やり直し夫婦の冒険譚
@gfdlove
第1話 プロローグ
なんでこんなことになってしまったんだろう。
愛しているのは悠真だけだったのに・・・
大学二年の時に高校時代の友人に誘われた飲み会で知り合って、それから7年。
3年前に結婚して、ずっと幸せだったのに。
それで満足していれば、こんなことにはならなかったのに…
なんであんな馬鹿な事を思ってしまったのか、正直自分でも分からない。
半年前の会社の飲み会で2歳年下の後輩に誘われた。
「香原先輩って結婚してるんですよね〜。こんな綺麗な奥さん捕まえた旦那さん羨ましいっす!」
「そんなお世辞言ったって何も出ないわよw」
「いやいやお世辞じゃないですよ、本心ですって。旦那さんってアッチも上手なんですか?」
「えっ、アッチって?」
「またまた結婚してるクセに何言ってるんですかwセックスに決まってるじゃないですかw w」
私は悠真としか経験が無かった。上手いか下手かなんて比べる対象がないから分からない。
なんで私はその時、馬鹿正直に言ってしまったんだろう。
「そんなの夫しか知らないんだから分からないわよ。それ以上変な事言ったらいくらお酒の席でも怒るわよ。」
「えっ先輩、旦那さんしか知らないんですか?」
「だからもうその話はやめてって言ってるでしょう!」
「そんな怒らないで下さいよ〜。でも何か勿体無いですね。長い人生で1人しか知らないなんて。あっ俺としてみます?結構上手いって評判良いんですよw w」
「はぁ、何馬鹿な事言っているのよ。本当にこの話はもうお終いだからね。」
その時に少しだけ考えてしまった…悠真じゃないの人のセックスってどんななんだろう。
1人しか経験が無いっていうのは本当に勿体無いのかなって…
悪いことは重なるんだと思う…
今日、悠真は出張で家に居なかった・・・
飲み会が終わって会社の人達と別れた後、酔い覚ましに水を買おうとコンビニに立ち寄った。会計を済ませて店を出ると背後から声を掛けられた。
「香原先輩、お疲れ様です!」
後輩だった。
「なんであなたがここにいるのよ。若い子達と二次会に行けばいいじゃない。ほら今からでも間に合うわよ。」
「え〜、そんな事言わないで下さいよ〜。二次会よりも先輩の事が気になっちゃってw」
「何馬鹿な事言ってるの。私には夫がいるんだから、あなたなんか相手にしないわよ。」
「え〜、そんな風に言われたら寂しいですよ。
ねぇ先輩、一度だけ僕とやってみません?」
「・・・本当に怒るわよ。」
「一度だけですって。全然気持ち良くなかったら、これっきりにして、もう二度とちょっかい出しませんから」
・・・本当にこの時の私は馬鹿だったと思う。
しつこい後輩が面倒くさかったのもあった。
これ以上付き纏われるくらいなら、この一回だけ割り切ってしまえば、この面倒くささから解放される。後輩に愛情なんてまったく無いし。
それにセックスなんて人が違ったってそんなに変わらないだろうって思ってた。
私は悠真で充分気持ち良かったから。
あと…後輩のあの言葉が、胸の奥にずっと引っかかっていた。
『何か勿体無いですね。長い人生で1人しか知らないなんて。』
本当にそうなのかな。確かに女同士の席でも、そういう話題が出ることはあった。今回の彼氏はアレが上手いとかって。人によってはいたけど・・・
「・・・本当にこれっきりにするのね…」
この時、私は自らの手で、自分の幸せを壊してしまった…
もし今、自分の心臓を貫いてこの時に戻れるならば…私は一切の躊躇なく自分の胸をそこにある包丁で突き刺すだろう。
********
「あ゛ぁっ・・・、」
後輩とのセックスは気持ち良かった・・・
お互いに愛情なんか全然無いセックスなのに…
ただお互いにひたすら快楽を貪りあうだけ…
「お゛っ、ソコっ気持ちい゛っぃ!」
悠真なら、私を気遣って止める一線・・・
苦しさと気持ち良さの入り混じるラインを後輩は躊躇なく責め立ててくる。
気持ち良過ぎてツラいのに、止めてくれない…
「あっ、あ゛っ、っあ゛ぁぁー」
思いっ切りイッてしまい、身体が痙攣してる…
このセックスは悠真とのセックスとは別物だ…
「どうです、先輩。気持ち良かったでしょ?」
「別に・・・」
「じゃあ約束どおり俺からは、もう先輩に声掛けませんから。香原先輩がしたくなったら、声かけて下さいね〜いつでも歓迎ですからw」
不思議とその時の私には罪悪感が無かった。
まったく後輩に愛情が無かったからだと思う。
逆に私の中にあったストレスは発散されていて、スッキリしていた。
風俗に行く男の人もこんな気持ちなのだろうか?
そして悠真と早くセックスがしたくなった。
こんな愛情の無いセックスをしたことによって、皮肉にも私は悠真とのセックスが本当に気持ち良いんだという事を理解した。
お互いに相手を思い遣って、愛情を確かめながらする時間は心も身体も満たされる。
だからこれはただのストレス解消。
愛してる悠真には恥ずかしくて見せられない姿も、後輩相手なら気にしないで曝け出せる。
そして仕事でのストレスを解消すれば悠真に今までより、もっと優しく出来る…
そして私はそれから2週間に一回くらいの頻度で後輩と浮気を繰り返した。
********
私は今・・・悠真と私、2人だけの場所だったはずの自宅の寝室のベッドの上で、あられも無い姿で後輩と並んで呆然としながら座っていた。
私の目の前には最愛の人が立っている…
その目には涙が溢れていた・・・
「ちっ違うのっ!悠真っ、ごめんなさいっ!」
今日悠真は出張で帰って来ないはずだった…
「優奈、何が違うんだよ・・・」
「だって・・・、悠真勘違いしないでっ!これはただのストレス解消だからっ!愛しているのは悠真だけだからっ!」
「なんだよ、ストレス解消って・・・」
本当にただのストレス解消で、愛情は悠真にだけで・・・、どうすれば分かって貰えるんだろう・・・
横を向くと後輩が顔を歪ませながら、ニタニタと笑っていた・・・そして突然口を開いた。
「旦那さん、奥さんの言う通りですよ。俺はただセックスで満たされてない奥さんを抱いてあげてただけですって。」
咄嗟に悠真の方を振り向くと、唇を噛んで口から血を流していた・・・
また後輩が口を開く・・・
「奥さん、結構性欲強いんですよ。限界まで弄ってやるとすごい声で喘ぐんですからw俺は風俗嬢みたいなもんですよ。良かったら奥さんの弱い所とか教えましょうかw w」
コイツ殺してやりたいっ!くそっ黙れっ、黙れっ、黙れ!!
「もういいよ・・・お前は黙ってろよ。
なぁ優奈・・・、優奈は本当に俺の事を愛してるの?」
光を失った目で悠真がゆっくりと私に話し掛けてきた。
「当たり前じゃないっ!私が本当に馬鹿だったの、本当にごめんなさいっ!」
「じゃあさ、俺が優奈の浮気5ヶ月くらい前には気付いてたの知ってた?」
えっ・・・それって後輩と関係を持ち始めて直ぐじゃない。
じゃあ…今までずっと知ってたってこと?
なんで黙ってたの・・・?
「俺さ、ずっと優奈を取り返そうとしてたんだ・・・・でも…駄目だったみたいだね…」
「そっ、そんな事ないっ!私の心はずっとあなたにっ!」
「ならさ・・・、これでソイツの事を刺せる?」
悠真はそっと包丁を私に差し出してきた・・・
「えっ、・・・ウソでしょ…」
悠真はすごく寂しそうな目をして・・・
悲しい声で呟くように・・
「ウソだよ。優奈の事、許せなくてごめん。もし次会うことがあったなら、その時は一緒に幸せになりたいな。」
「えっ、待ってよ。何・・・」
「優奈、バイバイ・・・」
ひゅっ・・・
「あっ・・・ 」
悠真は、私の大好きだった人は・・・
なんの躊躇いも無く
自分の首を包丁で掻っ切った・・・
私の首じゃなく、悠真自身の首を・・・
プシャーーー
大好きな人の生暖かい血が私に降り注ぐ。
暖かった。
まるで真夏のスコールのように・・・
私の視界が真っ赤に染まる。
獄炎の中にいるような視界の中で、悠真が膝から崩れ堕ちた・・・
「はぁっ、何だよこれっ!馬鹿じゃねーのっ!どうすんだよっ!おいっ!」
あぁ・・・、私が悠真を殺しちゃったんだね…
こんな事になるなんて、全然思ってなかったよ・・・
「おいっ、ふざけんなよっ!これどーしたら良いんだよっ!テメーの旦那だろっ!」
悠真、本当に・・・・・、本当にね、
ただのストレス解消だったんだよ。
愛しているのはあなただけ・・・・
愛しい人の血の雨は止んだ。
私は立ち上がって悠真の元へと近づく。
途中でギャーギャー何かを喚いている物体を全力で蹴り上げて黙らせた。
前屈みに膝から崩れ堕ちた愛しい人の亡骸を抱きしめて・・・
少しずつ冷たくなっていく悠真の体温を肌で直接感じる。
「ァあ゛ぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぁあ゛ぁおぉ〜」
喉が潰れるまで泣き叫んだ・・・
**********
悠真のお葬式が終わり、私は悠真との思い出の詰まった自宅のダイニングで天井を見上げながら、ぼーっとしていた。
あれから思考が上手く回らない・・・
記憶もほとんど無い・・・
もし・・・
「もし次会うことがあったなら、その時は一緒に幸せになりたいな。」
あの言葉だけが頭の中をずっとぐるぐる回っていた。
「悠真…私ね、会いに行くよ。」
悠真が自殺した寝室に向かって歩いていく。
悠真を抱きしめていた場所に立って、
私は希う。
もう一度会いたい
ただそれだけを…
そしてゆっくりと目を瞑って
ナイフを胸に突き刺した・・・
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
そんなに性欲強かったら、旦那さんに相談するか女風俗に行きなさいよって話なんですけどね・・・
でも男娼は色恋営業がザラだから、多分このヒロインには向いてないですね。
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