第3話 無邪気な笑顔の裏で

 週の半ば、藤原直人は学校に向かう足取りがいつもより少し軽かった。詩織との静かな時間が心に残り、なんとなく気持ちが落ち着いているのを感じていた。だが、その一方で、隣の席に座る優奈のことも気にかかっていた。


 教室に着くと、すでに優奈が席についていて、他のクラスメイトたちと楽しそうに話していた。優奈は学校に慣れてきたようで、クラスの中心にいることが増えてきた。しかし、彼女がふとした瞬間に見せる、どこか寂しげな表情に直人は気づいていた。


「おはよう、藤原くん!」


 優奈がいつもの明るい声で直人に挨拶をした。直人は少し笑顔を浮かべて返した。


「おはよう、優奈さん。最近、学校はどう?」


「うん、すごく楽しいよ!みんな優しいし、色々教えてくれるから。」


 優奈はそう言いながら、にこにこと笑っていたが、直人にはその笑顔がどこか作り物のように見えた。彼女の明るさの裏には、何か隠しているものがあるように思えたのだ。


 授業が終わり、昼休みになると、直人は優奈に声をかけた。


「ねえ、優奈さん、今日のお昼、一緒に食べない?」


 優奈は少し驚いたような顔をして、それから嬉しそうに頷いた。


「うん、いいよ!じゃあ、屋上に行こうか。」


 二人は屋上へと向かった。そこは風が心地よく吹き抜ける場所で、直人にとってもお気に入りの場所だった。屋上に座り込んで、二人でお弁当を広げると、優奈は直人の方をちらりと見た。


「藤原くんは、どうして私を誘ってくれたの?」


「え?いや、なんとなく…一緒に食べたら楽しいかなって思って。」


「そうなんだ。藤原くんって、優しいんだね。」


 優奈はそう言って、少し照れたように微笑んだ。直人はそんな彼女の表情を見て、やはり彼女が何かを隠しているように感じた。直人はそのことを聞こうか迷ったが、どう切り出していいか分からず、ただお弁当に手を伸ばした。


 お昼を食べ終わると、優奈はふと遠くを見つめた。


「藤原くん、私ね…時々、昔のことを思い出すんだ。」


「昔のこと?」


「うん。実は私、孤児院で育ったの。両親のことはほとんど覚えていないんだけど、たまに夢に出てくるんだ。あの時、もっとこうしていればよかったって…そんなことばかり考えてる。」


 優奈の言葉に、直人は言葉を失った。彼女が明るく振る舞っている裏で、そんな思いを抱えているとは想像もつかなかった。


「ごめん、変なこと言っちゃって。でも、藤原くんには話してもいいかなって思ったの。」


「優奈さん…大丈夫だよ。何かあったら、話を聞くから。」


 直人の言葉に、優奈は少し驚いたような表情を見せ、それからほっとしたように微笑んだ。


「ありがとう、藤原くん。」


 その日、優奈との会話が直人の心に深く刻まれた。彼女の無邪気な笑顔の裏に隠された孤独と、過去に抱えている悩みを知り、直人は彼女に対して強い共感を覚えた。


---


 夕方、学校から帰宅する途中、直人は再び神社の前を通り過ぎた。詩織との時間を思い出し、少しだけ寄っていこうかと考えたが、今日は家にまっすぐ帰ることにした。優奈との会話が頭から離れず、彼女のことをもっと知りたいと思う気持ちが強くなっていた。


 これから、直人は詩織と優奈、二人の少女との関係をどのように築いていくのか。彼の心は揺れ動き始めていた。

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