が真っ白になり、逃げ出したい気持ちが強くなっていくが、体が動かない。
そもそもなんでそんな格好なんだよ……俺はともかく、お風呂場の外からきてるのに下着姿なのは反則でしょ。
「ご、ごめんなさい!なにも見てないから……!」
侑香先輩は慌てて脱衣所を飛び出し、その姿が見えなくなった瞬間、俺はようやく息をついた。だが、心臓の鼓動は止まらない。
「まさか……本当にこんなことがあるなんて……」
呆然としたまま、その場に立ち尽くしかなかった。
***
朝食の時間、食卓に集まった皆の前で、俺は今朝の出来事を必死に説明していた。
「それで……まあ、侑香先輩と風呂場でばったり会っちゃったんだ」
俺が話し終えると、全員の視線は顔を真っ赤にして俯いている侑香先輩に集まる。
ミアがケラケラと笑い、心は口元に手を当てて、笑いをこらえている様子だ。
「朝からゆーかの様子がおかしいと思ったけどそういうことだったのね。この卵焼き、すごくしょっぱいもの」
「こんなに取り乱す侑香先輩初めて見ました。あの時はそんな素振り少しも見せなかったのに」
侑香先輩はさらに真っ赤になり、視線を必死にそらしながら、「う、うるさい!」と小さな声で返した。
「急に裸見たらだ、誰だってびっくりするでしょ……!」
「ま、まあ、俺も予想外だったし、先輩が下着姿で入ってくるなんて思わなかったし……」
「だ、だから、言わないでってば!」
侑香先輩はあまりの恥ずかしさからか、顔を手で覆い隠してしまった。
「まあまあ、これ以上からかうと侑香先輩が可哀想ですし、この辺にしておきましょう。それに意外と時間危ないですよ」
心の言葉を聞き、時計に目をやると朝のホームルームまで三十分もない。
他の三人は自転車だからまだ多少は余裕があるものの、徒歩の俺はかなりギリギリだ。
急いでラップを敷き食べかけのご飯を乗せて適当なおかずを乗せて丸める。
「お先に行ってきます!」
俺は俺なりに元気よく声を出した。みんなのおかげで元気になったことがこれで少しでも伝わればいいなと思いながら。
「行っちゃった」
「あっという間でしたね」
「いつの間におにぎりを握れるようになったんだ……」
家事が出来ない俺はシェアハウスで暮らす 多古いすみ @isumi_489
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