交差する想いの彼方へ
灯月冬弥
第1話 不思議な出会い
八月の暑い朝、藤原直人はいつものように自宅を出発し、自転車にまたがって学校へ向かっていた。彼の生活は何も変わらない日常の繰り返しで、それが直人には心地よかった。しかし、今日という日は、その平穏な日常が少しだけ揺らぐことになる。
学校への近道として通っていた神社の境内。古びた石畳の道を自転車で走っていると、突然、タイヤがぬかるみに取られた。直人はバランスを崩し、自転車から飛び降りるが、その勢いで地面に手をついてしまい、袖口を泥で汚してしまう。
「大丈夫ですか?」
思わぬ声に顔を上げると、そこには巫女服を着た少女が立っていた。彼女は心配そうな表情で直人を見つめている。直人は彼女に助けられ、手ぬぐいを借りて泥を拭き取った。
「すみません…ありがとうございます。」
「気にしないでください。この神社は、よくぬかるむので。でも、怪我がなくてよかったです。」
彼女は神楽坂詩織と名乗り、この神社で手伝いをしていると言った。その柔らかい笑顔と静かな佇まいに、直人はどこか温かいものを感じた。詩織と短い会話を交わした後、直人は再び自転車に乗り、学校へと急いだ。
学校に到着すると、教室はいつもより少しざわついていた。直人が席に着くと、担任の先生が教室に入り、新しいクラスメイトの紹介を始めた。
「みんな、注目してくれ。今日から新しいクラスメイトが加わることになった。桐原優奈さんだ。」
ドアが開き、明るい茶色の髪を揺らしながら、一人の少女が教室に入ってきた。元気いっぱいの笑顔を浮かべた彼女は、教室内を見渡しながら明るく挨拶をした。
「みなさん、初めまして!桐原優奈です。よろしくお願いします!」
彼女の無邪気で明るい笑顔に、クラス全体が和んだ。優奈はそのまま、偶然にも直人の隣の席に座ることになった。席につくとすぐに、優奈は直人に声をかけた。
「よろしくね、藤原くん。」
突然のフレンドリーな態度に直人は戸惑いながらも、「よろしく…」と返事をした。彼女の明るさは少し眩しすぎるように感じたが、どこか惹かれるものがあった。
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この朝、直人は二人の少女と出会った。静かな詩織と、明るい優奈。彼の平凡だった日常は、これから大きく色を変えていくことになる。その予感だけが、直人の胸の中に静かに芽生え始めていた。
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