第8話 新たな気配

 週末が訪れた。学校のない日、藤原直人は少し遅めに起きた。昨日までの出来事を思い返しながら、窓の外を見ると、穏やかな秋の陽光が部屋に差し込んでいた。学校で優奈と過ごした時間、神社で詩織と語り合った静かな瞬間――そのすべてが頭の中で絡み合い、整理がつかないまま、直人は大きくため息をついた。


「何をすればいいんだろう…」


 つぶやきながら、直人はベッドから抜け出し、着替えを済ませて外に出た。今日も特に予定はなかったが、自然と足は神社へ向かっていた。詩織と過ごす穏やかな時間が、少しでも自分の中の迷いを解消してくれるような気がしたのだ。


---


 神社に着くと、いつものように詩織が掃除をしていた。彼女は直人が来るのに気づき、ゆっくりとほうきを置いて彼の方に向かって歩み寄ってきた。


「こんにちは、藤原さん。今日はお休みの日なのに、来てくれたんですね。」


「うん、なんとなく…ここに来ると落ち着くから。」


 直人は少し照れながら答えた。詩織は微笑みながら頷いた。


「ここは、私にとっても大切な場所です。藤原さんがそう感じてくれるのは嬉しいです。」


 二人は境内の石畳をゆっくりと歩きながら、秋の穏やかな空気を感じていた。風が優しく吹き抜け、木々の葉がささやくように揺れていた。


「詩織さん、今日もお手伝いとか、何かすることある?」


 直人が尋ねると、詩織は少し考えてから答えた。


「今日は特に忙しいことはありません。もし良ければ、一緒にお茶を飲みませんか?ゆっくりとお話しできる時間が取れそうですから。」


 直人はその提案を受け入れ、詩織に案内されて神社の奥にある小さな茶室に入った。詩織は手際よくお茶を用意し、静かに二人で向かい合って座った。お茶の香りが部屋に漂い、時間がゆっくりと流れていく。


---


「藤原さん、昨日のこと…少し気になっていました。優奈さんとのこと、どう考えているんですか?」


 詩織の問いに、直人は少し驚いたが、すぐに言葉を探し始めた。優奈との距離感について、彼はまだ明確な答えを出せていなかった。


「うん、実はまだよく分からないんだ。優奈さんはすごく明るくて、いつも元気だけど…どこか寂しそうに見えるんだ。彼女に対して何かしてあげたいって思うけど、自分がどうすればいいのか分からなくて。」


 直人はそう言いながら、自分の気持ちを少しずつ整理していった。詩織は黙って聞いていたが、その表情は真剣だった。


「藤原さんが優奈さんを心配しているのは、とても素敵なことだと思います。でも、無理をして彼女を支えようとしすぎると、藤原さん自身が疲れてしまうこともありますよ。」


 詩織の言葉は優しく、直人にとって癒しとなった。彼は少し肩の力を抜き、詩織が言ってくれたことを胸に刻んだ。


「確かに、僕自身も少し焦っていたのかもしれない。ありがとう、詩織さん。話せて少し楽になった気がする。」


 詩織は微笑み、静かに頷いた。


「それなら良かったです。私はいつでも藤原さんの味方ですから、気軽に頼ってくださいね。」


 その言葉に直人は心が温かくなった。詩織の存在が、自分にとってかけがえのないものであることを改めて実感した。


---


 茶室を出る頃、夕方の風が少し冷たくなってきた。直人は神社を後にし、帰宅するために足を進めた。詩織との時間は心を落ち着かせるものだったが、彼の中にはまだ優奈に対する思いが残っていた。


---


 その日の夜、直人は自室で机に向かっていた。宿題をやろうとするが、気持ちが散漫で、結局何も手につかずにぼんやりしていた。


 すると、スマートフォンが軽く振動し、メッセージの通知が届いた。画面を見ると、優奈からのメッセージだった。


「藤原くん、明日少し時間ある?ちょっと話したいことがあるんだけど…。」


 突然のメッセージに、直人は少し驚きながらもすぐに返信した。


「もちろん、大丈夫だよ。どうしたの?」


 優奈からの返事はすぐに返ってきた。


「ありがとう!じゃあ、明日放課後に会おうね!」


 それだけの短いやりとりだったが、直人の心には妙な緊張感が広がった。優奈が「話したいこと」と言った内容が何なのか、彼には全く見当がつかなかった。しかし、何か大きな変化が起こる予感がしていた。


---


 翌日の放課後、直人は少し緊張しながら約束の場所へ向かった。優奈と向き合うことで、彼は自分の気持ちにどのように向き合っていくのか。これからの展開が、彼自身にも予想できないほど大きな転機になるかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る