2章 転機

第20話 5年後

人物紹介がメインの話です。

なんとなくでも登場人物をイメージしやすいようにしようと思いました。

また1章から5年経っています。

それと試験的に文体を第三者視点に変えてみました。


◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆



その場所は特別である。


壁には色鮮やかな色彩で王が王たり得るに至った英雄譚が豪華絢爛に描かれ、


その空間を囲むようにそびえ立つ瑠璃色の柱には、精緻な彫刻と金細工が施され、


床は磨かれた色とりどりの大理石で美しい紋様が描かれていて、


天井には美しい女神が初代国王に祝福を与えている様が神々しく描かれ、その周りは金、銀、宝石を用いて美しく飾り立てられている。


この空間に立った者を、「なるほど、王とは神に祝福されし選ばれた者なのだ」と納得させるような雰囲気がある。


その空間の最奥には10段程の階段が設けられており、上がりきったその先には木製の椅子が1脚置かれている。


豪華絢爛に飾られた空間とは対照的に、非常に簡素な細工しか施されておらず、初めて見た者はこのアンマッチさに違和感を覚えるかもしれない。


しかしこの椅子こそ、初代国王が神より授かった、この世界にただ一つの神樹で作られた椅子であり、この国の玉座である。




今その椅子に座り、横に立つ白髪の小難しい顔をした初老の男、この国の宰相なのだが・・・

その男と話をしているのがランスロット王国の第39代国王 フィリップ・ランスロットであった。



「王よ、今年も西の穀倉地帯の小麦の出来が良さそうですな。

9年前の帝国との争いで西の農地の四分の一が、荒地となった時はどうなることかと思いましたが・・・」


「ふむ、あの戦は我も肝を冷やしたわ。王都まであと一歩という所まで攻め込まれたからな。」


フィリップ王は大分白髪が増えた顎ひげを撫でながら、宰相に相槌をうつ。



「ええ、ローレン辺境伯家が国境を抑えつつ、帝国の侵攻軍を討ってくれたおかげで、何とか北西の国境まで押し返すことが出来ましたからね。」



「・・・だがその際、辺境伯家は国境を守っていた先代夫婦を失ってしまったのだったな…」


そう言って王は深く溜息をついた。


すると王の横に控えていた男の1人が口を開いた。


「しかし辺境伯家はそれでこの王都を守ることが出来たのです。臣下としての役目を果たす事が出来て、ローレン家も本望だったでしょう。」


肩まで伸ばした金髪、綺麗な顔立ちをした者が多いこの国でも目を引く美しい顔をした男。

第2王子のレイモンド・ランスロットだった。


続いてもう片方が口を開く。


「確かにな。それにちゃんと褒美として領地税の1年間の免除を与えている。まぁしかし、それとは別に感謝を忘れてはならんだろうな。」



第2王子と同じ金髪だが髪は短く男らしい顔立ちの男。

第1王子のリチャード・ランスロットだ。


横で聞いている宰相は王と王子に聞こえないように気を付けながら、そっと溜息をついた。

そして心の中で思う。



(何が「確かに。」だというのか・・・マクス辺境伯が支持を表明してくれたおかげで、継承順位1位になれたというのに・・・・)



宰相ジョージ・アシュクロフトは15の時に王家に仕え始めてから、かれこれ50年近く経つ。


宰相はまたフゥとため息を吐きながら思う。


先代の王はなかなかに聡明な人であった。

今の王も悪くはない。やれ凡庸中の凡庸と陰口を叩かれることもあるが、凡庸の何がいけないのかと思う。


足りなければ補えば良いだけなのだ。


9年前の戦を除けば、大きな争いを避け各国との微妙なバランスを保ち続けているだけで、本来ならば褒められて然るべきだと思う。


それに善き王としての素養があった。


しかしこの王子2人には、それが足りないのだ。


教育が悪かったのか?それとも呪いか何かか?

もし分かったとしても、今となってはもう遅すぎるのだが・・・


多分この2人のどちらかが王になる頃には、私は引退だろう・・・

しかし、可愛い孫娘が生きるこの国の将来を思うと・・暗澹たる気持ちになるのだ・・・




************


辺境伯家の客間


その部屋の壁は落ち着いたトーンの小花柄の壁紙で飾られていて、壁には歴代の当主が家族と共に描かれている絵が飾ってある。


木製の床は長い年月で経たのであろう重厚な色合いをしていて磨かれることによって独特の光沢を放っていて、


天井の大きな木の梁と共に上等な材質であろうことが伺い知れる。


その天井には簡素なシャンデリアが下げられており、部屋を暖かく照らしていた。


部屋を訪れた者に優しく落ち着きを与えるような、先程の王座の間とは対照的な空間。


何も知らない者が見れば、王国に少なからぬ影響力を持つ辺境伯家の客間とは分からないであろう。


その部屋の中心には大きな鈍い光を放つ木製のテーブルが置かれ、それを挟むようにオリーブ色のビロードが張られた3人掛けのソファが二つ置かれている。



「ユーティアは明日には帰って来るのだったな。」


奥のソファに座っている男が尋ねる。


その男は金色の長髪を後ろで結わっており、顎ひげは短く刈り揃えられていて、精悍な顔付きを更に引き立てている。

男の名はローレン家現当主 マクス・ローレン。


その両隣りには2人の女性が座っている。


右の女性は美しいのプラチナブロンドの髪を腰辺りまで伸ばしていて、切れ長の大きな目が特徴的な凛々しい雰囲気の女性。

ローレン家 第1夫人 ナタリア・ローレン。


左の女性は肩あたりまでのふわっとした艶やかなハニーブラウンの髪に、少し垂れ気味の大きな目が特徴的な優しい雰囲気の女性。

ローレン家 第2夫人 エリーゼ・ローレン。


「はい、父上。昨日届いた手紙にはそう書いてありましたから。」


向かいのソファに座っている男が答える。


金色の髪と顎ひげを共に短く刈り込んでいて、父親譲りの精悍な顔付きに、母親譲りの切れ長の目が良く似合っている男の名は、

ローレン家長男 ハリス・ローレン。


その横には、この世界でも珍しいピンクブロンドの髪を背中まで伸ばし、まるくてクリクリとした目の可愛らしい女性が膝の上に両手を揃えて上品に座っている。


その女性は去年ハリスの妻となった王弟殿下の愛娘フルール・ローレン。

その彼女が夫のハリスに尋ねた。



「ハリス様?ユーティアさんは、アリシアさんと本当にお付き合いされていないのですか?」



「あぁ、それとなく聞いてみたりしているのだけどな・・・」


ハリスは、ハァ・・と軽くため息を吐きながら答える。



「本当…ユーティアは男のくせに臆病過ぎなのよっ!まったく・・・」


そう声を上げた女性、

母譲りのプラチナブロンドの髪を母と同じく腰辺りまで伸ばして、大きな少し吊り目がかった切れ長の目が彼女に美人ながらも少しきつい印象を与えている。

しかしその実、とても優しい性格である。

彼女の名は、シエル・ローレン。


そしてソファの横に立つ彼女の左手は、共に立っている男の右手をしっかりと握っていた。



「ははっ・・」


苦笑しながら彼女を優しく見守るその男は、

肩に掛かるくらいの少しクセのある柔らかそうな金髪を中分けにしていて、

整った顔立ちに少し垂れた細目が印象的な優男といった感じだろうか。


特徴的なのはその男の左腕、上腕から下をそっくり覆うような虹色の光を鈍く放つ銀色の手甲をしていた。

彼の名はファーレス。


現当主であるマクスは彼を養子として迎え、

ローレンの姓を名乗らせようとしたが、彼はそれを頑なに断った。

家族として扱ってもらえるだけで充分だと・・


それについて最近ローレン家の者は皆こう思っている。


どうせ彼は近いうちに正式に婿養子として、

ローレンの姓を名乗るのだろうから・・・


もう…今は無理強いをしなくてもいいかなと



「シエル姉さんが、ユーティアの事言えるのかなぁ〜。姉さんだって・・やっっっと3ヶ月前から正式に付き合い出したくせに。」


シエルの言葉に、そう反応を返したのはユーティアの実兄 ダリル・ローレン。

ふわふわのハニーブラウンのミディアムヘアに長い睫毛の大きな瞳が特徴的な少し女性的な可愛い顔立ち。

その容姿からは、とても彼がこの王国最年少の槍聖だとは分からないであろう。



「うるさいわね。ファーレスが鈍感過ぎるのがいけないのよっ。そういうあなたはあの子とちゃんと上手くいってるの?」


シエルがすぐさまダリルに言い返す。



「もちろん♪昨日も孤児院にお土産を持って行って、そのままデートしたしね〜。」


笑いながらダリルがそう言うと、



「ダリル、ジャニスを大事にしてくれてありがとう。彼女はお転婆な娘だから、少々苦労を掛けると思うけど・・・

孤児院に預けられたばかりの頃はいつも泣いてばかりいたから・・、本当に良かったよ。」


ファーレスはダリルの方に向き直して礼を言う。その顔は間違いなく妹のことを思いやる兄の顔だった。


ダリルはそんなファーレスを安心させるように、ゆっくりと頷きながら



「安心してよ、ファーレス義兄さん。

ちゃんと義兄さんの結婚式にはジャニスと参加するからね。クスっ」


イタズラっぽく笑いながら言う。



「なっ!?」


顔を真っ赤にするシエルと、ニコニコしながらシエルの手を強く握り直すファーレス。


その風景を見て、


「ふふっ、わたくし本当にこの家に嫁ぐことが出来て良かったですわ。」


フルールが口を抑えながらクスクスと笑いながら呟くように言う。

その手をハリスに重ねながら。



「はぁ、何をやっているのかしらね。」


ナタリアが苦笑いをしながらため息を吐くと


「あらあら、まあまあw」


エリーゼは目を細めて微笑ましい風景を見る目をしていた。


「おいおい、茶番はそのくらいにしてだな…

ハリス、冒険者ギルドの『獣王国との国境沿いにある森にAランク魔獣のエリュマントスが出た』って情報は本当だったのか?」



ローレン家はファーレスの話を聞いて以来、冒険者ギルドをいくらか信用はしているが、信頼はしていない。


ギルドは国から独立しており、独自の組織を国境を超えて形成している。


だからマクスはハリスの提案で、ギルドに連絡員を常駐させることにした。


その連絡員にギルドから、

くだんの依頼について今対応できるAランクパーティーが居ないので、そちらで対応出来ないか』と相談があったのだ。



そこでマクスはユーティアとアリシアをその討伐に向かわせる事にした。


2人の実力を確かめる意味で、

ちょうど良いタイミングだった。



ローレン家は王国内に2つしかない、

「地下迷宮」の1つを管理している。


ユーティアは来月15歳を迎える。

マクスはそこで2人に「地下迷宮」に挑戦させようと考えていた。


その前の腕試し。


「はい、父上。ユーティアの手紙には…


『エリュマントスを2体、討伐した後に氷結アイスで凍らせているから、持って帰るのを楽しみにしていてね。』と書かれていました。」



◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆

読んで頂きありがとうございます。

大体2日に1話のペースで更新していく予定です。宜しくお願い致します。

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