第10話 揺れる想いの中で

 優奈の告白を受けた翌日、藤原直人はいつも通り学校に向かったが、頭の中はその出来事でいっぱいだった。優奈の涙、真剣な表情、そして「好き」という言葉が繰り返し脳裏に浮かんでは消えていく。優奈の気持ちは真っ直ぐであり、彼女が自分にどれほどの思いを抱いているのかが伝わった。


 だが、自分はどうだろうか。彼女の告白に応えたいという気持ちはあるものの、詩織に対する静かな感情も無視できなかった。二人の間で揺れ動く感情に、直人はますます混乱していた。


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 学校に到着し、教室に入ると、優奈がいつもの席に座っていた。彼女は直人に気づくと、少しぎこちない笑顔を浮かべて手を振った。昨日の告白の後、どう接するべきか直人も悩んでいたが、優奈の表情を見て少しだけ安心した。


「おはよう、藤原くん!」


「おはよう、優奈さん。」


 お互いにぎこちないながらも、いつものように挨拶を交わした。優奈は明るく振る舞っているが、その笑顔の裏に、昨日の言葉を引きずっていることは明白だった。直人も、優奈が自分を気遣って無理に元気に見せていることが分かった。


 授業が進むにつれて、直人はますます落ち着かなくなった。優奈に対してどう接すればいいのか、そして詩織への気持ちをどう整理すればいいのか――答えはまだ見つからなかった。


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 昼休みが近づくと、優奈が隣の席から話しかけてきた。


「今日は一緒にお昼、どうする?」


 彼女の声には、ほんの少しの不安が混じっていた。それに気づいた直人は、迷った末に答えた。


「今日は…ちょっと考えたいことがあるから、一人でいいかな。」


 優奈はその言葉を聞いて、一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔を作って頷いた。


「そっか、分かった。じゃあ、また今度ね。」


 彼女は無理に明るく振る舞おうとしていることが分かった。直人はその姿に胸が痛んだが、今は自分の気持ちを整理する時間が必要だと感じた。


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 昼休み、直人は学校の中庭にあるベンチに座り、一人でお弁当を広げた。ぼんやりと空を見上げながら、優奈の言葉と詩織との静かな時間が交錯する。


 詩織の落ち着いた微笑み、優奈の無邪気で真剣な表情。どちらの存在も、今や直人にとって大切なものだった。しかし、どちらか一方を選ばなければならない時が来るのではないかという焦りが、彼の心を揺さぶっていた。


「どうすればいいんだろう…」


 自分に問いかけながら、直人は何度も考えを巡らせたが、結論は出なかった。時間だけが静かに過ぎていき、直人は答えの出ないまま、また授業へと戻るしかなかった。


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 放課後、直人は家に帰る前に神社に寄ることにした。詩織との時間が、今の自分にとって心を落ち着ける助けになると感じたからだ。神社に到着すると、境内は静かで、秋の夕日が赤く照らしていた。詩織はいつものように境内で掃除をしていた。


「こんにちは、詩織さん。」


 直人が声をかけると、詩織は柔らかい微笑みを浮かべて振り返った。


「こんにちは、藤原さん。今日は少し疲れているように見えますね。」


 詩織は直人の表情をすぐに察し、優しく声をかけてくれた。その言葉に、直人は少しホッとした。


「少し、色々考えることがあって…」


 詩織は掃除をやめて、直人に向かい合って座った。


「もし、話してもいいなら、聞かせてもらえますか?」


 その優しい問いかけに、直人は少し躊躇したが、次第に自分の思いを口にする決心がついた。


「実は…昨日、優奈さんが僕に告白してくれたんだ。」


 その言葉に、詩織の表情が一瞬だけ変わったが、すぐにいつもの穏やかな微笑みに戻った。


「そうですか…優奈さんが。」


「でも、僕…自分の気持ちがまだ整理できてなくて。優奈さんのことはすごく大事だし、彼女がどれだけ僕を想ってくれてるかも分かってる。でも、詩織さんと過ごす時間も、僕にとってすごく大事なんだ。」


 直人は自分の中で渦巻く感情を言葉にしながら、詩織の顔を見つめた。詩織はその言葉を静かに受け止め、深く頷いた。


「藤原さんは、とても誠実な方ですね。優奈さんの気持ちも、私との時間も大切にしてくれている。その気持ちは素晴らしいことだと思います。」


 詩織は静かに、直人の手に軽く触れた。


「でも、無理に答えを出そうとしなくてもいいんですよ。藤原さんが自分の気持ちに正直に向き合える時が来たら、それでいいんです。」


 その言葉に、直人は再び心が落ち着くのを感じた。詩織の静かな優しさが、今の彼にとって必要なものだった。


「ありがとう、詩織さん。少し楽になった気がするよ。」


 詩織は微笑んで頷いた。


「いつでも、私は藤原さんの味方ですから。」


 その言葉が、直人にとってどれほど心強いものかを改めて感じた。詩織との時間は、彼の心を静かに癒してくれる存在であることを再確認した。


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 その夜、直人は再び自分の気持ちに向き合った。優奈の無邪気で真剣な告白、そして詩織の穏やかで包み込むような優しさ――二人の間で揺れる感情に、直人はまだ答えを出せずにいた。


 しかし、焦ることなく少しずつ自分の心に正直に向き合うことで、いつか答えが見つかるのではないかと、彼は少しだけ信じられるようになっていた。

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