第11話 気持ちの揺らぎ
翌日の朝、藤原直人はいつもより少し早く家を出た。昨日の詩織との会話で気持ちは落ち着いたものの、依然として優奈の告白が頭から離れず、考えがまとまらないままだった。二人の間で揺れ動く自分に、どこか不甲斐なさを感じつつも、直人は何かを見つけたいと思いながら、早く登校したのだった。
教室に入ると、まだ優奈は来ていなかった。彼女の姿がないことで少しだけほっとした自分に気づき、直人は苦笑した。彼女とどう向き合うべきか、自分が何を伝えられるのか――その答えはまだ見つからないままだ。
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授業が進むにつれて、直人は机に向かっているものの、頭の中は別のことでいっぱいだった。優奈の気持ちに応えたい気持ちと、詩織に対する穏やかな感情が交錯し、どちらを選ぶべきなのかがますますわからなくなっていた。
そんなとき、突然、優奈が教室に駆け込んできた。
「ごめんね、遅れちゃった!」
優奈はいつものように明るい笑顔を浮かべ、友達と軽く会話を交わしながら席についた。直人の方をちらりと見た彼女は、軽く手を振って挨拶をしたが、その表情にはどこか影があった。
「おはよう、藤原くん!」
「おはよう…」
直人はぎこちなく返事をしたが、優奈の表情に気づいていた。彼女の笑顔は、いつも通りの無邪気さを装っているように見えたが、昨日の告白が彼女にとってどれだけの勇気を必要としたかを思い出し、直人はますます複雑な感情に包まれた。
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昼休み、優奈が席を立って直人の方に近づいてきた。
「ねぇ、藤原くん。ちょっと話してもいい?」
優奈の声はいつもの明るさを保ちながらも、どこか慎重な響きがあった。直人は一瞬躊躇したが、彼女が真剣な表情を浮かべているのを見て頷いた。
「うん、いいよ。」
二人は廊下に出て、少し離れたところにある屋上へ向かった。屋上に着くと、優奈はフェンスに寄りかかり、遠くを見つめながら口を開いた。
「昨日のことだけど…気にしないで。急に告白しちゃって、困らせたよね。」
直人は優奈の言葉にどう返すべきか迷った。彼女が自分を気遣っているのがわかったが、その無理をしている姿が痛々しく感じられた。
「そんなことないよ。でも、優奈さんがどう思ってくれてるか、僕にはちゃんと伝わってる。…ただ、僕もまだ自分の気持ちが整理できてなくて。」
優奈は黙って直人の話を聞いていたが、その瞳にはかすかに寂しさが浮かんでいた。
「そっか…。藤原くんは、優しいから無理に答えを出そうとしてくれないんだね。ありがとう。」
彼女は軽く微笑んだが、その笑顔はどこか遠いものに感じられた。直人はますます自分の無力さを痛感し、優奈に何を言えばいいのかがわからなかった。
「でもね、私、待ってるから。藤原くんが自分の気持ちに気づくまで。だから、今は焦らなくていいよ。」
優奈はそう言って、直人の肩を軽く叩いた。彼女のその言葉が、逆に直人の胸を締めつけた。自分を信じてくれる優奈に応えられないことが、彼の心に重くのしかかっていた。
「ありがとう、優奈さん。」
直人はそれだけを返し、優奈も静かに頷いた。
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その日の放課後、直人は神社に足を運ぶことにした。詩織と過ごす時間が、自分の気持ちを少しでも整理できるのではないかと思ったからだ。境内に到着すると、詩織が鳥居の前に立っていた。彼女は直人に気づき、優雅に頭を下げて微笑んだ。
「こんにちは、藤原さん。」
「こんにちは、詩織さん。」
二人はしばらく無言で境内を歩いた。詩織は静かに直人の顔を見ていたが、特に何も問いかけることなく、その時間を共有していた。直人は詩織とのこの静かな時間が、どれほど自分にとって大切なものかを改めて実感していた。
「今日は、どうされたんですか?」
詩織が静かに尋ねた。直人は迷ったが、昨日のことを打ち明けることにした。
「実は…優奈さんが、僕に告白してくれたんだ。」
詩織はその言葉に少し驚いた表情を見せたが、すぐに穏やかな笑顔を浮かべた。
「そうだったんですね。優奈さんは、藤原さんにとって特別な存在なのでしょう。」
「うん。でも、僕…まだ自分の気持ちがよく分からなくて。優奈さんも大事だけど、詩織さんと過ごす時間も僕にはすごく大切なんだ。」
直人は自分の胸の内を正直に打ち明けた。詩織はその言葉をじっと聞き、静かに頷いた。
「藤原さんが悩んでいるのは、それだけ優奈さんのことも私のことも大切に思ってくれている証拠です。無理に答えを出さなくても、自然に気持ちが導いてくれる時が来るはずですよ。」
詩織はそう言いながら、直人に静かな微笑みを向けた。その言葉に、直人は少しだけ心が軽くなった気がした。
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家に帰った直人は、ベッドに横になりながら一日を振り返っていた。優奈との会話、詩織の優しさ――そのどちらも自分にとってかけがえのないものだった。だが、いつかは自分がどちらかを選ばなければならないのだろう。直人の心は、ますます揺れ動きながらも、少しずつ自分の気持ちに向き合い始めていた。
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