第3.5話 再会
協力してなんとか荷物を運び終わり、ふーっと息を吐くと彼女と目が合った。
「手伝って下さりありがとうございます。ダンケシェーン」
「いえいえ、気にしないで。これから一緒に生活するんだから。それにしてもまた同じ家で過ごすなんて思ってもみなかったよ」
以前、私の家がホームステイ先として受け入れをしていた時に彼女、ミア・ベッカーと初めて出会った。
「三年ぶりの再会ですね!」
彼女の笑顔は当時と変わらないように感じた。
「そうね、三年ぶりだなんて……本当に時間が経つのは早いわね」
私は自然と微笑んだのと同時に、あの頃の自分を思い出すと、胸の奥が少し苦しくなる。当時の私は、勉強に部活、あらゆる場面で親戚や両親の期待に応えなければいけなかった。それを当然と思い、当たり前のように過ごしていた私の目の前に彼女は突然現れた。明るくて自由奔放な彼女は、私の生活に小さな風穴を開けてくれた。
「ゆーか、どうしました?」
ミアの声に我に返り、私は少しだけ肩をすくめた。
「ああ、ちょっと思い出していたの。あなたがうちに来たときのことを」
「あの時のゆーかより、今の方がなんだか幸せそうな顔してるね!」
ミアは私の顔を覗き込むようにしながら、笑いかける。その言葉に、私は照れ隠しに笑みを浮かべるが、当時の自分が、他人である彼女にはどう見えていたのだろうか。
「当時の私は、周りの人の期待に応えることばかり考えていて、それが当たり前だと思っていたから、本当に自分が何をしたいのか、本当の自分がなんなのか全然わかってなかったの」
昂りそうになる感情を抑えるために深呼吸をする。
「だけど、あなたと一緒に過ごして、自由に楽しそうにしている姿を見て……少しずつだけど、私ももっと自分らしく生きたいと思うようになったの」
ミアはしばらく私の話を静かに聞いていたが、ゆっくりと口を開いた。
「そうだったんですね、そんなことも知らずに私……」
「私は、ミアに感謝しているの。だからそんな顔しないで」
ミアは一瞬、戸惑ったような表情を浮かべたが、すぐにその大きな瞳が輝きを取り戻し、彼女らしい明るい笑顔を見せた。
「そっか、じゃあこれからもいっぱいお手伝いしちゃおうかな!感謝されるって嬉しいから!」
その無邪気な言葉に、私も自然と笑みをこぼす。やはり、ミアの存在は私にとって特別なものだった。三年の時を経て、こうしてまた一緒に生活することになるなんて、あの頃の自分には想像もできなかっただろう。
「ふふ、ありがとう。これからもよろしくね」
「もちろん!だって今度は私たち二人だけじゃなくて四人になるんでしょ?そしたら楽しさドッペルよ!」
ミアが元気よく返事をすると、階段から足音が聞こえてきた。
「お二人とも、楽しそうにしているわね。ところで、悠くんどこに行ったかしらない?」
春子さんは少し首をかしげながら、家の中を見渡す。
「さっき玄関が開く音がした気がするので、もしかしたら朝に頼んだ買い物に行ってるのかもしれないです」
私がそう答えると、和泉さんは軽くため息をついた。
「そうなの……悠くん実は方向音痴だったりするから、ちょっと心配だわ」
心配そうにする春子さんの様子を見て、声をかける。
「彼は以前ここにきていたんですよね?でしたらきっと大丈夫ですよ。あまりにも遅くなればみんなで探しに行きましょう」
私の後に続いてミアがすかさず明るい声で言った。
「じゃあ、帰ってきたらびっくりするくらい美味しいご飯を作りましょうよ!」
その提案に私も春子さんも思わず頷く。
家の中で待つだけでは時間がもったいない。せっかくミアと再会したのだし、みんなで何かを一緒に作るのは、新しい生活の始まりとしても悪くない。
「それ、いい考えね。じゃあ、私も手伝うよ」
「もちろん!さっそく準備しましょう!」
ミアはすぐにキッチンに向かって駆け出し、私は春子さんと顔を見合わせて笑った。彼女の無邪気さにはついていくのが大変だけれど、そのおかげで場の雰囲気が明るくなるのは間違いない。
「ミアさんは本当に元気ね。私も一緒に手伝うわ。悠くん、帰ってきたらきっと驚くでしょうね」
春子さんも微笑みながら彼女の後を追った。
私はミアと春子さんの後を追いながら、これから始まる共同生活のことを考えていた。今までは一人でのんびりと過ごしていたこの家が、これからはにぎやかになりそうだ。
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