第13話 BBQパーティー

次の日、いつものように庭で稽古をするために庭に向かおうと部屋を出ると、部屋の前でダリル兄さんが待っていた。


「あれっ、ダリル兄さんどうしたの?」


「庭に一緒に行きながら、ユーティアから新しい先生のこと教えて貰おうと思ってね〜。」


そっか、昨日あの後の夕食で先生の話をちょっとだけした。

森から帰る途中で会って、一緒に帰って来た程度の話だ。それだけじゃ気にもなるか。


「分かりました。でも僕も昨日会っただけなので大したことは話せないですよ。」


「うん、それでもいいよ〜。ありがとね。」


それから二人で一緒に歩きながら、先生から聞いた話や俺の先生に対する印象をダリル兄さんに話した。

兄さんはうんうん頷きながら、楽しそうに聞いてくれた。


「そっかぁ〜、ユーティアがそんな風に感じるんならきっと良い人なんだね。」


「はい、少なくとも僕はそう感じましたよ。」


庭に着いて、一緒に準備運動をする。

兄さんは一つ一つの動作が流れるように洗練されていて、やっぱり才能を感じるなぁ。


「よし、じゃあ始めよっか。二人きりでユーティアと稽古するのは今日で最後かと思うとちょっと寂しいね〜。」


そう言ってダリル兄さんは槍を構える。


「最後だし、今日は今までで一番厳しくいくからね〜!」


・・今日はお昼から用事があるんだけどな…




今日の稽古は今までダリル兄さんが如何に加減

をしてくれていたか、よく分かる結果だった。


俺の剣は空を斬るか、流される。

地面を何度も転がされた。

ただ怪我はしない。ちゃんと受け身を取れるように転がされるのだ。


「はぁっ、はぁ・・・はぁ…」


全身が怠くて、息も絶え絶え…

あーもうダメだ…、身体が動かない・・・


「最後にもう一度だけやるよ、ユーティア。

今度は僕の方からいくからね。」


ダリル兄さんの雰囲気が変わった・・・

腰を落として低く槍を構える。穂先は一直線に俺を向いている。


「いくよ。」


言うが早いか、兄さんが刺突を繰り出してきた。

俺は身体が重くて剣で弾き返すことが出来ない。槍に剣を合わせて軌道をずらす。


すぐさま次の刺突が繰り出される。

また剣を合わせて軌道をずらす…


何度かこれを繰り返して…、ふいに槍の軌道が変わる。巻き付くように、俺の剣が落とされる。

「あっ!?」


槍はまた兄さんの手元に戻されていて、兄さんから殺気を感じた。


ヤバい!!咄嗟に身体を左後ろに捻りながら魔力操作で落ちた剣を掴んで右手に引き寄せた。


槍が俺の身体すれすれを抜ける。俺は身体を捻る勢いそのままに、右手だけで剣を横薙ぎに振るった。


ヒュッ・・・


力が抜けていたのが良かったのかも知れない。今までで一番早い剣速だったと思う。

やった!と思ったら、横腹にすごい衝撃を感じた。

そのまま身体が横に飛ばされていた。


「がはっ、うぅぅ・・・」


初めての痛みだった。

地面にうずくまり、痛みを堪える。


兄さんが俺の方に向かって歩いてくる。


「はい、これ飲んで。ユーティア。」


兄さんが瓶を俺に渡してくれた。

細かい装飾が施されている透明な瓶。

中には虹色に輝く液体が入っていた。


「えっ、これってポーション・・・!?」


この世界にはポーションがあった。

だけどゲームみたいに簡単に手に入る物じゃなく、かなり貴重な物だった。

これ1本で金貨1枚はする。日本円にすると10万円くらいだ。


「うん、僕の貯めてたお小遣いで買ったんだよ。痛かったでしょ、ごめんね…。」


ダリル兄さんは一呼吸置いて、言葉を続けた。



「でもこれから先、成長するにはちゃんと痛みは知っておいた方が良いと思ったんだ。

今日が二人きりで稽古出来る最後の日だったから・・・。

…それとユーティアが最後に使ったチカラ…、

アレはちゃんと練習に組み込んだ方が良いよ。

何のチカラなのか、僕には分からないけど…、

きっとユーティアの切り札になると思うんだ。



それじゃあ、ちゃんとポーション飲んで、怪我を治してからお出掛けするんだよ〜」


最後には兄さんはいつもの調子に戻ってた。


「うん、ありがと兄さん。」


瓶を開けて、ポーションを飲む。

薄いポカリみたいな味、想像より美味しい。


おぉ〜どんどん痛みが引いていく、すごいな。

あっという間に痛みは無くなった。


「よし、もう大丈夫みたいだね!じゃあ僕はお昼に行くから、ユーティアも気をつけてね〜」


そう言ってダリル兄さんは戻って行った。

よし、俺も着替えてこなきゃな。


お風呂で軽く身体を流して、部屋に戻るとアリシアさんがいた。


いつものメイド服じゃない、薄い若菜色のワンピースを着ていて、ライトブラウンの髪のアリシアさんによく似合っていた。


「ユーティア様、まだそんな格好だったんですか!?早く着替えないと遅れちゃいます!」


「あっ、アリシアさんごめんなさい!すぐ着替えてくるから、ちょっと待ってて!」


急いで着替えて、部屋から出た。


アリシアさんは後ろ手で壁に寄りかかって、足をぶらぶらさせていた。

いつもはアップにまとめている髪を今日は下ろしているから、柔らかそうな髪が揺れている。


どくんっ!と心臓が跳ねた気がした・・・


あれ・・・・いやいやいや…


ないから…、頭の中で必死に頭を振って否定する。


「ユーティア様?・・・大丈夫ですか?」


その声にふっと意識が戻る。

アリシアさんは中腰になって、覗き込むように俺の顔を見ていた。


「うっうん、大丈夫だよっ!!」


そう言いながら、パッと顔を横に逸らした。


アリシアさんは人差し指を唇にあて、


「それならば良いのですけど…、では早く行きましょう!!バーベキュー楽しみですね!」


そう言ってニッコリと楽しそうに微笑んだ。



孤児院に向かう道すがら、アリシアさんと色んな話をした。食べ物は何が好きか、とかどんな花が好きかとか。


考えてみたら、アリシアさんとこうやって話すのは初めてだな。


俺は変に意識をしてしまい、昔みたいに目を逸らし続けてしまったけど・・・


きっと年上のお姉さんに憧れるみたいな感覚だ。なにせ俺はこの世界ではまだ9才だし。



それにまだ・・・

また気持ちを裏切られることが怖いのだ・・


正直あの苦しさはもう二度と味わいたくないと思う。





孤児院に着くともうバーベキューの準備が終わっていた。

子供達がわいわいしていて、その中心にファーレス先生がいた。


「ユーティア君とメイドさんの・・・、来てくれたんだね!ありがとう!!」


「先生、今日は呼んでくださってありがとうございます!」


「ユーティア様の専属メイドをしておりますアリシアです。本日はお招き下さり、心より感謝申し上げます。」


アリシアさんはワンピースの裾をその細い指で摘み、華麗にカーテシーをしてみせた。


「いやいや、そんなにかしこまらないで!

子供達と一緒にわいわい楽しんでくれると嬉しいな。あとアリシアさん・・ごめんね。」


「いえ、お気になさらないで下さい。本日は楽しませて頂きますね。」


アリシアさん、今日はすごく大人びてるな〜。

そういえば俺、何か忘れているような・・・


あっ、手土産を忘れてしまった…

急いで着替えて、部屋を出た時あんなことがあったからすっかり忘れてた・・・


せっかく昨日の夜シフォンケーキを作ったのに・・・シエル姉さんも手伝ってくれて、結構上手に出来たのにな…


前世では1人暮らしも長かったから、料理が趣味だった。

優奈と付き合い始めてからは、お菓子作りにも手を出して、アイツも喜んで食べてくれてた。

懐かしい・・・




「ユーティア、忘れ物よ。」


声がして振り返るとシエル姉さんが立っていた。


「えっ、シエル姉さん?」


「調理場に置きっぱなしになってたわよ。なんで忘れて行くのかしらね…まったくもう・・・」


シエル姉さんの手には昨日焼いたシフォンケーキが・・・


「ユーティア君、どうしたんだい?」


先生がこっちを向いて、声を掛けてきた途端…


「えっ!?うそっ?  なんで・・・?」



シエル姉さんが素っ頓狂な声をあげた…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る