第7話 ローレン家

あの後、午前中いっぱいダリル兄さんに稽古をつけて貰った。


ダリル兄さん、槍の才能があり過ぎだろ・・・

めちゃくちゃ疲れた・・・


午後からは森に向かうから練習着のまま、お昼ご飯を食べに食堂に向かう。


「ユーティア様っ、またそんな格好で!」


後ろから声を掛けられる。

向日葵を想像させるような元気のいい明るい声・・・アリシアさんだな。


俺が赤ん坊の時に世話をしてくれたレクシアさんの娘で、俺より6歳年上だ。


この世界では15才で成人とされる。

アリシアが成人した際に、今まで俺の身の回りの世話をしてくれていたレクシアさんに代わって、アリシアさんが俺の専属メイドになってくれた。


「アリシアさん、ごめんなさい!」


「もう、いくらローレン家が合理主義を家訓にしているとしてもですよ。仮にも辺境伯なんですから、礼儀作法はしっかりしなくちゃいけません!」


「そうだよね、着替えてくるよっ。」


*********


ローレン家は辺境伯として、実際にその役割をしっかりと果たしていた。


転生した世界は、魔族、獣人もいるかなりファンタジーな世界のようで、人族が支配している国が三ヵ国、獣人の国と魔族の国が一か国づつあって、以下のようになっている。


人族

ランスロット王国

エアリス神聖国

カタルニア帝国

魔族

アーク魔王国

獣人

ティグレス獣王国


ウチは王国の南西にあり帝国と獣王国に面している。


獣王国は広大な森林地帯となっていて、国として領土拡大は考えておらず、他の国に対しては我関せずを基本スタンスとしている。

だから獣王国とは、国境周辺の村でたまに起きる揉め事を治める程度みたいだ。


問題は領地拡大を目指している帝国で、小競り合いは毎年、数年に一回くらいの割合で割と大きな戦争に近い争いが起きている。


俺が転生してからは6歳の時に大きな争いが起きて、その時は1年くらい父は家を空けていた。


とにかく戦争にはお金が掛かる。

ローレン家の初代はもともと冒険者だったので、過度な贅沢を好まずそのお金があれば私設騎士団の増強や領地の整備に使うべきと考えていたらしい。

それでいつの間にか合理主義がローレン家の家訓となったみたいだ。


だから身嗜みについても、最低限をわきまえていれば両親からは特に何も言われない。


ただ流石に汗と埃で汚れてしまった練習着で、歩き回るのはどうかとアリシアは思ったんだろう。


前世の感覚を引きずっている俺には、そういう指摘はありがたい。

素直にアリシアの言う事を聞こう。


*********


急いで部屋に戻り着替えてから、食堂に向かう。

食堂に着くと、父を除く家族全員がもう席に着いていた。


「こら〜、ユーティア。皆んな、あなたを待ってたのよ〜。」


エリーゼ母さんに叱られてしまった。


「母さん、ごめん!着替えてたら遅くなっちゃって。あれっ、父さんは?」


「執務室に籠ってお仕事よ。さっきサンドイッチを持って行ったから、それ片手に頑張っているんじゃないかしら。」


義母のナタリアさんが答えてくれた。

続いて長兄のハリス兄さんが、口を開いた。


「俺も昼食を食べ終わったら、急いで父さんの手伝いに戻らなきゃだよ。

父さんがお前は皆んなと食べて来いって言うからさ。早く手伝ってあげなきゃ。」


去年成人を迎えたハリス兄さんは、次のローレン家当主となるべく父の補佐をしている。


うわー、皆んなを待たせてしまった事の罪悪感が・・・


「昼食の時間まではまだ後少しあるし、ユーティアが遅刻した訳ではないのだから、いじめるのはそこら辺にしておきましょうよ。」


シエル姉さん…、ありがとう(泣)

姉さんに向かって、無言で何度も頭を下げた。


「あはは、まったくユーティアったら。明日の稽古は少し厳しくしなくちゃかなぁ〜。」


ダリル兄さんがニコニコしながら言った…





皆んなで昼食を食べ終わった後、部屋に向かうと俺の部屋から洗濯物を抱えたアリシアさんが出てきた。


「あっ、ユーティア様!先程は申し訳ありませんでした。昼食に遅れさせてしまいました…」


アリシアさんが謝ってくる。


「ううん、そもそも俺が悪いんだし。それに時間に間に合わなかった訳じゃないから気にしないで。また気付く事があったら、遠慮なく言ってね。教えて貰う方が助かるからね!」


アリシアさんは、パッと笑顔になって大きな声で応えてくれた。


「はいっ、ありがとうございますっ!私、頑張りますねっ!!」


うん、やっぱり女の子は笑顔の方が素敵だと思う。


「ユーティア様はまた午後森に入られるのですか?」


「うん、また何か獲ってくるから楽しみにしててね!」


「ユーティア様が狩った魔獣を使用人や孤児院の皆に振る舞って下さるのは、とても嬉しいのですけど…あまり無茶をなさらないで下さいね。」


アリシアさんが心配してくれる。

けどそんなに危ない事はしていないので、心配かけて悪いなぁって思ってしまう。


ちなみに家族の皆んなは放任主義だ。

ちゃんとそれぞれの実力をある程度分かっているから、余程の無茶をしない限りは何も言わないのだ。


それに辺境伯邸のある町の近くにある森にはあまり強い魔獣は存在しない。

近くの森の食物連鎖の頂点はブラッディーベア。頂点だけあって数は少ないし、この世界の魔獣のランクでは強い個体でCってところだ。


「うん、分かってるよ。じゃあアリシアさん、着替えたら行ってくるね。」


「はい、ではいってらっしゃいませ。気をつけて下さいね。」



部屋に戻り、軽装鎧を身に着けて森に向かう。


町を出てからは全身に身体強化の魔法を使い、平原を森まで駆けていく。


森まで30kmくらいだろうか。


前世では考えられないスピード、30分位で目的地まで着いてしまう。


・・・身体強化って何属性の魔法なんだろ?

ダリル兄さんに教えてもらうまで、全然使えなかった…すごい感覚的なんだよなぁ。


初めて使えるようになった時は、身体と感覚が全然一致しなくて一歩も歩けなかった…

全身に身体強化を掛けて兄さんと闘えるようになるまでには半年掛かったもんな。




「今日はワイルドボア捕まえて帰りたいなぁ。まぁその前に練習、練習。」


独り言を言いながら、森の中に入っていく。

10分も歩くと目の前に開けた空間が広がる。


ここが俺の魔法の練習場だ。


円形に開けた空間の中心に立って指を鳴らす。


大地の槍 《アースランス》…


ボゴォッ!!


空間を取り囲むように先の尖った岩の柱が地面から勢いよく突き出る。

一本が直径1mくらい、高さは3mくらいだ。


「じゃあ今日も魔法の練習頑張りますかっ!」




************


レクシアさんの一件があった後、ハリス兄さんが忘れていった初級魔法入門の本を部屋に隠して、時間があればそれを読み込んで魔法の練習をした。


魔法の詠唱部分・・・

あれは現象をイメージしやすくするためだ。

詠唱を唱えると同時に自動的に頭の中にイメージが浮かんでくるようにする。


魔法名・・・

これはスイッチみたいなもので唱えた瞬間、イメージが現象として発現する。

その属性の魔法の才能がない場合は発現しないし、発現させる現象が複雑な程発現させるのが難しい。スイッチを押しても発動しないのだ。


そして魔力の消費は発現させる現象の大きさに比例する。


ベッドから出れない俺は、派手な魔法は使えなかった。

だから小さい現象をとにかく複雑なカタチで細部までイメージして、それを発現出来るように練習した。


例えばウォーターボールなら、普通はただの水の玉を想像するところを、俺は薄い水の膜の中で水流が高速回転をしているイメージで発現させる。


最初は詠唱しながらイメージして魔法名を唱えていた。

赤ん坊だから当然喋れないので、全部頭の中でだ。


そうやって練習して3回に1回くらい成功するようになった頃、ふと思った。


全部頭の中でやっているんなら、詠唱いらないんじゃないかな。


実際にやってみた。

イメージすることだけに集中しながら、魔法名を唱える。


(ウォーターボール)


ギュルンッ!!



おぉー出来た!!

そのままの状態を維持して、バケツに入れて魔法を解除する。


頭の中での作業が一つ減ったから、大分楽になった。

もう一度試してみる、成功。

更にもう一度、・・・成功。


おぉ〜、3回試して3回成功した。

嬉しくて、更に試そうとしたが魔力切れを起こして気持ち悪くなり断念。


次の日も3回成功したところで力尽きた。

更に次の日、4回目で魔力切れになった。


魔力量は増える事が分かった。


後はひたすら練習した。

毎日魔力切れを起こすまで。


ちゃんと発声が出来るようになった時には、

魔法名とイメージが頭の中でリンクして、魔法名を唱えるだけで魔法を使えるようになった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


魔法の設定って難しいですね。

頭の中のイメージを文字にして説明するのが、すごく大変です。

上手く出来ていると良いのですが…







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