第9話 優奈の告白
翌日の放課後、藤原直人は少しそわそわした気持ちで校舎を出た。優奈からのメッセージに誘われた場所は、学校の裏手にある小さな公園だった。普段、あまり人が集まらない静かな場所で、直人も特に立ち寄ることはなかった。
「なんだろう…話したいことって。」
優奈の明るい笑顔を思い浮かべるが、なぜか今日の約束にはいつもと違う緊張感が漂っていた。昨日、詩織と話して気持ちは少し落ち着いていたものの、優奈とのこの瞬間が、何か大きな変化をもたらす予感が直人にはあった。
公園に着くと、すでに優奈がブランコに座って待っていた。風に揺れる優奈の茶色い髪が夕陽に照らされ、どこか切なげな雰囲気を醸し出していた。いつもの明るい笑顔はなく、少し真剣な表情で地面を見つめていた。
「優奈さん…待たせた?」
直人が声をかけると、優奈はすぐに顔を上げ、いつものようににっこりと笑った。
「ううん、大丈夫。藤原くん、来てくれてありがとう。」
二人はブランコの前に立ちながら、しばらく無言の時間が流れた。優奈は何か言いたそうだったが、言葉を探しているように見えた。直人も何を言うべきかわからず、ただ静かにその場に立っていた。
やがて、優奈が小さな声で口を開いた。
「藤原くん、私…ずっと言おうと思ってたことがあるんだ。」
その言葉に、直人は胸がドキリと高鳴るのを感じた。いつも元気で明るい優奈が、こんなに真剣な表情をしているのを見るのは初めてだった。
「実はね、私…孤児院で育ったんだって話、前にしたよね。」
直人は黙って頷いた。優奈が孤児院で育ったことは、彼女自身が以前話してくれたことだったが、あまり深く聞けないでいた。
「その時から、私はずっと、誰かに必要とされたいって思ってた。孤児院ではみんな優しかったし、先生たちもよくしてくれたけど、やっぱり本当の家族じゃないっていう気持ちはずっとあって…。」
優奈は言葉を詰まらせながら続けた。
「それで、藤原くんと出会ってから、私は少しずつ変わっていったんだ。君と話すと、なんだか安心できて、君がそばにいると私も強くなれる気がして…。だから、私…君のことが、好きなんだ。」
その瞬間、直人の胸の中で何かが大きく揺れ動いた。優奈が告白したその言葉は、真っ直ぐで、偽りのない感情が込められていた。彼女が抱えていた寂しさと孤独、そしてその中で直人に抱いていた思いが、すべて一気に溢れ出していた。
「優奈さん…」
直人はどう返事をすればいいのか、頭の中が真っ白になった。優奈が自分にこんなに強い感情を抱いていたことに驚くと同時に、詩織への気持ちもまた浮かんできていた。
「ごめんね、急にこんなこと言って。びっくりさせちゃったよね。」
優奈は少し俯いて、軽く笑ってみせたが、その目には涙が浮かんでいた。直人はその涙を見て、優奈が本当に不安だったのだと気づいた。
「いや…びっくりはしたけど、ありがとう。僕にとっても、優奈さんはすごく大事な存在だよ。」
直人はそう言いながら、優奈の気持ちにどう答えるべきか考え続けていた。しかし、心の中で詩織のことが強く残り続けていたため、優奈の告白に対して、すぐには答えを出すことができなかった。
「でも、今は…まだ、ちゃんと自分の気持ちが整理できてないんだ。」
直人がそう言うと、優奈は寂しそうに微笑んだ。
「そっか…。分かってるよ、藤原くんは優しいから、無理に答えを出そうとしなくていいからね。」
彼女のその言葉に、直人は胸が締め付けられる思いだった。優奈は自分の気持ちを押し殺し、直人のために無理に笑っているのが分かった。
「でもね、私は君が好きだって気持ちは変わらないから。それだけは覚えておいてほしいな。」
優奈はそう言い残し、立ち上がって歩き出した。直人はその背中を見送りながら、自分が今どれだけ優奈のことを理解しているのか、深く考えさせられていた。
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その夜、直人は自室で一人、机に向かいながら、優奈の言葉を反芻していた。彼女がどれだけ自分を大切に思ってくれているか、そしてその思いに応えられるのか――直人はますます深い葛藤の中に引き込まれていった。
一方で、詩織との静かな時間もまた、彼の心に強く残っていた。優奈の無邪気さと明るさに隠された孤独、詩織の静かで落ち着いた優しさ。どちらも、直人にとって特別な存在であることに変わりはなかった。
これから、自分はどうすればいいのか。直人の心は、ますます揺れ動いていた。
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