家事が出来ない俺はシェアハウスで暮らす
多古いすみ
第1話 突然の新生活
目を覚ますと、窓から差し込む朝の光が眩しかった。いつものように布団から出て、リビングへ向かうと、母さんが台所で朝食を作っていた。
「おはよう、悠くん。もうすぐご飯できるわよ」
母さんの声に応えながら、テーブルに座った。今日は普段と違って、少し騒がしい雰囲気が漂っている。
「おはよう。今日はなんだかバタバタしてるね」
「うーん、まあね。でも、これも大事な準備だから」
そう言って母さんは皿に食べ物を並べながら、ふと立ち止まって何か考え込むような表情を見せた。
「そういえば、悠くん。今のご時世、家事ができない男は結婚できないって言うでしょ?」
「え?なになに、急にどうしたの?」
俺が驚いて尋ねると、母さんはにっこりと笑った。
「さあ悠くん、シェアハウスするのよ!」
「え?シェアハウス?何の話?」
何年か前に祖父母の家をシェアハウスにしたと言う話は聞いていたが、俺が住むなんて話は一切聞いたことがない。
「実はね、お父さんとこの間話し合って悠くんが家事スキルを身につけるために、高校入学と同時にシェアハウスに住ませる事にしたの」
「まさか、冗談だよね?」
「冗談なんかじゃないわよ。もう手配も済んでるから、今から荷物の準備をしてね」
母さんの言葉に、驚きと戸惑いが交錯する。何も知らされていなかった俺は、あっという間に話が進んでいくのを見守るしかなかった。
食事を終えると、慌ただしく荷物を整理し始める俺。家の中がどんどん混乱していく中、気づけばすでに昼過ぎ。あまりにの急展開に、俺はただ荷物を纏めることしかできなかった。
***
大きな荷物を抱えながら、俺は玄関の扉を開けた。
「なんでこんなことに……」
新しい生活が始まる場所、祖父母が残したこの古い家――今はシェアハウスとして運営されている――に足を踏み入れると、ほのかに木の香りが漂ってきた。長い間ここを訪れていなかったが、どこか懐かしい感じがした。
「悠くん、立ち止まってないで早く入って。まだまだ荷物はあるんだから」
後ろから母さんの声がかかる。俺は振り返って苦笑いを浮かべた。
「そんなに多くないでしょ、母さんはせっかちなんだから」
「そんなことないわよ、悠くん片付けに時間かかるから早く運ばないと一生ダンボールと生活することになるわよ」
「はいはい、分かったよ」
母さんに急かされるようにして、俺は荷物を家の中に運び入れる。靴を脱いで廊下を歩くと、木の床が軽く軋む音が心地よかった。
「悠紀、これが最後の荷物だ」
リビングから父さんが声をかけてきた。ダンボール箱を手渡され、俺はそれを自分の部屋まで運ぶことにした。階段を上がり、二階の一番奥にある部屋が俺の新しい部屋だ。ドアを開けると、そこには最低限の家具が配置されていた。これからここで、一人暮らしを始めることになる。
「高校生活のスタートと同時に急に決まったシェアハウスか……不安しかないがやるしかないよな」
俺は自分にそう言い聞かせながら、荷物を一つずつ解いていく。ふと窓の外を見れば、庭には大きな桜の木があり、まだ少し早いが、咲き始めた花が風に揺れていた。
一通り荷解きを終えると、日は沈もうとしていた。自分の片付け力の無さにうんざりしながら、俺は階下に降りてリビングへ向かった。そこでは、母さんと父さんが何やら楽しそうに話していた。
「悠紀、ようやく落ち着いたか?」
「うん、なんとかね。まだ全部は終わってないけど」
俺が答えると、母さんは微笑んで頷いた。
「これからだものね。新しい友達もできるかもしれないし、楽しみだわなんなら彼女なんかできちゃったりして」
「友達に彼女ね……まあ、頑張るよ」
俺はそう言いながらも、心の中で少し不安がよぎった。高校の生活も、シェアハウスでの生活も、すべてが新しいことだらけだ。
きっと最初は戸惑うことも多いだろう。そもそもシェアハウスに住むこと自体急に決まった話だ、これで戸惑いも不安もない方がおかしい。そんなことを思いながらたわいもない話を続けていく。
両親との会話が一段落ついたところで、玄関の扉が開く音と声が聞こえた。
「ただいま」
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