第16話 それぞれの道

 それから数週間が過ぎ、季節は少しずつ冬に近づいていた。藤原直人の日常は、以前と変わらず穏やかなものへと戻っていた。優奈との友人関係も落ち着いており、詩織との時間も穏やかで、心地よいものに感じられていた。


 だが、直人の中で何かが変わり始めているのを自覚していた。それは、彼自身の成長や、自分の感情に向き合う力が少しずつ強くなってきたという感覚だった。


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 ある放課後、優奈が直人に声をかけてきた。


「藤原くん、ちょっとお茶でもしない?」


 優奈はいつもと変わらぬ明るい笑顔を浮かべていたが、どこか真剣な雰囲気も感じられた。直人は軽く頷いて、二人で近くのカフェへ向かった。


 カフェに到着すると、二人は向かい合って座り、注文を待ちながら軽い会話を交わした。しかし、優奈は何かを話したいのを我慢しているようで、ふとした瞬間に言葉を選ぶ様子が見えた。


 しばらくの沈黙の後、優奈が口を開いた。


「藤原くん、私、実は…もうすぐこの街を離れることになったんだ。」


 直人は驚き、彼女を見つめた。


「えっ、本当?」


 優奈は軽く頷き、続けた。


「うん、孤児院の先生から話があって、別の施設に移ることになったの。今のところから離れるのは寂しいけど、新しい場所でまた頑張ろうと思ってるんだ。」


 その言葉に、直人はしばらく言葉が出なかった。優奈との日々が、当たり前のように続くと思っていた彼にとって、この突然の別れは衝撃だった。


「でも…それは急だね。いつ行くことになったの?」


「まだ少し先なんだけどね、準備もあるし、みんなにも少しずつ話さないといけないなって思ってたから、藤原くんに一番に話したんだ。」


 優奈は、以前の告白やその後の気まずさをすべて乗り越えたような、清々しい表情をしていた。直人は、その笑顔の裏にどれほどの強さがあったのか、改めて感じた。


「そっか…優奈さん、本当に強いね。」


 直人がそう言うと、優奈は少し照れくさそうに笑った。


「ううん、そんなことないよ。最初は不安だったけど、君と話しているうちに、自分の気持ちをちゃんと整理できたんだ。」


 優奈のその言葉に、直人は胸が温かくなった。彼女が自分の感情を乗り越えて前に進もうとしている姿に、自分も勇気をもらった気がした。


「寂しくなるけど、優奈さんが新しい場所で頑張れるように、僕も応援するよ。」


 直人のその言葉に、優奈は嬉しそうに頷いた。


「ありがとう、藤原くん。これからもずっと友達だからね。」


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 数日後、直人は詩織にそのことを伝えるため、再び神社を訪れた。境内に入ると、詩織はいつものように掃除をしていたが、直人が近づくと気づいて微笑んだ。


「こんにちは、藤原さん。今日はどうしましたか?」


「実は、少し話があって…」


 直人は優奈が街を離れることになったことを詩織に伝えた。詩織は驚いたように直人を見つめ、すぐに優しい表情に戻った。


「そうですか…寂しくなりますね。でも、優奈さんが前に進もうとしているのは、素晴らしいことです。」


 詩織のその言葉に、直人は少しホッとした。


「うん、彼女はすごく強くなったんだ。僕も、彼女の背中を押せるような存在でありたいと思う。」


 詩織は静かに頷き、少し考えた後、口を開いた。


「藤原さん、あなたもずいぶん成長しましたね。優奈さんとのことも、私とのことも、ちゃんと向き合ってきたから、今のあなたがいるんだと思います。」


 直人はその言葉に感謝の気持ちを抱きながら、詩織を見つめた。彼女がいつも直人を優しく支えてくれたことが、彼にとって大きな救いであったことは言うまでもない。


「ありがとう、詩織さん。君のおかげで、僕も少しずつだけど前に進めるようになったよ。」


 詩織は微笑みながら、境内の木々を見上げた。


「お互いに支え合ってきたのかもしれませんね。これからも、お互いの道を歩んでいけるように頑張りましょう。」


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 それから数日後、優奈の送別会が行われた。クラスメイトたちが集まり、みんなで優奈を笑顔で送り出した。彼女の新たな旅立ちを見守る中で、直人は自分自身の心が以前よりも強くなっていることを実感していた。


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 その後も、直人の生活は変わらず続いていった。詩織とは神社での静かな時間を共有し続け、優奈とは手紙やメッセージを通じて連絡を取り合う。二人との絆は変わらず、直人にとって大切なものとして残り続けていた。


 そして、直人自身もまた、自分の選んだ道を歩み始めていた。

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